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 シャルルは森の中を肉体強化魔法を使って走り回った。

 途中、攻撃的な動物に襲われた。だが、予想通り剣技はできたのでそれで倒した。

 解体の仕方もわかったので、透明な角の付いた青い鹿のようなものは解体して、食料にした。

 いろいろな動物に襲われたが、全て返り討ちにしてインベントリにしまった。

 知識が正しければ、街に行ければお金というものに交換することができ、そのお金と交換でいろいろなものが手に入ると思ったからだ。

 着の身着のままで目覚めたが、インベントリには襲ってきた動物が順調に溜まっていった。

 調理器具はないものの、なんとか剣で解体した青い鹿を木の枝に挿して、焚き火で炙って食べて空腹をしのいだ。

 数日立つと服が汚れてきたが、知識の中にある生活魔法という魔法で、クリーンという汚れを綺麗にする魔法があったのでそれをかけたら服も髪も体も綺麗になった。以降、シャルルは一日一回はクリーンで体を綺麗にした。

 そうやって二十日後ほどに、ようやく人が暮らしている街であろう場所に到達した。

 高い壁に囲まれたそこは、入る場所が決められているようで、一部に長蛇の列ができていた。多分そこに並べばいいのだろうと、シャルルも並ぶ。

 シャルルが列の最後尾に並ぶと、最後尾にいた荷馬車を引いた男がぎょっとした顔をした。

 シャルルは不思議に思って首をかしげる。

 荷馬車を引いた男が、恐る恐るシャルルに話しかけてくる。


「……なぜこちらの列にならぶのでしょう?」

「? あの壁の中に入りたい。この列に並ぶのだろう?」

「しかし貴方様は……」


 男がいいかけたところで、シャルルのお腹がぐぅう、と大きな音を立てる。シャルルはお腹に手を当てる。

 お腹が減ったが、ここで焚き火をして肉を焼くと迷惑になりそうだというのは、さすがにわかった。でもお腹が減った。

 どうしよう、と考えていると男が「お腹が減っていらっしゃるので?」と声をかけてくる。

 こくりとシャルルが頷くと、荷馬車の男は微妙な顔をして、自分の荷物を漁った。


「こんなものしかありませんが、よろしければ」

「? くれるのか?」


 荷馬車の男が取り出したのは、シャルルが見たことのないものだった。でも、知識ではわかる。これは、おそらく「バゲットサンド」だ。見たことはないが多分パンというものに、肉のようなものと葉っぱが挟まっている。


「この分だと時間がかかりますからね。よろしければどうぞ」

「ありがとう」


 くれるというので、シャルルはそのバゲットサンドであろうものを受け取って早速口に運ぶ。

 小麦のいい香りと、甘辛い肉、そして葉っぱのシャキシャキ感がシャルルを襲った。

 シャルルはそれはそれは美味しそうにそれを食べ、荷馬車の男に礼を言った。


「ありがとう。こんなに美味しいものを食べたのは、『初めて』だ」

「そんな大げさな。ただのサンドですよ」

「でも初めて食べた」

「はぁ、きっと俺たちの知らないようなお食事を普段されているんでしょうね……」

「?」


 シャルルには荷馬車の男が言っている意味がよくわからなかった。少しかんげて「確かに味の付いた肉を食べたのは初めてだ」と思いつく。シャルルは荷馬車の男に頷いた。

 荷馬車の男はその後も甲斐甲斐しく、シャルルを世話してくれた。時には味の付いた水(薬草茶と言っていた)をくれたり、「クッキー」と呼ばれる甘いものももらった。

 シャルルにとって、全てが初めてだった。シャルルはその度に驚き、シャルルが驚いた様子に荷馬車の男は驚いていた。

 そうやって過ごしていると、周りの人々もシャルルに構い出した。

 恰幅のいい女性に「飴」と呼ばれるものをもらった。シャルルはなんのためらいもなく口に入れると、その甘さに驚いた。美味しかったのだ。恰幅のいい女性も驚いていた。

 女性と一緒に居た小さな少女はお花をくれた。これをどうするのかと聞いたら「頭に飾って」と言われたので頭に飾った。少女は「とても綺麗」と喜んでいた。

 またぐぅ、とお腹を鳴らすと今度は剣を下げた革鎧の男が干し肉をくれた。一生懸命齧っていると、凝縮された旨味が口に広がって美味しかった。革鎧の男は「いい干し肉買っといてよかった」と笑った。

