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 門にて。シャルルを見送ったラーシュは少し不安げに道を行くシャルルを見ていた。


「で、どこのお登りお貴族さんだったんですか、団長」

「それがなぁ……」


 シャルルを別室へ通した騎士が、団長であるラーシュに問いかける。


「なにか事件に巻き込まれたらしく、魔の森で目を覚ました記憶喪失で、家名もわからんときた」

「えぇ!? それ、大丈夫なんですか? 保護したほうがいいのでは?」

「いやぁ、魔の森の魔物を無傷で狩っていたようでな。自分でギルドに行って金を得る予定だったようだから、そのまま行かせた。だが、様子は見ておいたほうがいいだろうな」

「そうですか。いやぁそれにしても顔が整った方でしたね。シャルルさんでしたっけ? 貴族でもあそこまで人形のように顔が整っている方、初めて見ましたよ。最初俺、男装の麗人かと思って話しかけたら、激渋の声が返ってきてびっくりしました。男なのに美人って迫力ありますね」

「あんな顔してたら社交界で噂になりそうなんだがな。俺も一応貴族だし、そういう噂は入ってくるんだが。銀髪翠眼のどちゃくそ美人な激渋声の二十代っていったら、若い女性の間で取り合いになりそうなんだがな。しかも精霊がかなり付いていた。あれは魔力量もかなり高いぞ。かなりいい仕立ての服を着てたし、高位貴族だと思うんだが……」

「嫌ですね団長。一応貴族って。団長公爵家の人間でしょ。一応どころかバリバリの貴族じゃないですか」

「でも俺は三男だからな。貴族の三男なんて、『一応』貴族で間違いないぞ」

「爵位も持ってるくせに」

「領地のないおこぼれ子爵位だけどな」

「ま、そういうことにしておきましょう。しかしねぇ、絹糸のような銀髪に、深緑の魔石のような翠眼。肌も吹き出物なんてもってのほかっていうようなシルクみたいな感じに見えましたし、あのプロポーション。腰細いなーって思って女性だと思ったんですよ。それで無傷で魔の森ですって? やばくないですか?」

「やけに褒め称えるなお前。多分、気配察知のスキルでほとんど避けていたとか、そういうんだろうとは思うが、いくらか魔物を狩ってきてるってことはそれなりの実力者なんだろうな」

「とりあえず、見回りに出る奴らには気にかけるように言っておきますね。絡まれたら可哀想ですし」

「そうしてくれ」


 ラーシュと門兵は、このシャルルがこの後色々な波乱を引き起こしてくれるとは、このとき夢にも思っていなかった。


◇ ◇ ◇


 一方その頃、冒険者ギルド。

 シャルルが冒険者ギルドの入り口を通ると、騒がしい冒険者ギルドの中が一瞬にして静かになった。

 シャルルが小首をかしげると、途端にザワっと周りがざわめく。

 シャルルは何故みんながざわめいているのかよくわからなかったが、とりあえず自分の狩った獣、いやラーシュは魔物と言っていた。魔物を買取に出して金銭を得たいので、入り口の近くの少年に声をかけた。


