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番外02-07.答え合わせ


 二日後、登校した私はその足で1年の教室へと赴いていた。教室へと向かうように見せて、まっすぐにきたため、鞄を持ったままだ。

 アメリア様のお姿は見つけられなかったけれど、椅子に座って頬杖をついているリカルド様の姿を見つけて駆け寄る。


「リカルド様、あの、アメリア様は……」

「あ、おはようございます。アメリアは今日お休みです」


 苦笑いを浮かべているリカルド様は、アメリア様の状態を知っている気がした。続きを聞こうと思ったけれど、リカルド様がカタ、と音を建てて立ち上がる。


「ひとまず、移動しませんか?」


 アメリア様の体調のことも含めて、あまり人のいるところで話すべきではないのかもしれない。

 こくり、と頷いてリカルド様と教室を後にした。


 なんだか好奇な視線を感じたが気のせいだと思いたい。



 少し前まで私がよく利用していた木陰のベンチ。今はルイス様とサロンでお昼を共にすることが多くて、ここに来るのは随分と久しぶりな気がした。

 ベンチに座る私の前にリカルド様は立ったまま。座らないかと勧めてみたけれど「ボクはまだ命が惜しいので……」と言っていた。私は思わず口を閉じた。


「アメリアは器官が弱いんです。季節の変わり目とか、そういうときによく発作が出まして」

「それは、大変ですね」

「でもまぁ、今日は念のため休んでいるだけで、明日になればまた元気に登校できると思います」


 心配はいらないと言われて、私は胸を撫で下ろした。

 アメリア様の地元では石炭列車が試運転されていて、炭鉱も盛んだ。空気はあまり良くないと思われる。その環境ではさぞ、大変だったことだろう。


「王都に来たおかげか、最近は調子よかったんですけどね。ルティリア様と遊んでいて楽しかったんだと思います」

「遊んでいたわけでは、ないと思いますが」


 アメリア様が聞けば、スッと通った眉を吊り上げることだろう。想像ができて思わず笑ってしまった。

 その様子をリカルド様も想像したのか、一緒に吹き出している。


「リカルド様」

「なんですか?」


 せっかくなので、私はリカルド様ときちんとお話をしてみようと思った。


「私のことを好きだっていうのは、間違いですよね?リカルド様がお好きなのは、」

「ご想像の通りです」


 アメリア様ですよね。という前に、リカルド様が照れくさそうに笑っている。

 リカルド様が王都の学園に入学することは決まっていただろう。しかし、入学すればアメリア様とは離れ離れになってしまう。これは予想だけど、アメリア様のご実家が男爵家へとなったことも、リカルド様のお家の力添えがあったことだろう。


「昔から、肝心なことは気づいてくれないんです」

「そ、うだと思います」


 家庭教師も屋敷も、学園への入学も、リカルド様がアメリア様とずっと一緒にいるためだと、話を聞いただけの私だってわかる。

 

「ルイス様がルティリア様を助けたお話を聞いて、いいなぁって思ったんですよ。僕はスマートにそういうことできないし、いつもいっぱいいっぱいだ」


 こうなったらすべてきちんと話したほうがいいと思ったのか、つらつらとリカルド様が話し始める。

 ルイス様に助けられたことを知っていると言われて、心の奥がもぞもぞとした。良い話として伝わっているだろうが、同時に父と義母とシーフィという歪な私の実家のお話も漏れているということである。

 元々普通ではない家の有様に、ご婦人たちのお茶受けとして活躍していたとは思うが、恥部であることに変わりはない。


「そのいいなぁって言葉を聞いたアメリアが、誤解しまして……。違うっていっても聞いちゃくれないし、挙句にルティリア様に突撃するし……こんなことがルイス様に知られたらどうなると思ってるんだか……」


 あの時顔を覆っていたのは、アメリア様を止められなくてどうしようかと思ったからなのだろうか。最近貴族の仲間入りしたアメリア様に、そういったことはいまいちわからなかったのかもしれない。

 私に話していたはずなのに、後半はまるで愚痴である。


「それは、その、私もなんとかしますので……」

「助かります。ボクとアメリアなんて小指でぷちっと潰されるだけでしょうから」


 ふるりと体を震わせたリカルド様に、必死にニコニコとした笑顔を保った。

 生殺与奪の権利は相変わらず私の手にある。


「差し出がましいですけど、リカルド様はアメリア様ときちんとお話すべきです」


 鞄を開けて、昨日メイドさんが渡してくれたクッキーの袋を1つ取り出す。

 私の作ったクッキーとアメリア様の作ったクッキーがそれぞれ入れられて、レースのリボンで口が閉じられていた。そのうち、アメリア様のクッキーが詰められていた袋を取り出す。


「見てください。このジャムの乗ったクッキー、アメリア様が途中からご自分で作られたんですよ」


 珍しい青い色のジャム。それは青い薔薇から作ったジャムで、王都では一店舗しか扱っていないそうだ。

 オレンジだって、ストロベリーだってあったのに、アメリア様はそのジャムだけを使っていた。


「きっと、アメリア様はご自分から言えないだけなんです。そして、誰よりもリカルド様を大事に思われてます」


 青い瞳のリカルド様がぱちくりと目を瞬かせて、クッキーの入った袋をへにゃりと笑って受け取ってくれた。


「そうですよね。もう、わかってもらうしかありませんよね」

「……はい?」


 ぺこりと頭を下げたリカルド様が去っていく。さわやかな笑顔だったはずなのに、私はその笑顔が酷く怖かった。

 どうして思わなかったんだろう。

 平民の女の子に爵位を与えて、家庭教師、屋敷、学園への入学--どれも、囲い込むためのものじゃないか。


「アメリア様、ご武運を」


 両手を合わせて私は祈った。けれど、どこか気分は晴れ晴れとしている。

 

 そんな私をまさか大好きな湖畔の瞳が見ていたなんて知るはずがなかった。

18時頃に最終話更新します

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