プロローグ
その日、世界は輝いた。
星々が煌めき、妖精が歌い、精霊が踊った。
後にこの日は世界の国々で、「精霊王の誕生日」と呼ばれ、祝日になる。
そう、世界に精霊王が生まれた。
◇ ◇ ◇
男は鬱蒼と茂る森の中で意識を取り戻した。
物珍しげにあたりを見回す。
天を突き抜けるように巨大な樹木。
身長を超えるような草たち。
その合間を縫って、キラキラと虫のようなものが舞っている。
男は自分自身を確認する。
衣服はかっちりしており、整っていた。
肌触りの良い革製のトラウザーズに履き心地の良いロングブーツ。ダブレットには少し刺繍がついていておしゃれで、意識すると防護魔法がかかっているのがわかる。森歩きにはぴったりだ。
腰には細身の長剣。肩掛けバッグもあったが、中には何も入っていなかった。
ひとしきり自分の格好を確認すると、男はふむ、と考え込む。
果たして、自分はなぜここにいるのだろうか。と。
そして、誰なのだろうか、と。
そう、男には記憶がなかった。
感覚としては、突如世界に放り出されて覚醒した、というところだろうか。
それに反して、知識はある。
あれは木。あれは石。あれは草。これは剣。これはカバン。これは手。
魔法の知識も頭の中に入っている。攻撃魔法に治癒魔法。一通り使えそうだ。
カバンを下げているが、インベントリという、時間が停止した広い空間にものを収納するスキルもあった。他にも気配察知や気配遮断、探知、鑑定、色々使えそうだった。
武術に関する知識も頭に入っていた。
いま手に持っているものは細身の剣だが、それ以外にも槍やハルバードなどの長もの、斧
、棒、色々なものの使い方が頭に入っている。多分、実際に動くことも可能だろう。
再び男は考える。
名前がないと不便そうだ。
「……シャルル?……シャルル。」
男はつぶやく。自分の名前をシャルルとした。
すると、男ーーシャルルの体がぽわっと光る。
シャルルは少し驚いたが、特に何か変わったことはないようなので良しとした。
シャルルは考える。
おそらくだが、これは転生というものではないだろうか。なんとなく、知識の片隅からそれを引っ張り出す。
記憶をなくしているという感じがしないのだ。そう、「突然この世界に生まれた」という感覚のほうが正しい。
それに加えて、知識がすでに備わっているのが変だと思った。
これはいわゆる「前世」の知識ではないだろうか。そう考えたのだ。
なぜなら、知識の中に「この世界のもの」というくくりのものと「違う世界のもの」というくくりのものが漠然と存在していたからだ。
シャルルはよくわからないが、転生したのではないか、と仮定する。
シャルルはやっぱり考える。
人は人の街で暮らすものだと思う。
そうだ。街へ行こう。