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3

 ラーシュは驚いていた。

 やっぱり気になって、冒険者ギルドに様子を見に行ったら蜂の巣をつついた状態になっていたからだ。

 慌てている冒険者やギルド職員に聞けば、カオティックドラゴンが森の中で見つかったという。

 カオティックドラゴンは混沌竜。魔物を狂わせるオーラを持っており、カオティックドラゴンがいる範囲の魔物は分布が著しく変わるし凶暴になる。そうした結果、大氾濫スタンピードを起こし、人がいる街を襲うことがあるのだ。

 事を重く見たラーシュは更に事情を聞くと、カオティックドラゴン自体はすでに討伐されており、その討伐者はなんと「シャルル」という名前のやたら美人な銀髪翠眼の声が激渋な貴族風の男だったという。

 やってくれたな、シャルル。とラーシュは苦虫を噛み潰した気持ちになった。

 事情を問いただそうとするも、ギルド内にすでにシャルルは居らず、慌てて教えた銀の精霊亭に行ったがそこにもシャルルは居なかった。

 騎士たちを使って虱潰しに宿屋を探すも、シャルルはどこにも泊まっていなかった。

 何処かへ消えてしまったのだ。

 とにかく、領主である父の指示もあって、騎士団の中でも調査班を結成し、明日から調査に当たらせることにした。

 同時に、見回りの担当をしている騎士たちにシャルルの見た目を伝えてシャルルを探すように指示する。

 夜も動き回って寝られなかった。

 次の日、眠い目をこすりながらも調査班を送り出して、見回り班にシャルルが見つかったか確認する。シャルルは見つかっていなかった。

 そして、奇妙な報告を聞いた。


「何? 街の中の自然公園の一角にやたら精霊があつまってる?」


 その報告を持ってきたのは、偶然にも昨日シャルルを別室に通した騎士だった。


「そうです。なんかもうすごい光ってて魔力量の少ない街の人間にも見えているようですよ」

「あー! なんでこうも問題ばっかり起きるんだ!」

「精霊だから大丈夫じゃないですか?」

「いや駄目だ。そんなに集まっているなら確認しにいかないと。下手すると大量の精霊を怒らせて大惨事になりかねん」

「場所は分かるんで、案内します。俺じゃ精霊は対応できませんし」

「頼む」


 ラーシュは騎士に着いていき、自然公園までやってきた。

 どよめく街の人間の間を縫って、現場に到着する。


「うぉっ!! 眩しっ!!」

「ね、やばいでしょう?」


 街の人間が遠巻きに見守る中、ラーシュは慎重に精霊の塊に近づいた。途中、苦手な精霊語で語りかけながら。


『敵ではない。どうした?』


 すると、口々に精霊がラーシュに語りかけてくる。


『寝ているのよ』

『そう寝ている』

『気持ちよさそう』

『でも少し悲しいの』

『そうよ、少し悲しいの』


 ラーシュは疑問に思った。精霊たちの話し方はいつも要領を得ず、何が寝ているのか何が悲しいのかわからない。

 精霊たちはラーシュが敵でないとわかったのだろう。すっと通り道を作ってくれる。

 そこには、ベンチで寝転ぶシャルルの姿があった。


「シャルル! なんでこんなところに!!」

「?」


 ラーシュが慌てて駆け寄ると、ラーシュの声に気づいたシャルルが起き上がる。

 くしくしと目をこすって、シャルルがぼんやりとラーシュを見る。


「銀の精霊亭に泊まれって言っただろう! 何故居ないんだ!」

「ギルドでお金をもらえなかった」

「はぁ!?」

「カオティックドラゴンというのを買取に出そうとしたら、オークションだからお金は後だと言われてしまった。他のものも出そうと思ったら、皆忙しくなってしまって話を聞いてもらえなかった」

「ギルドの連中~~~!!」


 まさか、まだシャルルが無一文のままだと思っても居なかったラーシュは、対応の悪いギルドに腹を立てた。

 ラーシュが怒鳴り込みに行こうとしたその時、シャルルの腹がぎゅるる、と鳴る。


「シャルル、いつから食ってない」

「? 昨日、門に並んでいる最中にバゲットサンドとクッキーと飴と干し肉をもらった。それ以降食べていない」

「はぁ~~~~~」


 シャルルが昨日門に並んでいたのは午前中だ。今はその次の日の午後。それは腹も減るだろう。

 とにかくシャルルにも話を聞きたかったのだ。シャルルの腹を満たしつつ、話を聞こう。ラーシュはそう思った。


「シャルル、飯、食いに行こう」

「だが、お金がない」

「騎士宿舎で食べればいい。金はいらん」

「! いいのか!?」

「あぁ」

「ありがとう!」


 ラーシュは思った。

 シャルルは、迂闊すぎるし純粋すぎるし人に騙されそうだ、と。



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