「少し聞きたいのだが」

「ヒャイィ!? な、なんでごじゃいましょう!?」

「魔物? を、買取に出したいのだが、どうすればいいのだろう」

「か、買取でしゅか!? ひゃい! あちらのカウンターで言っていただければ大丈夫だとおもいましゅ!!」

「分かった。ありがとう」

「ひぃぃ!」


 少年は叫ぶと、急いでシャルルから離れてギルドの隅に行ってしまう。シャルルはどうしたのだろうか、と思ったがとりあえず買取をお願いすべく、カウンターに並ぼうとする。

 すると、どうだろう。

 並んでいた冒険者であろう装備をした人々は、「お先にどうぞどうぞ」と全員列を譲ってくれた。

 シャルルは思う。なんて優しい人達だろうと。

 シャルル一人がこの異様なギルド内の雰囲気に気づかないまま、シャルルはカウンターの職員に話しかけた。


「魔物? を買取に出したいのだが」

「え!? 声渋っ!! 男性!?」

「? 私は男だ」

「はっ!? 申し訳ありません!! 魔物の買取ですね。どちらに保存してますか? マジックバッグですか?」

「イン……アイテムボックスの中に入ってる」

「アイテムボックス!? 希少スキルじゃないですか!?」

「?」

「はっ!? 申し訳ありません!! では、数がお有りでしょうか?」

「それなりにあると思う」

「それでは解体室に参りましょう!」


 ギルド職員の女性についていって、シャルルは解体室へやってきた。

 ゴリゴリマッチョな男たちが休憩しているのか椅子に腰掛けていたが、シャルルを見るとぎょっとした顔をする。


「おいおい、リアちゃん、この御方は……」

「サイツさん、買取希望のお方です。えーと、お名前を伺ってませんでした。なんというお名前でしょうか?」

「シャルルだ」

「シャルル様。こちらに獲物をお出しいただけますでしょうか」

「分かった」


 シャルルが空間からにゅるっと獲物をだす。

 どーん、と地響きを持って取り出されたのは、黒い竜だった。


「か、か、か」

「か?」

「カオティックドラゴンじゃないですか!!!!」

「うわーーーー!!」

「?」

「ど、どちらでこれを!!」

「? 森の中だ」

「森!? 大変!! ギルマス呼んできて!! カオティックドラゴンが森にでたわ!!」


 ギルド職員の女性、リアというらしい。リアが解体室の扉を乱暴に開いて大声でホールに呼びかける。

 ホールは蜂の巣をつついたような騒ぎになった。冒険者たちが叫びを上げて街の冒険者を集めてくるように言い、ギルド職員が叫びをあげギルドマスターを呼び、わちゃわちゃと動きだした。

 そしてすぐにギルドの二階からドタドタと誰かが降りてくる。ゴリラのような体をした、スキンヘッドの男だった。


「カオティックドラゴンが出たって!? 森のどこだ!!」

「それが、カオティックドラゴンは討伐されていて!!」

「だとしても、カオティックドラゴンは魔物の分布を乱して大氾濫スタンピードを呼ぶ! どこに出た! 討伐者は誰だ!!」

「討伐者はこちらのシャルル様です!!」

「ん? 貴族か? どこで出たんだ!!」

「?」

「部下が狩ったのか!? カオティックドラゴンが出た場所を教えてくれ!!」

「カオティックドラゴンというのは今出したこの黒いのか?」

「そうだ!!」

「これは、ここからこの方向に二十日と少し行った、すごく大きな木の近くで襲ってきたので返り討ちにした」

「魔の森にいたのか……。すごく大きな木?」

「あぁ、他の木より何十倍も大きかった」

「魔の森にそんな目立つ木あったか? それに襲われた? あんたが倒したのか? どうやって」

「? あったぞ。すごく大きな木だ。てっぺんが見えなかった。私が倒したぞ。どうって……剣で首元をズバッとした」

「ギルマス、たしかに、首に切れ目があります!」

「あんた……見かけによらず、強いんだな……」

「?」

「まぁ、いい。見たところ幼竜のようだし、二十日も行ったところにいたんだったら直ぐ様大氾濫スタンピードが起こるわけでもないだろう。冒険者の依頼に、調査を増やして対応しよう。リア! 依頼を作成してくれ!」

「はい! ギルマス!」


 ギルマスとやらに言われて、リアが解体室を飛び出していく。ホールで何事かを説明すると、冒険者たちは一様に安堵したようだった。

 しかし、シャルルは思う。買取はしてもらえないのだろうか、と。買取をしてもらえないとお金をもらえない。


「買取はしてくれないのか?」

「馬鹿野郎! カオティックドラゴンだぞ! しかもこんな綺麗なんだ、オークション行きに決まってるだろう!」

「おーくしょん」

「ギルドでオークションにかけてやる。金はオークション後に支払われる。こんなに綺麗に狩られてるんだ。きっととんでもない値段が付くぞ! 忙しくなる!」


 そう言うとギルマスとやらは、大急ぎで解体室を出ていった。

 サイツと呼ばれた男は、他の男たちとどう解体するかでぎゃいぎゃい話している。


「少し聞きたいのだが」

「カオティックドラゴンだぞ!? 剥製にしたって価値はある。流れる血一滴にすら! しかもめちゃくちゃ新鮮だ! ドラゴン解体の専門家なんてこの街にいたか?」

「どうしましょうサイツさん! この街じゃ解体できませんよ! 下手な解体したらいろんな方面からドヤされますよ!?」

「あの」

「分かってる!! とにかく一番高い、時間停止機能付きの秘蔵のアイテムバッグがあっただろう! あれに入れるぞ!」

「でもサイツさん、あれで入るでしょうか? あれ、容量めちゃくちゃ小さいですよ!」

「買取」

「ぐわー!! 遅延機能付きの一番いいやつ出せ!」


 シャルルは困った。男たちが一切話を聞いてくれない。

 仕方がないので解体室から出て、シャルルは他のギルド職員を捕まえようとした。


「少し聞きたいのだが」

「Aランクの冒険者は今街に誰がいるの!? リスト作って!」

「あの」

「Bランクにも声を掛けなければ! 領主様への使いは出した!?」

「買取」

「依頼書を作成中よ! もうちょっと待って!!」


 結局こちらも誰もシャルルの話を聞いてくれそうにないので、シャルルは諦めて冒険者ギルドを出ることにした。

 なにせ、冒険者の方もシャルルのことなど見てはおらず、緊張した面持ちで必死に情報交換をしていたからだ。

 シャルルは買取をしてもらえず、お金を手に入れることができなかった。

 どうしよう、このままではラーシュが教えてくれた銀の精霊亭とやらには泊まれない。

 シャルルは途方にくれた。


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