プロローグ
――ありえない。
こんなのアニメでしか見たことがない。助けを求めたいところではあるが、まず叫び声なんて上げられる状態じゃない。逃げようと足を動かそうとすると、体が動かなくなっていることに気づく。おまけにこんな怪物もいる。助けなんて来ない。
――痛い。
怪物にその岩のような手で体を殴られ、死を身をもって体感する。体が金属のように冷たい。肩や腹などの部分にぽっかりと穴が空き、その穴から血が流れて、カーペットの様になっているのが分かった。
――辛い。
手から感覚がなくなり、体を刺激する。その今にも閉じそうな目で手の方面に視線を落とすが、手と呼べるものは取られていた。
どんどん視界が暗くなっていく。
「将...働...て返......くれれば...」
「...配なんて...なくて...いの」
「分...った?」
突然、おっとりとした女性の声がする。遠い昔に亡くなった母親の声。
声がして間もなく、体から痛みが取れていく。
「動ける...動けるぞ!」
血は止まっていた。
あの怪物ももういない。
「生きてる、生きてる!」
だが、立った瞬間に意識が遠のいていく。
そして次の瞬間、日堂和祈は貧血で倒れ、死亡した。
* * *
――あれ?
目を開けると、見知らぬ天井が見える。保健室のベッドで横になっていたのだ。
安堵のあまりため息をつく。あれはすべて夢だったのらしい。
致命傷は見当たらない。肩や腹などの部分の穴も無い。違和感があるとすれば、左腕が重い事くらいだ。
――なんだこれ...
安堵の感情は一瞬で消え、恐怖と絶望と衝撃と不安と悲しみと苦悩と困惑と諦めとその他諸々の感情が混ざり、頭の中が真っ白になる。
――これは夢だ。
整理して間もないうちに、今度は右腕が重い事に気づく。
――間違いない。
眉間にしわが寄り、顔がみるみるうちに青ざめていく。まるで白ペンキのように。
「なんだよ...なんなんだよ!!!」
頭を抱えて叫ぶ。
「なんでこうなるんだよ!」
彼のその重い腕や足は、怪物の様に、いや――怪物に変化していた。