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「いやぁ、シャルルさん体力あるなぁ。全然息あがってないね」
森を進むシャルルと暁の獅子たち。
小物の魔物を倒しつつ進む道のりは順調だった。
時々小休止をはさみながら、暁の獅子と森の中を進むシャルル。本人はピクニック気分だった。
「しかし、シャルルは気配察知の範囲も広いし、剣術もうまくてすぐ対応してくれるから護衛の意味がないな」
「分かります。タンクの私が出る幕がないのはちょっと」
「いや~俺なんて、ついていってるだけですからね!」
「でも、オークはまだ見かけないね。シャルルさん、後どれくらい?」
「ん、六キロメルトルほどだろうか」
「正確な距離が分かるっていいなぁ」
「? 地形把握でわかる」
「地形把握スキルって希少スキルだからね? ほとんどの人は持ってないし、持ってる人は大抵地図技師になってるよ」
「そうなのか」
「そうなんです」
などとやり取りをしながら、歩く。
もう少し歩いていくと、オークの集落が見えてきた。
「あー、こりゃ大規模だ。集落ってより、町じゃん。よく今まで発見されなかったなぁ」
「燃やすのか?」
「いや、この規模で全体的に燃やすと森に燃え移りそうだから、壊して集めないとね。そろそろお昼だし、お昼食べてからにしようか」
「分かった」
集落を見張れる場所に陣取って、シャルルと暁の獅子の面々は昼食を取る。
薪を集めて火を起こしお茶を淹れ、それぞれ保存食にかぶりついた。
シャルルは鹿の干し肉にかぶりつきながら思う。そういえば、みんな自分程は食べないな、と。よくよく昨日の銀の精霊亭での夕食を思い出せば、ランドンは皆の二倍食べていたが、他の皆はシャルルの十分の一以下しか食べていなかった。
「思ったのだが、皆食事は足りているのだろうか?」
「え? 何のことシャルルさん」
「私の十分の一ぐらいしか食べてない」
「シャルルが食べ過ぎなんだ」
「私も冒険者ですから人よりは食べますけど、シャルルさんには負けますね」
「なんならランドンさんにも負けますよね! ランドンさんは金眼だからよく食べるし」
「? 目が金だと人より食べる量が多いのか?」
「あー、いや。そうじゃなくてね。俺みたいに『魔力宿る瞳』を持つ人間は、人より食べるって言われてるんだ。俗説では、器に貯められる膨大な魔力を維持するのに食事量が関係するとかしないとか」
「まりょくやどるひとみ」
「シャルルさんもそうだよね?」
「? そうなのか?」
「自分で見たことない感じかな。魔力が溢れてて、目がうっすら光ってる人のことを言うんだ。感情が揺れると分かりやすいっていうけど、シャルルさんの翠眼は感情が揺れてなくても分かりやすいね」
「そうなのか」
「だからいっぱい食べるのかなー。どこに消えてるかわからないけど、普通の人はそんなには食べないよ」
「そうなのか……」
「まぁ、シャルルさんはしばらく大魔境で狩った魔物だけで結構な金額稼げるだろうし、飢える心配は無いんじゃない? 俺なんか低ランクのときは大変だったな~。いつもお腹空かせてたよ」
「低ランクの稼ぎではランドンの食事量を維持するのは難しいですからね」
「俺は皆より食べないですから、そこまで心配はなかったですけど。それでも低ランクのときは食えないときもありましたからねー」
「まぁ、低ランクが食事や宿に困るのはよくある話だ」
「そうなのか」
シャルルは食べようと思えばいくらでも食べられるが、他の人間はそうでもないらしい。でもその中でも、ランドンはよく食べる方だとか。そういえば、ラーシュも少し目の虹彩が揺らぐことが合った気がする。
「ラーシュも魔力宿る瞳か?」
「そうそう。よくわかったね。ラーシュ騎士団長は感情の揺らぎを抑えてるからかなり分かりづらいんだけど」
「ラーシュもよく食べるのか?」
「うーん、どうだろう? 食事をご一緒したことはないからなぁ。多分食べるんじゃないかな。シャルルさんほどじゃないと思うけどね」
