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04.告白

 放課後、門限ギリギリの時間まで教室で時間をつぶしているのが日課の私は、今日も教室でぼんやりとしていた。

 ルイス様とお昼を取るようになって数日が過ぎた。私の死ぬ日まであと2週間くらいだろう。

 何も話さないし、ただ食べているだけの時間は、私の大切な思い出となっている。

 もうそろそろいいんじゃないかとさえ思えてきた。

 恋心に終止符を打つべきじゃないのかと。

 いや、引き返せないほどに惹かれてしまうのが怖いのだ。


「明日。明日で終わらせよう」


 ぽつりとつぶやいた声がシンとした教室に溶ける。

 気合を入れるように拳を握ると、遠くから足音が聞こえてきた。

 今更誰かに笑われることなど気にしてはいないが、面と向かって絡まれるのも面倒なので、私は教卓の下へと身を潜ませる。

 足音の主はおそらく忘れ物を取りに来ただけで、すぐに帰るだろう。

 引き戸の扉を開ける音がして、足音が2人分、教室へと入ってくる。


「わ、私、ルイス様のことをずっとお慕いしております……!」


 告白の現場に居合わせることになるなど、私は思いもしておらず、思わず固まってしまう。しかもルイス様の名前を呼んでいるということは告白の相手はルイス様なのだろう。


「そうか。すまないが応えられない」

「もしかして噂は本当なのですか?どうして!?あんな女よりずっと私の方がルイス様にふさわしいのに!」


 感情の籠っていない断り方は告白されることにルイス様は慣れているよう。

 爵位も高く、顔も美しいとくれば当たり前だろうが。

 いくら1カ月後に死ぬとしても、彼女持ちに告白することはタブーだとわかっているため、ホッと胸を撫でおろしてしまった。

 しかし、噂とは、もしかしてルイス様に意中の人がいるということなのだろうか。意中の人と付き合ってなければ告白してもセーフだよね。

 そんなことをつらつらと考えていた私の耳にナイフのように鋭くて氷のように冷たい声が入ってくる。


「君が俺にふさわしいと思っているのならそれは思い違いだ」


 私に言われたわけじゃないのに寒気が走ってふるりと体が震えた。

 さすが、『氷の貴公子』と言われるだけの冷たさがあるなと、のんきに頭の隅で納得してしまった。


「……っ」


 絞り出した嗚咽と共にバタバタした足音が遠くなっていく。どうやら泣きながら走り去っていったようだ。

 しばらくの沈黙が流れたあと、残されたルイス様は深いため息と共に、足音がドアへと向かっていった。

 教室に残されたのが私ひとりになったのを感じて、教卓の下から這い出る。

 痛いほどの緊張感がまだ残っている教室で、私は走り去っていった女子に手を合わせた。

 あの子は明日の私の姿なのだろう。




 翌日、私はベンチに先に座っているルイス様をみて、覚悟を決めて足を踏み出した。

 覚悟を決めたといっても緊張はしているもので、右手と右足が一緒に出てしまっている。

 様子のおかしい私を、ルイス様が首傾げて見ている。


「あ、あのね」


 いつもは挨拶から入るのに、私はひっくり返ったような声を絞り出した。

 昨日頭の中で何度も練習した。それなのに、心臓が胸を破って飛び出してきそうなくらいにドキドキと高鳴る。

 どうしよう。ルイス様の顔が見れない。

 

「今日はいい天気ですね!」


 大きな声で叫ぶように言った言葉は頭の中で考えていたこととは180度違っていて、私は思わず脱力した。


「あ、あぁ」


 呆気にとられた彼の言葉に、私は恥ずかしくなり、速足でベンチの端に座った。

 開けたランチボックスからサンドイッチを掴んで口に突っ込む。

 しばらくもぐもぐと2人の人間が無言でご飯を食べている時間が流れた。

 見上げた先では雲がゆっくりと流れていて、雲を見つめていると高鳴っていた胸が落ち着いてきた。

 そうすると、じんわりと浮かんでくる、ルイス様への想い。

 私が届くはずのない、ルイス様の……愛。

 どろりとした感情が胸を染め上げる。頭の中で父が笑っているような気がした。


「ルイス様。好きです」


 それは自然と口から出たのではなく、焦って口から出した言葉。

 これ以上惹かれてしまってはいけない。化け物を胸の中で育てるわけにはいかない。

 そう思うと、口から急いで出たのだ。


「俺は……」

「し、知ってます!ルイス様に好きな人がいることは!なので気にしないでください!伝えたかっただけなのです!」


 振られて恋心を散らしたかったはずなのに。

 ルイス様の言葉が怖くて、捲し立てた。

 顔を見ることが怖くて、急いでランチボックスの蓋を締めた後、私はうつむいたままその場を走り去った。


「どうか、好きな人と幸せになって」


 すれ違いざまにルイス様に告げたのは、母が私に残した言葉。

 そして私がルイス様に残したかった言葉。


 名前を呼ばれた気がしたが、私は一心不乱に走ってその場を後にした。

 散らした恋心でぐちゃぐちゃの頭の片隅で、明日からどうしようなんて考える冷静な私がいて、自嘲してしまう。


 けれど、心配は無用だった。

 私はその日から屋敷に閉じ込められたのだった。


次からルイス視点になります。

本日はあと2話を18時、19時に予定しています。

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