サクラサク 1
「…お姉ちゃん、あった?」
「まだ探し中」
高校合格発表の日、自分で確認するのが怖くて、付き添ってもらった四つ年上のお姉ちゃんに番号を探して貰っている横で、あたしは目をギュッと瞑って両手を胸の前で組み合わせて、「受かっていますように」とひたすら祈っているだけだった。
既に滑り止めの私立は合格が決まっていた最後の三者面談で担任には「模試の結果では偏差値が足りていないから、どうしても受けると言うならもう私立へ行くつもりで受けなさい」と落ちる事を前提とした言葉を貰いつつも、受けさせてもらった高校なのだ。
「愛美、おめでとう。ほら、自分でも見てみなさい」
お姉ちゃんが、あたしの頭を受験票でポンポンとする。慌てて掴まえた受験票で番号を確認して、貼り出された合格者の番号と見比べた。
「やった!」
間違いなく自分の番号がある事を確認して、あたしはお姉ちゃんに抱き着いた。
担任にも両親にもランクを下げて受験しなさい、と言われた中、唯一味方になってくれたのはお姉ちゃんだけだった。
あたしと違って頭の良いお姉ちゃんは有名な国立大学へ進学したと同時に一人暮らししていたにも関わらず、冬休み中実家に戻ってきてみっちりと家庭教師をしてくれた。神様、仏様、お姉様、と何度拝んだことか。持つべきものは、頭が良くて世話焼きな姉だ。今もこうして付き添ってくれるんだから、本当に有り難い。
「ほら、お父さんとお母さんにLINEしないと。離れて」
いつまでも抱きついて離れないあたしをお姉ちゃんが引き剥がして、掲示板の前から移動する。高校の校舎の陰に入るとひんやりとしていた。
お姉ちゃんがLINEを打つ間、四月から通う事になる校舎をうっとりと眺めていた。
驚くほど早く「おめでとう」のスタンプが二件届いた。朝から仕事に行っている両親はちゃんと仕事をしているんだろうか。
あたしはまだ残念ながら自分のスマホを持っていない。早く仲間に入れるようになりたいけど、この高校はアルバイト禁止だからすぐには難しいかもしれない。お父さんの教育方針でスマホは自分の稼ぎで持ちなさい、と言われている。だから、お姉ちゃんのスマホはお姉ちゃんがアルバイトをして買ったものなのだ。月々の支払いも自分でしなくちゃいけない。
合格者は、入学説明会の案内が入った封筒を受け取って、帰宅する。浮かれてフワフワになっているあたし一人で来ていたら、危ないところだった。改めて、お姉ちゃん大好き、と心の中で叫んでしまった。