表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

番外02-06.心配

 目の前に鎮座していた炭は気が付けば消えていた。どうやらメイドさんが回収してくれたようだ。

 アメリア様の指導を受けながら作ったクッキーは、不格好ではあるけれど、きちんとしたクッキーに仕上がっていた。目の位置にチョコを置いたりといったことはできなかったし、隣でアメリア様はジャムを乗せたものを作り出していたけれど、私はクッキーを作る事ができて嬉しかった。


「小麦粉、片づけますね」

「えぇ、お願いしますわ」


 かなり散らかしてしまっていたが、洗い物はメイドさんがやってくれるという。片づけまでが料理だというものの、長時間の格闘で疲れていた私は言葉に甘えることにした。

 とはいえ、材料を仕舞うことはできるので、使いかけの小麦粉を手に取った。


 アメリア様の様子を見ると、疲れているのは同じようで、胸元を押さえてふぅ、と深く息を吐いている。


「座って待っていてください」

「そうさせていただくわ」


 疲れた顔色のアメリア様は素直に近くの椅子に座ってくれた。

 ふぅ、ふぅと息を吐いてるのは心配だ。


「袋の口を閉じるもの……、あっ、あぁっ!」


 使いかけの小麦粉の封を閉じるものがなにかないかと探していると、袋に粉がついていたのか、手から滑り落ちる。このままでは床に落ちてしまうと、お手玉のように小麦粉を掴もうとして、宙で跳ねさせてしまった。結局小麦粉をばら蒔いてしまって、当たりが真っ白になる。


「……」

「何をしているんですの……」


 白く染まった空間で呆然としていると呆れたような声がして、返す言葉もなかった。


「掃除は任せましょ、げほっ……げほっ」

「わっ、すみません。大丈夫ですか?」


 小麦粉を吸い込んでしまったのか、アメリア様が咳き込む。慌てて窓と扉を開けにいく。換気されて、視界がマシになってきてもアメリア様の咳は止まらなかった。


「ごほっ、ごほっ」

「アメリア様!?」


 次第に息も短くなり、ひゅうひゅうと音がして、扉の向こうに走る。

 ゴミを捨てに行っていたメイドさんが戻ってきて、急いでかけよった。


「あの、私が小麦を撒いてしまって、アメリア様の咳が止まらなくて……!」

「!わかりました!」


 動揺している私はまとまらない言葉でなんとか説明すると、心当たりはあったのか、すぐにメイドさんがキッチンへと来てくれた。

 キッチンの中ではアメリア様が変わらず短い呼吸でひゅうひゅうと苦しそうにしていた。


「お嬢様。お薬とお医者様をすぐにお呼びします。お待ちください」

「こ、れくらい、なら、お薬だけあれば、構わない、わ」

「しかし、」

「い、いから!」


 メイドさんはぐっと言葉を飲み込んで、キッチンを飛び出していった。

 アメリア様はまるで慣れているかのようだ。


『アメリア嬢は体が弱くて、寝込んでいたって聞いてたけど』


 セディ様の言葉を思い出しながら、どうしたら良いかがわからず、アメリア様の背を撫でる。苦しそうにしていたけれど、背中を撫でられてアメリア様は困ったように笑っていた。



 メイドさんが持ってきてくれた薬を飲んだあと、アメリア様は自室へと戻った。

 持病だから心配しないでとだけ言い残していったけれど、私は心配で落ち着かない気持ちで、アメリア様の屋敷を後にした。

 作ったクッキーは小袋に詰めて、メイドさんが帰りに渡してくれた。



 その夜、アメリア様のことが気がかりで、夕食時もどこかぼんやりとして過ごしたあと、何も手につかない私はぬいぐるみを抱きしめてソファで丸くなっていた。

 部屋の中は私だけで、はしたないと窘める人はいない。


「大丈夫かな……」


 よくわからないまま私に突っかかってきたアメリア様だけど、紅茶を飲みながらリカルド様のことを話す姿や、クッキーを一緒に作ってくれた姿は優しい人だった。

 苦しそうで、気丈なアメリア様が困ったように笑っていた顔を思い出して、きゅっとぬいぐるみを抱きしめる。


 ――コンコン


 扉をノックする音が聞こえて、顔を上げる。

 私の部屋に訪れる心当たりは一人しかいない。


「はい。どうぞ」

「ルティリア、様子がおかしかったが大丈夫か?」


 現れたのは予想通りルイス様で、心配をかけてしまったのだと思って眉を下げてしまった。


「大丈夫です。ただ、ちょっと気がかりなことがあって……」

「そうか。よかったら話してくれないか?」


 麗しい美貌のルイス様が隣に座り、私の顔色を伺ってきた。

 

 どうしよう。話したほうがいいかな。

 でも、リカルド様のことも話さないといけなくなってしまう。

 誤解だと思うけど、私に好意をいただいているということを話すのは、憚られてしまった。


「い、いえ、ルイス様に話すほどのことではありません」


 誤魔化した私に、ルイス様は寂しそうな目をしていて、胸がきゅっと締め付けられる。

 そっと肩を引き寄せてくれたルイス様に、こてり、と頭を預けた。愛おしいぬくもりが体に広がっていく。


「ルティリア、君のことならなんでも知りたいんだ。話したくなったらでいいから話してくれ」


 膝の上に置いていた手にルイス様の手が重なる。

 そのぬくもりに、そっと目を伏せた。

 

残り2話、明日更新して番外編完結となります。

お付き合いいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