12.愛情
ホルン家がめでたく取り潰され、私は平民になった。
ルイス様のご両親と顔を合わせた時は緊張で胃がねじ切れるのではないかと思ったが、ご両親は安心した表情で私の手を取ってくれた。
「ルイスは愚かすぎるのだけど、見捨てないでね」と言われた時など、驚きすぎてルイス様がどれほど好きかと話してしまい、恥をかいた。
ご両親は涙を浮かべていたが、私も泣きたかった。
貴族学園から退学になるかと思ったが、ルイス様の婚約者となったため、学園に残れることになった。しかし、シーフィは別で本妻の実家へと移るのと同時に退学したのだった。
噂話の餌にされるのがイヤだったのだろう。
かくいう私もホルン家の取り潰しについて、何か言われるんじゃないかと身構えていたが私の心配は杞憂だったようだ。
『ルイス・ヴィクターの婚約者』という肩書が広がったおかげで、学園の人達はルイス様の怒りを買うわけにもいかないと判断したのか、私は快適に学園生活を送れている。
「何はともあれ、収まるところに収まって良かったな」
「あの……私がここにいるのは場違いすぎるのでは」
学園は階級社会の縮図で、サロンの2階席など爵位の高い人達しか使用を許されていないのは暗黙の了解だ。
平民となった私が立ち入っていいわけないのに、今この場にはルイス様とルイス様の友人と私の3人がいる。
にこ、と話しかけてきたのは、私がホルン家から脱出した日、ルイス様と一緒に来ていたルイス様の友人だ。
「ルティリアは俺の婚約者だ。今すぐ結婚したいくらいなんだが、卒業まで待つのがいいだろう。ルティリアの家のこともある」
「お前吹っ切れすぎだろ」
あの日から私はヴィクター家に住まわせていただき、筆頭公爵家の長男の婚約者として教育を受けている。妾の娘の私は今までろくな教育を受けていなかったため結婚は卒業後というのも、その点に尽きる。
知らないことばかりの教育は辛いかと思えたが、ルイス様にふさわしい人間になるべく努力していると思うと楽しかった。
呆れたようにルイス様を見ている姿に、私ははらはらとしたが、ルイス様は素知らぬ振りをしていて、呆れたように見られるのが今日だけではない気がする。
「あ、俺セディ。よろしく」
「ルティリアです。家名はなくなりました。えと、あの日ルイス様と一緒に助けてくださってありがとうございます」
「セディの名前は呼ばなくていいし、セディもルティリアの名前を呼ばなくていい」
「お前は喋らないでもらえないか」
私とルイス様のお皿にはトマトソースがかかった鶏肉、セディ様のお皿には白身魚のソテーが置かれている。これはサロンに連れてこられて混乱している私をみて、ルイス様が「俺と同じものを」と言って頼んだ結果だ。
遅ればせながらへらりと笑っているセディ様と私の間にルイス様が割って入ってきた。
ルイス様の前にある鶏肉に、フォークが突き刺さっているのは見なかったことにする。
仲の良い2人の様子が、私には目新しくてくすくすと笑ってしまった。
「ルティリア?」
「ルイス様。私に幸せをありがとうございます」
ルイス様に感謝をいうと、自然と私は笑顔になった気がした。
だって、私をみたルイス様の顔がほほ笑んでいるのだから。
私にはルイス様を包もうとする愛が胸の中にある。それはどろりとして化け物のようかもしれない。けれど、ルイス様は私にその愛を求めてくれるのだろう。
母へと私は思いをはせる。
――私は大好きな高嶺の花と共に生きていきます。
お付き合いいただきありがとうございました。
一人称視点楽しかったです。
後日活動報告にて登場人物について補足や余談を書きたいと思います。
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