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11.結末

 次の日、ルイス様は宣言通り私の元へと来て、昨日と同じようにソファに身を預ける。

 ぴりっとした張り詰めた緊張が部屋に走る。


「まず、君の家の事から話そう」

「はい」


 ルイス様は長い脚を組んで、口を開く。

 話すことは既に決めていたのか、その口はするすると動いている。


「ホルン男爵は昔から領地から不当な税を取っていた。まぁ、本妻に無関心故に贅沢をさせて黙らせたかったのだろう。それだけで収まるような女ではなかったようだがな」


 愛が芽生えなかった父と本妻ではあるが、ないがしろにされてしまうというのはさぞプライドと体裁を傷つけられるものだろう。社交の場で笑いものにされていたのかもしれない。

 鬱憤を晴らすのと、愛されているのだと見栄を張りたかったのか、ドレスも宝石も買いあさっていた。私の母は贅沢に興味はなかったが、父は母を着飾りたがっていた。

 貴族とはいえ男爵家はそれほど裕福ではないだろう。

 興味がなかったが、言われてみれば納得するものだ。


「それだけじゃ足りなかったからちょっとかさましはしたが」

「かさまし?」

「気にするな」


 気にしないというのが無理な単語が聞こえた気がしたが、私は口を閉ざした。

 聞かない方が良いということもあるのだ。筆頭公爵家にどんな権力があるのか、想像もできない。


「ホルン家は取り潰されることとなった。領地は返還されることだろう」


 社交の場に出たこともなければ、領地経営など目にしたこともなかった私は、自分の家が潰されることになったと聞いても何も感じなかった。

 なくなってしまうのかぁと他人事だ。

 

「ホルン男爵は逮捕され、生涯を牢の中で過ごすことだろう。俺としては刑が軽いと思うが、これ以上を求めるとルティリアにも不名誉な話が付くかもしれない。湧いた傍から消すつもりだがな」


 なぜだろう1つ1つに気にしないことが出来なさそうな言葉が混ざっている。

 しかし、あまりにも淡々と結論を述べるルイス様に、私は何もいえなかった。


「本妻とシーフィは男爵と離縁し、実家に帰るそうだ。ルティリアは平民となる」

「そ、うですか」


 平民となったことはどうでもいいというか、除籍を望んでいたのだからそうなることは理解していたつもりだった。

 けれど、平民の私が筆頭公爵家の長男のルイス様と結ばれるわけがない。

 思わず唇を噛んだ。


「ルティリア。昨日の返事を聞いてくれるか」


 ホルン家の話は終わったのか、ルイス様が私の目を見つめる。吸い込まれそうな湖畔の瞳を見て、私は生唾をのみ、ごくりとした音が部屋に響く。

 平民になった女なんて、ルイス様にはふさわしくないのだから、フラれることは確定だ。


「ルティリア、俺と結婚してくれないか」

「は……え……?」


 ルイス様の声が部屋に響き渡る。フラれる覚悟をしていた私は頭の中が真っ白になった。

 今何を言ったのか理解が追いつかない。私はきっと口を開けて間抜けな顔をしていることだろう。 

 そんな私に構うことなくなおもルイス様は口を開いた。


「10歳の時に出会った時から、ルティリアが好きだ」

「!」

「笑った顔の美しさは筆舌に尽くしがたいが、一番はガラス玉の瞳を輝かせて語るルティリアの姿が好きだ。その瞳に俺を映してくれたらとどれだけ夢をみたことか」

「ちょっ」


 次々の告白に、真っ白になっていた頭も覚めるというもの。しかし、覚めてしまえばルイス様の言葉に、ぶわぁっと顔に熱が上がる。昨日火を噴きそうなくらいに顔が熱くなったが、そんな比ではない。

 昨日の私の告白の意趣返しかと思うくらいのルイス様に、昨日のルイス様のように手をかざす。

 待ってほしい。


「ルティリアは昨日重すぎるといったが、俺は大歓迎だ」


 ルイス様の湖畔の瞳が細められて、美しい曲線の唇がほころぶ。その微笑みは背景に花が溢れ、視認できそうなくらいに色気が香り立っている気がした。

 傾国の危険さえありそうな美しさにくらりと眩暈がする。

 

「でも、私は平民に……」

「それがどうした。俺の母と父は俺が好きになった相手なら誰でもいいと言っている」

「そんな、筆頭公爵家なのに」

「むしろ10歳の時からルティリアに惚れていることは母も父も知っていることだ。ルティリアさえ良ければ何の問題もない」

「はい?」


 そればかりは本当に聞き逃せない。私には理解のできない言語で話しているのではないかと思える。

 筆頭公爵家の長男の婚約者が誰でもいい、平民でもいい、という上に既にご両親からは私の意思次第だと許可をもらっていると、ルイス様は本当にそう言っているのだろうか。

 正気を疑ってしまう。

 目を白黒させてしまっている私は何も言うことができない。


「そして謝らせてくれ。ルティリアをホルン家から助け出すことがこんなにも遅くなってしまった」

「それはどうでも良いのですが」

「よくない。さぞ、怖かっただろう」

「い、いえ……」


 思い出したくもなくて、そっと目を逸らせば、ルイス様が私の隣へと移動してきてくれる。

 ベンチの時のよりも近い距離で、ルイス様が私の顔をのぞき込んでくる。

 傾国の恐れがある美貌でのぞき込こんでくるというのは美の暴力だ。

 湖畔の瞳をチラ見することもできない。


「平民になってしまうルティリアに求婚なんてずるいと思っている。しかし、俺はルティリア以外を愛することなんてできない」

「ルイス様……」


 そっと手を重ねてくるルイス様の手はとても冷たくて、ルイス様の緊張が伝わってきてしまった。


「ん゛っ……不意打ちで名前を呼ぶのはやめてくれないか」

「え、はい。ご、ごめんなさい」


 おずおずとルイス様の手に自分の手を重ねる。

 まだ自分の中にあるものをルイス様に向けて捧げることは怖い。

 私を見ていたどろりとした妄執は、きっと私の中にもあるのだから。

 それでも、ルイス様が良いというのなら……。


「私と、結婚して、くださ」


 最後までいう前に私の視界は光を集めた髪で染められる。体を回る腕に抱きしめられていると気づくのはすぐだった。

 心地よい温かさが私に安心を届けてくれる。


 はぁ、と首すじをくすぐる熱い声は、甘く私の体に溶け込んでいった。

軽めのざまぁとなりました。

次で完結します。


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