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5

 そして二人はギルドにやってきた。

 まだざわついていたが、警戒解除の命令が届いているのだろう。冒険者たちは困惑しているようだった。


「ギルドマスターに会いたい」


 ラーシュは受付の女性にそう言う。受付の女性はシャルルの姿を見て目を見開いていたが、「かしこまりました」と言って席を立つ。

 しばらくすると女性が戻ってきて、「ギルドマスターがお会いしますので執務室までお願いします」と言って先導してくれる。


「いいか、シャルル。文句言っていいからな。ギルドの対応は最悪だ。押していけ」

「?」

「あー、分かってないなこりゃ。分かった。俺に任せておけ」

「? 分かった」


 何も分かっていないシャルルにため息を付きながら、ラーシュはギルドマスターの執務室にシャルルを伴って入る。

 書類に埋もれながらギルドマスターがラーシュに問う。


「ラーシュ。警戒解除の件は聞いて対応してるぞ? なんのようだ?」

「ジェイク。シャルルは知ってるな? シャルルへの対応について苦情を入れにきた」

「知ってるが……。苦情? 何もしてないだろう」

「そう、何もしていない。それが問題なんだよ。カオティックドラゴンの買取の件、オークションで金は後払いだって言ったって? もしかしてシャルルに交換札渡してないんじゃないか?」

「うぐ、交換札……、それは渡してないかもしれない。だが、カオティックドラゴンが近くに出たと思ったんだ。慌てちまって。それに、こんな印象深いお人なんだ。交換札がなくたって対応できる」

「そういうことを言ってるんじゃない。その上、他に買取に出そうとしたのをお前らギルド職員が聞かないからシャルルは困っちまってギルドを出たんだぞ?」

「だからカオティックドラゴンの件で忙しくなったから」

「言っておくがな、こいつは無一文だ。昨日お前らに金を一ガルも貰えなかったから飯も食えないで野宿したんだぞ? 可哀想だと思わないのかよ」

「何? お貴族様だろう? 金ならあるだろう」

「こいつは記憶喪失で貴族かどうかすら現状分からん。とにかく、分かってるのは記憶がない。無一文。さっきまで腹が減ってた。野宿した。この四点だけだ」

「う、そんな事情があるとは思わず……。悪かった」

「シャルルに謝ってくれ。で、カオティックドラゴンの金は貰えるのか?」

「それはオークション後になっちまう。それだったら他の獲物を出してもらうのがいいかもしれん。まだあるんだろう? シャルルさん」

「まだある」

「じゃあ解体室で確認しよう」


 ギルドマスター、ジェイクを伴って、一行は解体室へ向かう。

 解体室にはやはりサイツが居て、複数の男たちが待機していた。


「シャルルさん、他に何があるんだ?」

「青い鹿は一頭解体して少し食べたが、まだ何頭か残ってる」

「青い鹿? ブルーディアか? 出してくれ」


 ジェイクに言われてシャルルは透明な角が付いた青い鹿をにゅるっと空間から出す。


「アイテムボックス持ちか……ってこれは!!」

「クリスタルエルク!!」

「これは売れないのか?」

「とんでもねぇ!! これもオークションだよ!!」

「……」

「あ、あぁ。すぐに売れるものが欲しいんだったな。これはこれで欲しいんだが、オークションに出させてくれるか?」

「分かった」

「他には?」

「犬はどうだ?」

「ふむ。犬なら高くはならんだろう」


 再びシャルルが空間に手を入れて、にゅるりと黒い犬を出す。


「モーザ・ドゥーグ!! 馬鹿野郎オークションだよ!!」

「む、これもだめか」

「シャルル、大魔境……森の奥で狩ったのは駄目だ。近くで狩ったものにしろ」

「? 豚はどうだ?」

「ブタ? ブタってなんだ?」


 シャルルが三度空間に手を入れて、にゅるりと『豚』を出す。


「オークキング!」

「これもオークションだろうか……」

「あ、いや。これなら大丈夫だ。しかし、これはどこに居た? オークキングがいたなら集落が出来てる。他のもいただろう?」

「いっぱい居たからいっぱいある」

「シャルル、これは街からどれくらいの距離にいた?」

「? 五分ぐらいの所。二十キロメルトルくらい?」

「五分で二十キロメルトル移動できるところも気になるんだが……。集落は潰してきたんだろうな?」

「しゅうらく」

「あー、居たやつ全部狩ってきたか?」

「全部向かってきたから狩った」

「建物はそのままか?」

「? そのままだ」


 シャルルは何が問題なのか分からなかった。たしかに粗末な家をもつ豚たちは、集落らしきものを作っているといえば作っていた。

 だが、そのままだと何がいけないのだろうか。そうシャルルは考えた。


「あのな、シャルル。オークとゴブリンは集落を作る。そんでもって集落を潰さずにオークとゴブリンだけを狩っても、元の集落の建物が残ってると、すぐに新たな集落を作って群れる魔物なんだ。だから、集落を見つけたときは集落ごと潰さなきゃならない」

「知らなかった」

「だろうな」

「すまない」

「まぁ、一日二日で新しく魔物が集まってくることは稀だから、すぐに集落跡を潰しに行けば大丈夫だろう。だよな? ジェイク」

「あぁ。できれば場所を案内してもらえるといいのだが。報酬は出す」

「分かった」

「ちょうどカオティックドラゴンの件でAランクのパーティーがギルド内にまだいるはずだ。そいつらと行ってほしい」

「分かった。すぐに行くのか?」

「まてまてシャルル。昨日何も食ってないってことは食料は持ってないんだろう?」

「狩った魔物の肉が残ってる」

「保存食を持っていけ。それからテントとかは持ってるのか?」

「てんと」

「もしかして何も持ってないのか? あー分かった。今何を持ってるって聞いたほうが早いな。今何を持ってる?」

「着ているこの服と剣、それから狩った魔物」

「お前よくそれで二十日も大魔境と魔の森を生き残れたな……。つまりなんの準備もできてないんだな。ジェイク、Aランクはどのパーティーだ? パーティーの準備を使わせてもらおう」

「ランドンのところの暁の獅子だ。多分一人ぐらい増えても大丈夫だろう。交渉してくる」

「よろしく頼む。できるだけ早く出発したほうがいいし、それにシャルルに準備をさせると一からだから時間がかかるからな」


 すぐ行くことに決まったらしい。シャルルは再びギルドマスター、ジェイクに連れられて執務室に戻る。


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