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時間通りにあげられずにもうしわけございませんでした。

次から頑張ります。

「本当にすまない……」

「いや、やっちゃったものはしょうがないからね、シャルルさん」


 シャルルが風の魔法で爆散させたオークの集落の残骸を手分けして一箇所に集めながら、ランドンは乾いた笑いをシャルルによこした。

 集めるのは主にランドンとヴァレッツィ。風の魔法で残骸をひとかたまりにしたり、浮かせたりしながら開けた場所の中央に集めていた。もちろんマルコやサシャもそれより小規模な風の魔法で集めたりしているが、シャルルだけはヴァレッツィに怖い顔で「もう魔法は使うな」と言われたので手作業で集めている。

 ある程度の残骸が集まったところで、ヴァレッツィが火の魔法を残骸に当てて燃やす。このときにもシャルルはヴァレッツィに「絶対火の魔法を森で使うな」と言われていた。


「しかし、調整できないのは問題だな。調整する練習をするにしても、あんな規模の魔法をギルドの修練所で出されたらギルドが吹き飛ぶし」

「すまない、ビー……」

「でもでも、シャルルさんって大魔境でサバイバルしてたんですよね? 食料は狩った魔物を食べてたんですよね? 生で食べてたんですか?」

「? ちゃんと火を通した」

「火打ち石とかで火を付けてました?」

「? 薪を集めて、火の魔法で火を付けた」

「あれ、じゃあちゃんと小規模な魔法も使えるのでは?」


 サシャに改めて指摘されて、シャルルは確かに、と頷いてヴァレッツィは難しい顔をした。


「シャルル。風の魔法を使うときに何を考えていた? どうしてあの規模にしたんだ?」

「? 集落の全体を壊そうと考えた。少し規模が大きい方がいいのかなと」

「あー、なるほど。一気にやろうとしたのか。それであの規模か……。で、威力調整をミスったと」

「想像していたより格段に大きくなった。あんなに大きくなるほど魔力を入れたつもりはない」

「そういえばヴァレッツィ。精霊が手伝っていると言っていませんでしたか? それがなにか関係するのでは?」

「うーん。確かに精霊と親和性が高い人間が放つ魔術は、精霊が手助けをして威力を上げると言われている。俗に言う、自然魔法だな。そうか。あれは自然魔法か。興味深い」

「しぜんまほう」

「シャルル。あくまでも自然魔法というものは人間が使う魔法定義としては存在しないんだ。ただ、一般的な属性魔法の使用と違い、体内魔力だけでなく空気中の魔素を使って現象を起こす魔法が存在するのでは、という説がある。精霊魔法ではなく、所謂精霊自身が使う魔法だったり、魔物が使う魔法だったりを指すことが多い。精霊も魔物も詠唱や陣構築、理論を必要としないからな」

「……私は魔物?」

「大丈夫だよ、シャルルさんは人間。俺も聞いたことがある。たまにいるんだってね。法則とか理論をまるっと無視して魔法を使える天才っていうのが。シャルルさんは多分そういう類なんじゃないかな?」

「俺もそう思う。一般的にそういった自然魔法を使っている魔道士は魔法への魔力伝導率が悪いと言われているが、シャルルの使った魔力に対してあの威力なのではなく、使った魔力にたいして少し威力が弱い風魔法に、精霊が力を貸したんじゃないだろうか? 結果、あの惨状になった」

「精霊は何故力を貸すんだ?」

「解明はされていないが、魔力が好みとかその人が好みとか色々あるんじゃないかっていう説が多い。大前提として精霊に好かれないと精霊魔法使いには成れないというのもあるしな」

「私も少しは魔法を使いますが、感覚で使ってしまっていますからね。そういった学術的なことはさっぱりで」

「僕もです!」

「まぁ、大規模な魔術を使うときは少し抑えめに使いながら様子をみてもう一度放つ、という感じで調整したほうがいいだろう。あと、理論の勉強も少ししたほうがいい。魔力伝導率が良くなって消費量が下がる。それと、騎士団長に精霊語を教わるのも良いかもしれない。精霊に変に手出しされないように。追々だな」

