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「シャルルさん。交代だって」


 眠っているシャルルにランドンが声をかける。その瞬間、シャルルは一気に覚醒した。


「起きた」


 返事をしていそいそと寝袋から出るシャルル。ランドンはそれをみて「本当にすぐ起きるね。助かるよ」と笑っていた。

 すでにサシャが起きていて、お茶を入れていた。シャルルがサシャとランドンの間に座ると、お茶を渡してくれる。


「体を温めるお茶です。夜は冷えますからね!」

「ありがとう」


 元気いっぱいのサシャも、夜はちょっと声が控えめだ。

 パチパチと音を立てながら燃える焚き火を眺めながら、シャルルは周囲の気配を探る。


「特に周りに魔物は居ないようだ」

「気配察知かな? 俺もできるけどシャルルさんはどれくらいの範囲気配察知できるの?」

「頑張れば十キロメルトルは。今は一キロメルトルしか見てない」

「一キロメルトルも察知できれば十分だよ。本当に規格外だなぁ」


 呆れたようにランドンが言う。

 普通、気配察知ができる人間でも五百メルトルが限度なんだと。だから視認しやすい平野や丘ではなく、障害物が多い森で重宝されるスキルなんだとランドンは言った。

 シャルルはそういえば、と思いついて二人に話題を振る。


「ビーがすぐに起きられないと言っていたがあれはどういう意味だ?」

「言葉そのままの意味だよ。ヴァレッツィは本当に朝が駄目でね。起こしてから覚醒するまでにめちゃくちゃ時間がかかるんだ」

「どんなに長く眠っても朝だめなんですよね、ヴァレッツィさん。いつもぐずってますよ!」

「まぁ体質だろうね。体質と各自の持ち職のバランスを考えると、大体いつもマルコとヴァレッツィが前半、俺とサシャが後半見張りするんだ」

「なるほど」


 その他にもシャルルは色々な事をランドンとサシャに聞いた。

 例えば冒険者の掟。冒険者同士で争わない、狩り場の横取りをしない、魔物をなすりつけない、野営地で互いに干渉しない。

 例えば美味しいお店。ラース(ご飯)が美味しいお店、パンが美味しいパン屋、惣菜を買えるお店、シチューが美味い飯処。

 例えば街のこと。風呂がついている宿は珍しいので大抵は公衆浴場に行く。怪我は教会で直す。病気は薬師ギルドが抱えている病院がある。あの街の名前はデラディアでカールフェルト公爵領。

 シャルルは次々と出てくる新情報に目を輝かせた。知識はあると言ってもすり合わせが必要だし、常識的なことは一切分からなかったのだ。

 シャルルの中にある知識は、どちらかというと生活に則したものではなく、世界の理に近いことばかりだった。

 例えば魔物の生態や、魔法の仕組み、精霊の生態、植物の生態。そういったものが多かった。

 それ故に暁の獅子たちが話す生活に則した知識はシャルルにとって目新しく、楽しいものだった。

 それにランドンたちも気づいたのか、色々と教えてくれる。


「シャルルさんはあれだね。生活に関することの知識が抜けてる感じなのかな」

「森の人って感じですね!」

「森の人?」

「あぁ、エルフのことだよ。今でこそかなり街に出てきているけど、大体は森林の奥に済んでいて原始的な生活を送っていると聞くからね。それでも人族の小さな村とかに比べると、魔法とかで便利に暮らしているんだろうけど」

「エルフか」

「僕はシャルルさんのこと、最初エルフ族だと思いましたよ! というか、混じっているかもしれませんよね?」

「何故だ?」

「だってすごく綺麗な顔立ちをしているし、ヴァレッツィさんいわく精霊との親和性も高いんでしょう? エルフは精霊と人間が交配した種族といわれていますから!」

「? それは間違いだ」

「そうなのかい?」

「うん。エルフが精霊と親和性が高いのは、種族柄魔力が高く魔力の質が良いものが生まれやすいからだ。精霊は魔力が高く質が良い者を好む。それは自分の存在進化を進めるのに効率が良いからだ。別にエルフでなくても構わない。人族の中にも精霊と親和性が高いものはいるだろう?」

「へぇ、そういう話は初めて聞くな。存在進化って?」

「それぞれ精霊は自分の存在を大きくするために色々な魔力を吸っている。人間の中で分類があるかは分からんが、小さきもの、中くらいのもの、大きなものと居て、大きなものを目指すんだ。大きなものになると分化してまた小さきものたちに分かれる。魔力が多くて質の高い者を好むのは、いわば精霊が繁殖行為をしているようなものだ」

「はぇ~、精霊って繁殖するんですね」

「そうだ。そして自然が成長するとともに消費されて、消える。あるいは魔力の消費が起こったときに、それに合わせて消える。これが精霊の生態のサイクルになる」

「魔力の消費でも精霊が消えるんですか!?」

「基本的には無いが、大きな魔力消費が起きたときは、空気中の魔素を補う形で精霊が消費されることがある。精霊という存在そのものが魔素の塊だからな」


 シャルルが披露した精霊の生態について、ランドンとサシャの二人は目を丸くして驚いていた。

 ランドンとサシャは魔法生物理論について詳しくなかったため気づかなかったかが、これは現在ある魔法生物理論に真っ向から喧嘩を売るようなもので、とても危険な思想だった。しかし、シャルルの言うことは間違いではない。これは、人には過ぎた理なのだ。


「そろそろ夜が明けてきたね。マルコとヴァレッツィを起こそう」


 ランドンがそう言って二人のテントに声を掛けに行く。

 マルコはすぐ起き出して朝食の準備を始めたが、ヴァレッツィがなかなか出てこない。

 どうしたのだろう、とシャルルが心配していると、ランドンが肩を貸しながらヴァレッツィもテントからでてきた。


「おはよう、ビー」

「カモノハシぽい辞書ですね」

「どうしたんだ、ビー」

「ふでばこ」

「??」

「あはは、シャルルさん。ヴァレッツィこれまだ起きてないからね。寝言だよ寝言」


 目が半分だけ空いた状態でうつらうつらしているヴァレッツィをランドンが丸太に卸す。

 一応自分の力で座っているヴァレッツィは、相変わらず起きていないのかモゴモゴと口を動かしながら舟を漕いでいた。

 マルコがお茶を入れて、ヴァレッツィに持たせる。ヴァレッツィは慣れた動作で寝ながらふーふーと熱いお茶を冷ましながら飲み始める。

 しばらくお茶を飲んでいると、ヴァレッツィの目が徐々に開いていき、最後にはパチパチとまばたきを繰り返して周りの仲間たちを見渡した。


「すまない、起きた」

「相変わらずだなぁ、ヴァレッツィ。寝言にシャルルさんが困惑してたよ」

「寝言?」

「俺が支えて歩いてるときに『カモノハシの辞書』とか『ふでばこ』とか言ってた」

「なんだそれ……」

「知らないよ」


 ヴァレッツィが起きたところでマルコが簡単な朝食を出してくれた。

 コンソメを溶かしたスープに干し果物。パンと干し肉はそれぞれの持ち出しを食べるスタイルだ。

 食事をしながら、今日の予定について話す。


「今日は周りを探索して、他にオークの集落ができていないか確認してから帰るよ。集落は発見しても今回は掃討しないで、後でギルドで報告しよう」


 ランドンのその言葉に、面々は頷くのであった。


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