「そうか」
シャルルは意識を取り戻してこの方、一番楽しかったのは食事だ。特に街に来てからはいろんな食べ物を食べれてとても嬉しい。ラーシュもきっと食事は楽しいはずだから、今度面倒を見てもらったお礼に食材を提供してみようとシャルルは考えた。
食事を終えて、お茶で一息ついたあと。そろそろ動きますか、といったところで「プギー!!」という鳴き声が聞こえた。
各自が素早く戦闘態勢を整えて声のする方向を注視すれば、フゴフゴと鼻を鳴らしたオークが五体ほどこちらに向かってくるのが見える。
「プギ!? プギー!!」
「フゴフゴ、プギープギー!!」
「……なんかシャルルさんを見て興奮してるね」
「シャルル、君声は渋いが実は女性だったりとかしないか?」
「? 男だ」
「うわー、オークが勘違いするほど美人ってことですね」
「嬉しいやら悲しいやらですな」
オークはそんな皆に構わず突進してくる。しかし、こちらも伊達にAランクパーティーではない。ランドンは攻撃される前に剣を一振りでオークの首を刎ね、マルコは一発盾で防いでから頭をメイスでかち割り、サシャは攻撃をかわしてからメイスでマルコと同じように頭をかち割り、ヴァレッツィは小さなかまいたちの魔法を放って攻撃すらさせずに首を刎ねていた。
シャルルはそんな暁の獅子達に感心していたが、もちろんシャルルもオークに攻撃される前にオークの首を剣で刎ねている。
「やっぱりシャルルさんが居ると安定するなぁ」
「動作に無駄がありませんよね」
「これで魔法も使うっていうんだろう? まだ見たことはないが、末恐ろしいことだ」
「Aランクとして自信なくしますよねー。こんなに簡単にされちゃうと!」
「だが、皆もすぐ対応したじゃないか。特にサシャはヒーラーだろう?」
「ヒーラーでもある程度は戦えないとやっていけませんから!」
などと話しながらオークを回収していく。今回はそれぞれが倒したものをそれぞれが回収するという決まりを事前に作っており、四体はサシャの持っている暁の獅子の高性能マジックバッグに、一体はシャルルのインベントリへと収まった。
「じゃ、集落を壊さなきゃね。やり方としては手作業でハンマーで壊していくのと魔法で一気に壊すのがあるんだけど、今回はシャルルさんのハンマーは用意してないし、この規模は面倒だから魔法で崩そうか」
「分かった」
「シャルルさんやってみる?」
「やりたい」
「じゃ、やってみようか。森に影響が出ないような属性でね。家屋だけを崩すんだよ。地形は変えないように」
言われてシャルルは考える。火の魔法はもちろん駄目だ。同時に、地形を変えないとなると地面を揺らすのも避けたほうがいい。水を流すのも問題かもしれない。となるとここは風か。シャルルは魔力を集める。
「なっ! 何だこの魔力量は! シャルル! 駄目だこんな魔力量で魔法を放ったら!!」
「風」
ヴァレッツィの忠告は少し遅かった。シャルルが呟くと同時に集まった濃密な魔力は爆発的に広がり、轟音を立てて竜巻を起こしオークたちが拵えた粗末な家屋を爆散させた。
轟々と風が渦巻くなか、暁の獅子たちが何かを叫んでいる。
家屋の端材を巻き上げて巨大に立ち上る竜巻に、シャルルは自分がやりすぎた事を知った。
「やりすぎた……」
シャルルが慌てて魔力を霧散させる。
すると、まるで何事もなかったかのように竜巻はたち消えてただただ残骸だけが空から降ってくる。
暴風にまかれてとんでもない髪型になった暁の獅子たちが、シャルルを物言いたげな目で見つめていた。
「シャルルさん……やりすぎ」
「すまない」
「捧げられた魔力量もすごかったが、精霊が協力していたな。なんだろう。属性魔法と精霊魔法の複合魔法のような……」
「それであの威力ですか……」
「シャルルさん……やばいっすね」
シャルルがしょんぼりとして小さくなる。
バラバラと残骸が空から降り続ける。
暁の獅子たちは、ため息をついた。