「分かった」


 残骸が燃え尽きるのを見届けて、暁の獅子達とシャルルは今晩の野営をここに決めた。

 本来ならオークが集落を作っていた場所など臭くてかなわないのでその場で野営することはないのだが、シャルルが竜巻を放ったことによって臭いも何処かへ散ってしまったので、移動するのも面倒だしテントが張れる開けた場所でもあるのでここで野営することにしたのだ。

 マルコが落ちていた石で簡単な竈を二つ作り、一つは鍋をかけてスープを作り、もう一つではシャルルの手持ちのクリスタルエルクの肉を串焼きにしながら食事の準備を進めた。

 他の暁の獅子のメンバーはマルコの分も含めてテントを立てて、四隅で草に火をつける。

 シャルルは特にすることがなくてマルコの作る料理やテントを立てるのを見ていたが、四隅で火をつけた草が気になってサシャに聞くことにした。


「それは?」

「あぁ、魔物よけですよ! この草は干して火をつけると魔物が嫌がる臭いがするんですって。僕らにはわかりませんけど」

「なぜそんなことを?」

「え、だって、一応見張りも立てますけど、できるだけ魔物が寄ってこないようにしたいじゃないですか!」

「結界を張れば良い」

「いやぁ、一晩中結界を張るのって大変じゃないですか?」

「? そうか?」

「シャルルさんは張れるんですね……すごいなぁ」

「結界もはるか?」

「んーどうでしょう。ランドンさん! シャルルさんが結界張れるけど張ったほうがいいかって言ってます!」

「え? あー、だから大魔境で無事だったのか。んー、せっかくだから張ってもらおうか。たまには楽させてもらおう。シャルルさんお願いできる?」

「分かった。対物理と対魔法の結界を張る。でも気配はすり抜けてくる」

「それでいいよ。お願いね」


 テントを立てていたラーシュに言われて、シャルルは魔物よけの草が焚かれているラインに沿って結界を二つ構築した。

 ヴァレッツィが感心したような声を上げる。


「ふぅむ。無詠唱だなぁとは思っていたが、美しい結界だ。それに強度も申し分なさそうだし。無駄がない。魔力消費量はどうなんだ?」

「? 全然問題ない」

「それはシャルルの魔力が多いから相対的にそう思うのか、それとも実は何らかの秘伝の技とかで魔力消費量がとんでもなく少ないのか……迷うところだな」

「?」

「皆さん、食事の準備ができましたよ」


 ヴァレッツィがあーでもない、こーでもない、と考え始めたところでマルコから声がかかる。

 マルコは大食漢のシャルルが取る食事量を考慮した量を作ってくれた。暁の獅子のメンバーが普段使うのには大きすぎる寸胴鍋は、非常時の炊き出し用の寸胴なんだそうだ。

 シャルルはクリスタルエルクをもう一頭解体して(解体用ナイフを買い忘れていたので貸してもらった)提供したところ、これでもかという量の串焼きを作ってくれた。


「シャルルさん、クリスタルエルクをありがとうございます。ですが良いんですか? 私達も食べてしまって」

「皆で食べるとおいしい」

「はは、そうだね、シャルルさん。マルコ、ありがたくいただこう。それに、スープに入ってる乾燥野菜と調味料はうちの持ち出しだしね!」

「ありがとう。おいしそうだ」

「持ちつ持たれつってやつですよね!」

「クリスタルエルクなんて初めて食べる。楽しみだ」


 ワイワイと騒ぎながら、面々がクリスタルエルクの串焼きを取る。そして匂いを嗅いでたまらないという顔をした後に、かぶりついた。


「! おいしい!」

「あー、これは確かに美味しいね。クリスタルエルクってこんなに美味しいんだ!」

「いやぁ、高級肉なだけありますね。赤身が多かったので固いかと思ったんですが、全くそんなことがありません」

「ん~~! 美味しい!!」

「これで薬効もあるんだからいい肉だ。こんなもの、貴族も貴族、それも上位貴族しか食えんぞ」


 調味料で味付けされたクリスタルエルクの肉はシャルルが大魔境でただ焼いて食べていたものとは違い、複雑な味を出していた。シャルルにはそれを言葉で言い表せるほどの語彙力はなかったが、とにかく美味しい。