 だんだん列が前へ進んでいく。すぐ前の荷馬車の男が「また機会がありましたら会いましょう」と言って街の中に入っていくと、シャルルの番になった。

 揃いの金属鎧を着て槍を持った男が二人、門で何かをしているのをシャルルは荷馬車の男の後ろから見ていた。

 金属鎧の男たちは、「次!」といって進み出たシャルルにぎょっとした顔をする。

 そして恐る恐るシャルルに聞いた。


「な、なぜこちらの門を使っているのですか?」

「? 街の中に入りたい。なので並んだ」

「しかし、貴方様は貴族門の方に並ぶべきでは?」

「並ぶべき場所が違っていたのか? すまない、別の列だと思わなかった。並び直す」

「あぁ、いえ! もうここまで来ていますから、構いませんよ。お待たせして申し訳ないと思っただけで」

「? そうなのか」

「はい。あの、そうなのですが、一応この門の規則なので確認はさせていただきます」

「? わかった」

「申し訳ありません。こちらの水晶に手をおいてください。こちらは犯罪者を調べるものですが……」

「これに手を置けばいいんだな?」

「は、はい!申し訳ありません……」


 シャルルは金属鎧の男が何故謝っているのかわからなかったが、素直に水晶玉に手を置く。

 ぽわ、と青色に水晶玉が光った。


「そうですよね、青に決まっていますよね」

「青だと問題あるのか?」

「いえ、問題ありません」

「通っていいのか?」

「一応、お名前と滞在理由をお聞きしているのですが……」

「シャルルだ。滞在理由は、狩った動物を換金して、買い物をしたいからだ」

「は? 狩った動物を換金して買い物?」

「駄目なのか?」

「あ、いえ、結構です。入街税として、大銅貨1枚、500ガルを頂いています」

「……」

「あの……?」

「街に入るのに、お金がかかるとは知らなかった。どうしよう。お金を持っていない」


 シャルルは泣きそうになった。街に入るにはお金がかかる。お金を稼ぐには街の中で獣を換金しなければならない。でも街に入るのにはお金がかかる。堂々巡りだ。


「あの、差し支えなければ何があったのかお聞きしても?」

「?」

「別室にお願いします」

「わかった」


 シャルルは金属鎧の男に連れられて、壁の中にある部屋へと通された。

 しばらくすると、お茶が出された。それを飲んで大人しく待っていると、先程とは違う金属鎧の男がシャルルの部屋に入ってきた。


「おまたせした。この街の騎士団長のラーシュ=オロフ・カールフェルトだ」

「シャルルだ」

「で、金を持ってないのに街に入ろうとした挙げ句、平民門の方に並んだって?」

「そうだ」

「なんで平民門に並んだんだ?」

「私が並んでいた列はどうやら私が並んではいけなかったらしい。知らなかった」

「うーん、金を持ってないのは?」

「お金は知識としては知っているが、見たことはない」

「まぁ、そうだろうなぁ……」

「街に入るのにお金が必要と知らなかった」

「まぁ、そうだろうなぁ……。なんで街の外にいたんだ? どこから来た?」

「? 街の外からきた。だから外にいた。どこからといわれると、森?」

「森? どこの」

「この方向の、二十日と少しかかる方向だ」

「は!? 魔の森から来たのか!? 従者や護衛は!?」

「じゅうしゃ」

「一人で来たのか!?」

「一人で来た」

「なんでそんなところから来たんだ!?」

「? 街には人がいるだろう?」

「そうじゃない、なんでそんなところにいた!」

「? 気がついたらいた」

「気がついたら!? 事件に巻き込まれたのか?」

「じけん」

「えーと、その前はどこにいた?」

「そのまえ」

