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所変わってシャルルと暁の獅子たちは冒険者ギルド併設のカフェ兼酒場で軽い打ち合わせをしていた。
これからどうするか、ももちろん話しているが、まずはギルドカードの使い方についてだろうと言うことでカフェ兼酒場に来ているのだった。
ランドンから言わせれば、「迷子防止に近いところにした」といったところだろう。
「じゃ、シャルルさん。まずギルドカードの通信機能について説明するね」
「よろしく頼む」
「ギルドカードには通信機能が付いていて、登録した者同士が文章を送ったり通話したりできるんだ。魔力を込めてみて。少しでいいよ」
「分かった」
シャルルがギルドカードに魔力を込めると、半透明の板が出てきた。そこには、貯金額、ステータス、チャット、通話、メモ、サイト、アプリストア、登録、登録一覧などの項目があり、シャルルは「まるでスマートフォンかタブレットのようだ」と思った。もちろんこれは「この世界ではない世界」の知識だから口はつぐむ。
「まず貯金額ね。これはそのまま貯金額。各ギルドに貯金ができて、それに連動しているよ。店舗によってはギルドカード支払いができるから、貯金にある程度入れておく人は多いかな。次にステータス。これは鑑定スキルで見られるステータスが見られるよ。それからチャット。これが文章を送る機能だね。百四十字しか送れないけど、簡単なやり取りはチャットすることも多いね。それから通話。これは通話を常に受けられるオンライン状態っていうのと、通話をしないでほしいオフライン状態ってのが選べるよ。それからメモ。これはメモ帳の代わりに使えるね。それからサイト。これはちょっと使い方が難しいんだけど、何ていうんだろうな。色々な情報が乗ってる。詳しくはまた今度説明するよ。最後にアプリストア。これは貯金からお金を払うことで色々な機能をギルドカードに追加できるんだ。俺はここから魔術論文書架っていうアプリとかを入れてるよ」
「……すごい技術だ。この技術はどこで統括してるんだ?」
「え? えーと、どこだっけヴァレッツィ」
「あぁ、ギルドカードの機能は確か基本的には魔道具技師ギルドが統括してるはずだ。一部機能は国家間魔術研究所が担ってるはずだ。通話網とか、チャット機能がそうだな」
「すごい……。だれが作ったんだろう」
「興味があるなら魔道具技師ギルドに行ってみるといい。文献があるはずだ」
「今度行ってみる。ありがとう」
「……うん、まぁ。ギルドカードは住民カードと貴族印章にもつながっていて、当たり前の機能なんだけどね」
「そうか」
「じゃ、まずは登録からしてみようか。登録っていう項目を押してみて」
「分かった」
シャルルが半透明の板の登録という項目を押すと、登録コードと書かれた十四桁の数字と空欄の四角と、登録と書かれたボタンが出てきた。
おそらくこの四角の中に、相手の登録コードを入れて登録ボタンを押すのだな、とシャルルは理解する。
「俺の登録コードこれね。ここの空欄の四角にコードを入れてみよう。タッチすると数字キーボードが出るからね」
「分かった」
シャルルは言われた通り、空欄の四角をタッチして、ランドンの登録コードを見ながら数字をキーボードで入れていく。
その様子を見守っていた暁の獅子たちの顔が、すぐに崩れた。
なんなら様子を見守っていた他の冒険者たちの顔も崩れた。
「シャ、シャルルさん打ち込み早いね……。初めての人だとキーボードに慣れるのに苦労するんだけど」
「ん、昔似たようなものを使っていた気がする」
「記憶がなくても体が覚えているってことかなぁ。まぁいいや。じゃ、登録一覧を見てみようか」
「分かった」
戻るという意味のバツボタンを押して最初の項目一覧に戻ると、シャルルは登録一覧のボタンをタップした。
そこに「ランドン・ギルマーティン」という名前が載っている。
「よしよし、登録できたね。じゃ、同じようにうちの皆のも登録しようね」
ランドンに言われて、暁の獅子たちの登録コードを次々と入力して、シャルルは登録を終えた。
一気に登録一覧に四人の名前が刻まれて、シャルルは満足した。
「じゃ、次はチャットの使い方ね。チャットの項目を開こうか」
「分かった」
今度は項目一覧からチャットと言うボタンを押す。
すると、「登録一覧からチャットする」「コードを入力してチャットする」「グループを作成する」「グループに入る」「設定」というボタンが出てくる。
「順番に説明すると、登録一覧からチャットするっていうのは登録一覧に登録している人を選んでチャットすることができるよ。コードを入力してチャットするはさっきの登録をしないで直接ここにコードを入れることができる。で、グループを作成するっていうのは、グループチャットっていう機能があって複数人でチャットするチャットを作成することができるよ。逆にそのグループチャットに入るためには、グループに入るっていうボタンを押して、グループチャットのコードを入力すれば、途中からグループに参加できるんだ」
「複数人でもできるのか。すごい」
「とりあえず、新しいグループを作ってみようか。名前はそうだな。シャルルと暁の獅子で良いんじゃないかな」
「名前も付けられるのか。すごい」
シャルルはランドンに教えてもらった通り、「グループを作成する」というボタンをタップする。名前を入力する欄が出てきて、そこに言われた通り「シャルルと暁の獅子」という名前を入力する。
「うんうん、文字の入力も問題なさそうだね。良かった。文字の入力が一番慣れるのに時間がかかるからね」
シャルルはわかっている。これは「この世界ではない世界」の技術だ。だって、その知識の中の携帯のテンキーというものに似ていたから。両手を使って高速で打てる。
名前を入力し終わると、作成というボタンがでてきたのでそれもタップする。
すると、チャット画面がでてきた。おそらく画面上部が履歴を見る場所でスクロールすることができ、画面下部の四角の空欄が内容を打ち込むんだろうな、と理解する。
なるほど、「この世界ではない世界」のチャットツールとほぼ同じだ。
「この画面がチャット画面になるんだけど、画面の右上に歯車マークがあるだろう? ここを押してみて」
「分かった」
シャルルが画面上の歯車マークを押すと、新しく項目が出てきて「グループ名を変更する」「登録一覧から招待を送る」「招待コードを表示する」「メンバーを外す」とあった。
「この登録一覧から招待を送るを押して、皆の名前を入れればいいんだな?」
「正解! やってみようか」
シャルルはいそいそと「登録一覧から招待を送る」をタップして、暁の獅子全員に招待を送った。
すると、チャット画面に次々と皆が入ってくる。
※※※ランドンどん(ランドン・ギルマーティン)が参加しました※※※
※※※まるこ丸が参加しました※※※
※※※ササササシャ(サシャ・ルドゥー)が参加しました※※※
※※※ヴィー(ヴァレッツィ・マーレニーク)が参加しました※※※
「じゃ、実際にチャットしてみよう」
ランドンが言うと、皆楽しげにチャットし始める。
ランドンどん:シャルルさんよろしくね~!
