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ハナニアラシ 1

 あたしは運動が出来るわけでもなく、勉強も中の中だ。容姿もこれと言って特徴があるわけでもない。これまでは、ずっと同じ学校だったけど、高校はきっと別の学校になる。

 ただ幼稚園の時の縁で少しだけ話せるくらいの希薄な関係が、ますます希薄になる未来しか見えない。


 『まなちゃんの番』と言った理沙ちゃんの声が聞こえた。


 だからあたしは決めたんだ。

 もしも小林くんと同じ高校へ行くことが出来たら、告白する、と。


 中三の十月から志望校を2ランクもあげたあたしに、周囲はびっくりして反対したけれど、お姉ちゃんの応援もあって、無事合格した時には更に大騒ぎだった。

 特にあの渋い顔をして、私立へ行くつもりで、と言っていた担任の喜びようが凄かった。こんなに高い声が出たんだ、と一年間を振り返っても聞いた覚えのない興奮した声だった。

 まさしく天にも昇る気持ちとは、こういうことを言うのだろう。

 今ならきっと告白も上手くいく。


 それなのに。

 空も飛びそうなあたしの浮かれた気持ちは、あっという間に地上へ引きずり降ろされた。


 四月。

 白貴(はくたか)高校の入学式に小林くんの姿は無かったのだ。


「正樹君、蒼星(そうせい)学園だって」


 情報をもたらしてくれたのはお母さんだった。仕事帰りに寄ったスーパーで小林のおばちゃんに会ったので車通勤の母が一緒に乗せて帰ってきたらしい。

 小林のおじちゃんは二年程前に癌が見付かって闘病中だったそうだ。公立高校の試験日だったあの日、病院から意識不明で危篤だという連絡があって、その三日後に亡くなってしまった。お葬式は身内だけでひっそりと行ったらしく、近所だというのに全く知らなかった、とお母さんも落ち込んでいた。

 小林くんが公立に落ちるなんて信じられなかった。だけど、そんな理由があったのなら、もし試験を受けていたとしても平常心ではいられなかったのではないかと思う。

 あたしなんかが受かってしまってごめんなさい。

 話を聴いた瞬間にそう思ったけど、そう思ってしまった事でさえ烏滸がましい、と反省した。

 お姉ちゃんの力を借りて、底上げしたあたしの学力は入学した直後から自分の頭の悪さに打ちのめされた。

 特に数学が致命的で、どんなに考えて教科書を読み返してもどの公式を使うのかさえ解らず、四時間かけても宿題を 終える事が出来なくて、ほとんど白紙のままのノートを提出する羽目になった。


 蒼星学園は私立だし、年子のこーくんも高校受験を控えている。小林のおばちゃんは先月から正社員で働き始めたそうだ。家事があんまり出来なくなって心苦しい、と溢していたみたい。

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