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06.再会(ルイス視点)

 10歳の頃に父と約束してから6年が経った。

 16歳となった俺は魔法学園へと入学し、ルティリアを見て衝撃を受けた。

 若草の髪はさらに艶を増し、ガラス玉の瞳は宝石のような瞳に変わり、彫刻のような鼻筋に凛とした佇まいの彼女は、愛らしい少女だった彼女は美しい女性へと成長していた。


「どうしよう。彼女に変な虫がついてしまう」

「大丈夫だろ」


 自室で机でうじうじとしている俺を、セディが冷ややかな目で見つめている。

 セディの母はお抱えの劇団があり、母はよく招待を受けており、2年前ほどに友人となった。 


「あんなに綺麗だった彼女をセディは見ていないのか?いや、見ないでくれ。視界の端にすら入れないでくれ」

「さっさと告白しちゃえばいいじゃないか」

「振られるかもしれないんだぞ?」

「氷の貴公子が聞いて呆れる……」


 父と話したあの日から、俺はルティリアにアプローチすることはできなかった。

 手紙を送っても贈り物を送っても返事がくることはなく、お見合いを申し出ても「男爵家の妾の子では教育も行き届いておらず失礼になる」という文句で断られている。

 社交の場に出てくるのはシーフィという本妻の子ばかりで、ルティリアが出てくることはなかった。

 好意の微塵も感じないことに心が50回は折れているが、諦めることができるわけもなく、ルティリアを追い続けている。


 父と母はそんな俺に半ば呆れるように見ており、最近お見合いをさせられている。

 しかし、俺がルティリア以外に興味を持つわけもなく、お見合いをさせられる時間があればその時間でルティリアへの贈り物を調べたい俺は、意図して冷たく接してお見合いの数が減るようにした。

 その結果、『氷の貴公子』などという二つ名を与えられ、父と母は見たことないほどに渋い顔をしていた。


「さっさとフラれちまえ」

「やめてくれ落ち込むだろ」


 つまらなさそうにしているセディの目は冷たい。

 父と母に無駄だと諭されても、友に呆れられてもまだ唯一『フラれていない』ということにしがみついている愚かな男、それが俺だった。





 入学してしばらく経ったある日。

 目の前を急ぎ足で歩くルティリアの姿に、胸を高鳴らせながら、少しでも眺めていたいと同じ速度で歩く。

 隣を歩いていたセディがいきなり歩く速度を変えた俺と、目の前にいるルティリアをみて納得したと共に、呆れたように俺を見ている。

 目の前を歩いていたルティリアはいきなり姿を消したかと思えば、床でつぶれたカエルのように倒れていた。

 駆け寄りたいが、手紙も贈り物にも返事1つもらえない俺が駆け寄ったところで、ルティリアがどんな反応をするのか。正面から断られてしまうと立ち直れる気がしなくて思わず固まってしまった。

 そんな俺の存在にも気づかずに、ルティリアは自分で立ち上がり、鞄から漏れ出てしまったものを拾い集めている。

 こぼれ出しているうちの1つに俺は目が釘付けになってしまった。


「こういう時さっと駆け寄れたらいい男なんだけどな」

「……あのハンカチ」


 終始固まっていた俺をなじるセディに目もくれず、拾い集めて走り去っていくルティリアを目で追いながら、俺は今見たものを思い出す。


「俺が昔あげたハンカチ」


 ルティリアの鞄から漏れ出ていたハンカチは10歳の時、ルティリアの涙を拭くように押し付けたハンカチだった。




 学園のサロンは広く、2階席も用意されているのはさすが貴族が通う学園だとしか言えない。

 とはいえ、個室のように衝立で仕切られている2階席は爵位がそこそこ上の者たちしか使っておらず、階級社会の暗黙の了解を感じてしまう。

 筆頭公爵家たる俺が使うことを咎めるものなどいるはずもなく、じろじろと見られることも不要な声をかけられることもないのでよく利用している。

 

「どういうことだと思う」

「俺に聞くな」

「あのハンカチをずっと持っているこということはまだ望みはあるということだろうか」


 ぐりぐりとフォークでブロッコリーをつつき続けながら、俺は唸るようにしゃべる。ブロッコリーはボロボロと崩れていきマナーも何もないが、気にする必要はないだろう。

 贈り物は送り返されることだってあった。

 それなのに子供の時に押し付けただけのあのハンカチを持ってくれている。しかもちらりと見えただけでも綺麗に持っていてくれていることがわかった。染み1つなく、折り目も正しかった。


「ならどうして、手紙1つ送ってくれないんだ」

「……噂話だけど」


 セディは重々しく口を開いた。

 様々な貴族夫人を劇に招待しているセディの母は、交流が広く噂話もよく仕入れている。母もたまに聞きに言っているのを見ると、セディの母は情報屋か何かではないかと思えてくる。


「あの男爵家、妾が死んでから娘を見る目が怪しいらしい」

「は?」


 話を聞けば、ルティリアの母は数カ月前に亡くなったらしい。

 社交の場には本妻しか連れてこないのに、街でデートをしているのは妾だというのはよく目撃されている。政略結婚で愛が芽生えなかったために愛人を囲うことなどよくある話で、あまり気にしていなかった。

 恋愛結婚し、実の息子にも推奨している父と母はあまりいい目で見ていないことは知っているが、ルティリアには関係のない話だ。

 ルティリアの母が亡くなったあと、男爵が一度だけルティリアと共に街で見かけられたことがあった。

 学園の準備か何かで買い物に出たのを見られたのだろう。

 その時の男爵のルティリアを見る眼差しが愛する人を見るものと同じで、なおかつ腰を抱くような手つきもしており、そして噂ではルティリアはルティリアの母にそっくりに育っているそうだ。


 実父が娘に対して、そんな馬鹿な。と思ったが、10歳の時に見たあの男の目はそれを裏付けていた。



あと2話ほどルイス視点があり、ルティリアに戻ります。

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