 暁の獅子の面々も夢中で食べた。

 シャルルはちゃんとスープも飲む。買ったスピナットの堅パンを浸せばちょうどよくスープが染み込んで、とても滋味深い味わいだった。シャルルは夢中でスープとパンと串焼きを食べていく。

 ところでシャルルはよく食べるが、そこまで早食いな訳では無い。結果、皆がお腹いっぱいになった後もずっと食べ続けているわけだが、最初は「よく食べるな」と微笑ましそうに見ている人間の顔が、だんだんと「食い過ぎでは」という顔に変わっていく。もちろんシャルルはそこには気づかない。

 大量の串焼きもスープも堅パンも、ぺろりと平らげてシャルルは「おいしかった」とお腹を擦る。もちろん、その細身に影響はなかった。しいて言えば、ほんの少しだけぽっこりしていたかもしれない。だが、それだけ。


「いやはや、ちょっとスープが多いかと思ったんですが、全て食べられてしまいましたな。明日の朝に出そうかと思ったんですが」

「いやほんと、どこに入ってるの? よく食べるよね、シャルルさん」

「良い食いっぷり通り越してちょっと心配になっちゃいますね」

「腹何分目だ? シャルル」

「八分目」

「まだ食えるのか……」

「おっそろしいね。ハハハ」


 暁の獅子達が苦笑いする。

 綺麗に食い尽くされた寸胴をマルコがクリーンの魔法で綺麗にし、食器も各自クリーンの魔法で綺麗にする。

 竈の残り火に薪を入れながらお湯を沸かして、食後のお茶。


「さて、明日の予定だけど、やっぱり五体のオークの集団というのはちょっと気になる。もしかすると、他に集落があるのかもしれない。集落を持たないオークは多くても三体行動が限度だからね。だから明日もう一日このあたりを探索してから帰ろうと思う。意見は?」

「特にありませんよ」

「それが良いと思います!」

「右に同じ」

「?」

「あー、えーとシャルルさんももう一日野営になるかもしれないけどいいかな?」

「? 分かった」

「大丈夫かなぁ。まぁ、大魔境で生き残ってたんだからよほどのことがあっても大丈夫なんだろうけど……。それから夜の見張りね。シャルルさんが結界を張ってくれたけど、いつも通り見張りを立てるよ。前半後半で二人ずつ。メンバーは俺とサシャ、マルコとヴァレッツィ。ヴァレッツィは前半のほうがいいんだよね?」

「あぁ。起きるのにどうにも時間がかかるからな」

「? 私は?」

「シャルルさんは寝てていいよ。結界も張ってくれるし」

「みんなに任せてしまうのが申し訳ない」

「ん~じゃあやってみる? 前半と後半とどっちがいい? 朝が弱いとかそういうのは考慮するよ」

「すぐ起きられる」

「じゃあ、後半にしようか。前半がマルコとヴァレッツィ、後半が俺とサシャとシャルルさんね」


 明日の予定と見張りの予定をぱぱっと立てて、見張り後半組がテントに入る。シャルルはマルコのテントを借りることになった。

 テントはともかく寝袋は買っておけばよかったね、というランドンに、マルコが気にしないなら自分のを使って良いと言ってくれたのでシャルルはありがたくマルコの寝袋も借りる。

 シャルルは場所を気にすることもなく、すぐに眠りに落ちた。


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