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番外02-04.訪問

 大きな屋敷、とお世辞にも言うことが出来ないほどにこじんまりとした屋敷を前にして、立ち尽くす。ベルを鳴らせば、数秒後扉の前からパタパタとした足音が聞こえてくる。1歩離れて立てば、勢いよく扉が開かれた。


「来ましたわね!ルティリア!」

「お嬢様、お待ちください!」


 現れたのは相変わらず元気の良いアメリア様で、その後ろにはメイドさんが窘めている。いきなり本人の登場に驚いたけれど、セディ様のお話によれば、アメリア様が男爵となったのは最近だったはずなので、仕方ないのかもしれない。

 

「ご招待ありがとうございます。ルティリアです。今日はよろしくお願いします」


 にこりと挨拶をすれば、メイドさんが中へと招き入れてくれた。


 リカルド様が私に好意を持ってくれている、という話に目が点になっていた私は、流されるままにアメリア様にご自宅へ招待されていた。しかし、そのままお邪魔するというのは、ルイス様のお家にもお伝えしていないことだったので遠慮した次第だ。結果、休日である本日お邪魔している。

 ルイス様にはクラスメイトのお友達にお呼ばれしたとお伝えしておいた。


『そうか。ルティリアにも友人ができたのは好ましいことだ』


 ルイス様とセディ様を除き、学園にお友達のいない私のことを心配してくれていたのかもしれない。お友達に呼ばれたわけでもなく、いまだに学園にお友達のいない私を、暖かい目で見つめるルイス様に、私の心は泣きそうになった。

 

 罪悪感がとんでもないことになっている。


 制服が一張羅だった私だけど、今日は白いワンピースに身を包んでいる。シルエットが綺麗になるように作られたワンピースは着心地が良く、くるりと回ると花のように広がる裾が綺麗でお気に入りの服だ。

 知らない人のお家にお呼ばれする、ということにわくわくしていることは明らかだ。


 通された部屋はかわいらしい薄いピンクの調度品が置かれ、隅々まで清潔に保たれている部屋だった。アメリア様の部屋なのかな、と不躾にならない程度に部屋を見ていると、アメリア様がソファに腰かけた。


「ひとまず、座りなさいな」

「はい」


 誘われるままに目の前に座れば、メイドさんが紅茶を運んできてくれた。花のように香る紅茶は気分を落ち着かせてくれる。ルイス様のお家でいただくものはどれも上質なものだけど、この紅茶はそれに並ぶほどに良い香りだ。


「リカルドの領地の紅茶ですのよ。炭鉱がメインとなってしまいましたけれど」

「お詳しいんですね」

「えぇ、リカルドとは幼い頃からの仲ですもの」


 ふわりと、アメリア様が笑ったけれど、その笑顔は寂しそうでどこか儚い。消え入りそうなアメリア様の姿に、胸がきゅっと締め付けられる。

 

「リカルド様とはどういった関係なのですか?」

 

 カップを置いて問いかければ、息をついて私と向き合う。


「ルティリアも聞いているでしょう?わたくしが男爵家の娘になったのは最近のことですのよ。リカルドはそれよりも前からわたくしの傍にいてくれましたの」


 そう語るアメリア様の顔は過去を思い出しているようで、ほころんでいく。


「1人だったわたくしのたった一人のお友達でしたわ。なのに、リカルドったら、自分が貴族だということをずっと黙っていたんですのよ」

「まぁ。それは、驚かれたでしょう」


 平民だと思っていたのに、いきなり貴族だと言われれば戸惑いもするだろう。男爵とはいえ、爵位があるのとないのとでは大違いなのだから。不満そうに腕を組んだアメリア様が鼻を鳴らす。


「寝耳に水とはこういうことなのかと思いましたわ!怒っても言い訳もしないのだから、本当に困ったものです」


 そんなことを言っているのに、言葉とは裏腹にアメリア様は嬉しそうだ。

 私はこの感情を知っている。


「わたくしの家が男爵家になって、何でも手を回してくれましたわ。話し方から所作、教えてくれる方を手配してくれましたの。頼りなかったはずなのに」


 思い出を見つめている瞳の柔らかさ、ほころんでいる口元、それを誤魔化すように唇を突き出しているアメリア様は、どこからどうみても恋する乙女だ。話し始めると止まらなくなっているのか、次々と話すアメリア様が微笑ましくて、ついにこにこと眺めてしまった。


「リカルドは学園への入学が決まっていて、わたくしも通えるようにってこの屋敷も紹介してくれたのよ。お金のことだって色々工面してくれたわ」

「リカルド様は、どうしてそこまで?」

「お人よしですもの。放っておけなかったのではないかしら。わたくしの他に友達もいなかったようですし」


 なんとなくではあるけれど、ここまでのこと全てがどこか私には歯車のずれているような気がしてならなかった。

 その答えを今私は掴んだ気がした。でも、それを言ったところで、アメリア様は聞かなさそうだと、長年シーフィという妹と付き合ってきた私にはわかる。

 というか、なぜリカルド様が私に好意を抱いているという誤解をしているのだろうか。


「アメリア様は今一度リカルド様とお話してみてはどうでしょうか」

「あらためて話すことなんてないわ。わたくしほどリカルドのことをわかっている人間はいませんもの」


 自信満々なその姿は、ルイス様の婚約者としていつも自信のない私にはとても眩しい。最近まで庶民だったとは思えないほどに堂々としているのは尊敬してしまう。

 

「さぁ。あなた、ここまでで良いわ。後はわたくしとルティリアの2人にしてちょうだい」

「お嬢様、本当になさるおつもりですか?」

「えぇ!当たり前ですわ!」


 私とアメリア様の紅茶が空になる頃、アメリア様がすくっと立ち上がった。


「では、ルティリア。勝負を始めましょう」

「勝負、ですか」

「えぇ、あなたがあまりにもサンドイッチを召し上がっていたことは聞き及んでいますわ」

「え」


 あのサンドイッチを見られていたというのだろうか。しかもそれが1年の子にも伝わっているという。

 羞恥心で顔が真っ赤になるのを感じて、思わず俯いてしまった。その様子をアメリア様はどう捉えたのか、ふふんと笑っている気配がした。


「料理対決いたしますわよ!」

「料理、対決」



次は18時頃に更新します

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