「まさか、記憶が無いのか? 魔の森にいた以前の記憶は?」

「ない」

「じゃあ、自分が貴族かわからないっていうのか? 俺は、貴族かと思ったんだが」

「きぞく」

「あーその様子だとわかってなさそうだな。そんなお綺麗な服を着てお綺麗な顔をしているのは貴族だけだ」

「?」

「名前はシャルルといったな。家名はわかるか?」

「かめい」

「あー、分からないんだな。分かった分かった。こっちで貴族に行方不明者が出ていないか調べておこう」

「……私は街に入れないのか?」

「いや、流石にこれで放り出すほど鬼畜じゃない。犯罪者選別水晶は青だったと聞くし、滞在理由も分かる。俺が建て替えるから街に入ってもいい」

「そうか!」

「お、おう」


 金属鎧の男、ラーシュはとても優しい人間のようだ。お金を立て替えてくれる。シャルルはそう思った。


「金を返すのは生活が安定してからでいい。……というか、荷物を持ってないように見えるが換金予定の獣ってのはどこにあるんだ? そのバッグ、マジックバッグか?」

「いや、これはただのバッグだ。何も入っていない。時間停止もついていないからな。獣はインベントリに入ってる」

「インベントリ!? アイテムボックスじゃなくて!?」

「インベントリだ」

「は~、伝説のロストスキルじゃないか。それを持ってる貴族ってなれば、すぐ見つかるだろう。……あ、いや、もしかしたら秘匿情報かもしれんな。うーん」

「インベントリは駄目なのか?」

「うーん……記憶もないんだし、周りにはアイテムボックスって言っておいたほうがいいぞ? アイテムボックスでもかなり珍しいがな。そんでもってできれば時間停止のマジックバッグのフリをした方がいい」

「わかった」


 アイテムボックスというのは、インベントリと違い、容量に限界があるし時間停止もついていない、いわばインベントリの下位互換スキルだというのをシャルルは知っている。

 シャルルには何故だか分からなかったが、優しい男、ラーシュがいうにはインベントリは周りに知られるとまずいというのだからそうしたほうがいいのだろう。シャルルはその忠告に従うことにした。


「とりあえず、これが仮発行の滞在証だ。街に滞在するには、どこかで身分証明証を作らないとならない。無傷で魔の森の獣……これ多分、自分で気付いてないだけで魔物だよな? 魔の森の魔物を倒せるなら、冒険者ギルドに登録するといいだろう。あそこなら、詮索はされないし、登録も楽だ。本当なら保護したほうがいいんだろうが……」

「ほご」

「あー、分かってないな? まぁいい。宿は銀の精霊亭に泊まるといい。魔の森の魔物を売るんだから、それくらいの金にはなるだろう」

「分かった」

「冒険者ギルドは中央の通りを行ったところにある。門を入って道なりに行けば分かるから」

「分かった」

「大丈夫かなぁ……。心配だが、何かあったらまた門のところに来てくれ。あと、ギルドに登録して身分証明証ができたら、仮発行の滞在証は門に返しに来てくれ」

「分かった」

「じゃ、俺はお前さんがどこの貴族か探しておくから。たまに門に顔を出してくれると助かる」

「分かった」

「これから辛いかもしれんが、何とかするから。それまでどうにか生活してくれ」

「分かった。ありがとう」


 そんなやりとりをした後、シャルルはラーシュと分かれ街の中に入った。

 人がたくさんいてシャルルは驚く。街の人たちも、驚いたシャルルに驚いているようだった。よくわからないが、それぞれ近くの人間とヒソヒソ話をしていた。

 シャルルは首をかしげつつ、冒険者ギルドに向かった。


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