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「それで?」
「?」
眼の前でもぐもぐとシチューを食べるシャルルに、ラーシュは問いかける。
「なんでカオティックドラゴンなんて狩ってる」
「襲ってきたから返り討ちにした」
「ありゃ幼竜でもAランクが複数パーティーで狩る魔物だぞ?」
「えーらんく」
「はいはい、分かってないんだな。カオティックドラゴンはどこに居たんだ?」
「魔の森?」
「ここからどれくらい行ったところだ?」
「二十日と少し行ったところ。距離でいうと一万キロメルトル(=キロメートル)くらい?」
「は? 二十日で一万キロメルトル? そんなに移動できるわけねーだろ」
「身体強化して走ってた。ちゃんと移動できる。地形把握スキルで計算したから間違いない」
「一万キロメルトルってことは……お前! くっそ、それもう魔の森じゃなくて大魔境の最奥じゃないか!! そこにカオティックドラゴンがいたのか?」
「大きな木の一キロメルトル先だ。すごい木なんだぞ、他の木より数十倍大きい」
「……まさか、世界樹か?」
「?」
「分かった。よーく分かった。このバカ!! 森の中っていうから、大氾濫が起きるかもって大慌てだったんだぞ!! そんなに距離があるなら警戒する必要もないわ!! くそ、一万キロメルトルを二十日で走破? バケモンかよ」
「?」
「はいはい、分かってない顔だな。飯食ってろ! おかわりもしていいからな!」
「! ありがとう!」
とにかく先に、この街の警戒を解いてくるのが先だ。
ラーシュは領主とギルドに手紙を書いて騎士に急いで届けるように指示を出す。
内容はこうだ。
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荒唐無稽かもしれないが、カオティックドラゴンを狩った本人はこの街から一万キロメルトル先、大魔境の最奥で狩ったらしい。
街には影響はないだろうから警戒態勢の解除を求む。
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ラーシュは書いていて、馬鹿らしくなってしまった。
手紙を急いでしたためて、シャルルの元に戻るとシャルルはまだ飯を食っていた。
シャルルを別室に通したときと同じ、精霊が集まっていると報告してきた騎士が配膳しながらラーシュに気づいて言う。
「団長。おかえりなさい。結局問題なかったそうですね。それにしてもシャルルさんすごいですよ。この人めちゃくちゃ食います」
「とてもおいしい。初めて食べた」
「まだありますからね。ゆっくり食べてください、シャルルさん」
「ありがとう」
「はーーー。とにかく、飯食ったら冒険者ギルドに行くぞ。そんで、金貰わないとな。貰えなかったら俺がまたいくらか貸すから」
「! ありがとう!」
「はいはい。ゆっくり食えよ」
幸せそうにシチューとパンを大量に平らげるシャルルを、呆れた顔でラーシュは見つめた。