まるこ丸:マルコです。よろしくお願いします。
ササササシャ:サシャでーす!よろしくおねがいしまーす!
ヴィー:ヴァレッツィだ。よろしく。
シャルル:よろしく。名前? を変えられるんだな。
ササササシャ:そうですよ~、チャットの設定で変えられます。
まるこ丸:たまに同じ名前の人がいるチャットに入ることがありますからね。名前を変えてる人は多いです。
ヴィー:でも最初の入室時は本名が分かるようになってるから、誰がどの名前か分かるんだ。
初心者シャルル:さっそく名前を変えてみた。
まるこ丸:分かりやすいですね。
ランドンどん:うん、問題なさそう。はぐれたときとかは、このグループチャットにお願いね。
初心者シャルル:分かった。
「よし。チャットさえ覚えられれば後の使い方は簡単だから。通話も同じで登録一覧から通話する、コードを入力して通話する、グループを作成する、グループに入る、設定の項目があって、グループ通話もできるからね。俺たち暁の獅子はアプリで『念話通話』っていうアプリを入れてるから、声に出さなくても通話できる『念話モード』が使えるけど、これは必須じゃないから」
「分かった。でも、便利そうだ」
「そうそう。モンスターに強襲するときとかに便利だね。冒険者必携ではあるかな」
「後々入れてみる」
「そんなに高くないからおすすめだよ。中堅ぐらいのランク帯の冒険者は皆入れてるんじゃないかな?」
「なるほど。他におすすめは?」
「ん~冒険者が入れてるのってなんだろ? どう思う皆?」
「私はスキル概要一覧を入れてますよ。スキル取得の計画が建てられて便利です」
「僕はマップアプリですねー。ちょっと高かったですけど、初めての街でも迷わないし、店舗一覧とかが載ってて便利ですよ! そこから店舗の登録コードとかすぐに登録できるし」
「私は各種採集図鑑や魔物図鑑を入れてる。ランク帯に合わせて買っていくと便利だ。紙のものも持っているが、荷物を減らしたいが持っていきたいということもあるからな」
「あ、魔物図鑑は必携アプリだよね!」
「あとはダンジョン地図とかですかね」
「ダンジョンの中の地図がアプリとしてあるのか?」
「いいえ、そこまではないのですが、どの地域にどんなダンジョンがあるかでしたり、ダンジョンまでの道のりが分かるんです。ダンジョン内のマッピングアプリなんかも開発されているっていう噂ではありますけど、ずっと噂のままですね」
「攻略済みマップは大抵近くの冒険者ギルドで紙の地図として売られている。だが、ダンジョンによっては定期的に内部が変わるものもあって、アプリとしてはまだ作られていないというのが現状のようだ」
「まぁ、色々あるから暇なときに見てみてよ」
「分かった」
思ったよりも色々なアプリが開発されているらしい。
料理アプリや、読書アプリなどの趣味アプリもあるんだろうかと考えて、市民カードともつながっているのだから冒険者が使うアプリだけではないのだろうな、とシャルルは思い直す。
そういった技術は「この世界ではない世界」の専売特許だと思っていたが、きっとそれとは違う技術で作られているのだろう。なにせ、その技術を管理しているのは魔道具技師ギルドと国家間魔術研究所だ。きっと科学ではなく魔法で動いている。
「よし、あらかた説明したし、買い物に行こうか」
「保存食を買い足すんだったか?」
「そうそう。一泊は野営することになるだろうからね」
「? 五分でつく」
「あのね、シャルルさん。普通は身体強化してめちゃめちゃ走ったりしないの。移動は徒歩。だから時間がかかるよ。周りの状況も確認しなくちゃいけないし」
「? 分かった」
「分かってるのかな~これ」
とにかく買い物に行こう、とシャルルは暁の獅子たちに連れ出されるのであった。




