青春短し、恋せよ乙女
「ねぇ、ミカ今日の放課後、いつものマックいかない?」
「いいよ~。今日は部活もないし」
「ありがとう! 実は今日は相談があるんだ」
「へぇ~、聡子からの相談なんて珍しいね。いつも私の愚痴聞いてもらってるばかりだし。なんか、聡子って悩みなさそうなイメージだから」
「失礼な! あたしだって、年相応の乙女の悩みはあるんだから」
「乙女の悩みねぇ。どんなものかねぇ」
「あー、こっちこう見えてもは真剣に悩んでるんだから」
「本当~?」
「ほんとにほんと。マジでガチな話なんだから。真剣に答えてよね!」
「わかった、わかった。じゃあ、放課後ね」
「うん、覚悟しててね!」
「なんのさ……」
「あ、チャイム鳴った、あのカバ面そろそろくるから、またね!」
「……先生のこと、カバ面なんて呼ばないの!」
「大丈夫だって! アイツも薄々気づいてるでしょ!」
「そういう問題じゃないような……」
「ミカ、帰る準備終わった?」
「……聡子、チャイムダッシュ早すぎ。私はゆっくり片づけしてから帰りたいの。もう少し待ってて」
「まじめさんだなぁ~。ミカは。あたしなんてほら、鞄の中空っぽだよ?」
「……ねぇ、今日課題でてるの、忘れてない?」
「あれ、来週でしょ? 期限。ならギリでやれば大丈夫だって!」
「あのねぇ。課題は早めに片づけるものだよ?」
「はいはい、説教はそれくらいにして。そろそろ行くよ?」
「いや、まだ片づけ終わってないから。こうやって無駄話してるだけで私の時間は、すり減っていくんだから」
「そそ、時は金なり。チャイムも鐘なり。ってね。昔の人はいいこと言ったもんだよ。うんうん」
「チャイムは関係ないと思う……」
「じゃ、あたしは先に校門に行ってるね~」
「いや、ちょ、待ってよ!」
「チャイムは鐘なりなのだ~。命短し、恋せよ乙女。な~んつって。青春は待ってくれないのだ!」
「聡子、意味不明なこと言ってないで、ちょっと待っててよ」
「いや、乙女の青春は待ってくれないのだ~! サラダバー!」
「……ほっんと、意味わかんない! いつものことだけど」
「ミカ、遅いよ~」
「ねぇ、言ったよね? ゆっくり片づけさせてって」
「あたしも言ったよ~。青春は止まらないって」
「いや、さっきと違うでしょ?」
「いいの、いいの! それよりもマック行くよ~? いつもの席取られちゃうかもしれないし。あたし、あの席じゃないとイヤだし」
「わがまま言わないの。お店だって聡子の為にやってるんじゃナインから」
「だから、言ったじゃん? チャイムは鐘なりって。チャイムダッシュしないと、あの席取れないんだから」
「まぁ、道路側で二席で景色もいいから、そこは認めるけどね。でも、片づける時間はほしいな」
「ミカがまじめでとろいんだよ。あたしみたいにサクッと帰ればいいのに」
「いやいや、私たち来年受験生だよ? もう高校二年の十月だよ? 進路に関して考えなきゃいけない時期だよ?」
「そういえば、ミカは進路どうするの?」
「私は国公立ねらってるの。だから勉強に必死について行きたいって」
「でた! まじめなミカさん!」
「……てか、聡子が考えなさすぎなんだよ。ちゃんと考えてる?」
「まぁ……ね。あたしだって、考えていることはあるのですよ!」
「本当にぃ~?」
「ほんとにほんと。まぁ、ぶっちゃけ、そのことで相談なのだわよ」
「へぇ、そうなんだ。でも、進学考えてるの?」
「うん、考えているといえば、考えているけどね。高卒の就職なんて今時厳しいし。それに行きたい学校もある程度は決まってるし」
「え? 初耳。そうなの?」
「そうだよ? 進路相談でいくつか候補題してるけど、どれも推薦枠通りそうだって。カバが言ってたよ」
「……先生をカバ言わないの。でもそうね……聡子、ふらふらしてる割には成績いいもんね。その秘訣を知りたいですよ。全く」
「だから、言ったじゃん? 乙女の青春は待ってくれないって!」
「だから、意味分からないって……」
「チーズバーガーのポテトドリンクセットで。ドリンクはコーヒーでお願いします」
「あたしは、ビックマック、チキンナゲットセットのLコーラで!」
「……聡子、私おごらないからね? 一緒に注文したら会計一緒になるでしょ?」
「ん~、今日はあたしのおごりでいいかな……」
「え?」
「今日の相談料。だから、しっかり相談に乗ってね」
「よくわからないけど、わかった……じゃあ、聡子おねがいね」
「はいよ~」
「よかったね、いつもの席取れて」
「この席は私たちを待っていたのだよ」
「……違うと思う。それにしても、聡子。その量食べるの?」
「うん、これがあたしのデフォルト。ミカは相変わらず小食だねぇ」
「いや、帰ったら家でご飯もあるでしょ?」
「まぁね」
「ねぇ……これ食べて、夕ご飯も入るの?」
「まぁね」
「……」
「どうしたの? あたしの体みて? なんか視線がいやらしい……。これが噂の視姦ってやつ!? ミカって、そうだったの!?」
「ちがうよ。それだけたべて、太らない聡子がうらやましくてね」
「あぁ、確かに太らないね」
「……なんか、ケロッと言われると、なんかムカつく。じゃあ、秘訣でも教えてくれませんかねぇ。その体型を維持するための。聡子さん」
「ひゃ、ひゃいしひゃこにょなきゅて」
「……食べながら話さないの! 行儀悪い。さっきから乙女と言ってた人がやることですかね」
「腹が減っては戦はできぬってね。じっちゃんが言ってた」
「いや、普通の格言だし。それにこれからなにに挑む気さ」
「もちろん、この後の相談だよ!」
「そんなに体力を使うそうだんなの?」
「もちろん!」
「なんか、気が重くなってきたなぁ」
「ひょんなきょとない!」
「食べ終わってから聞きます……」
「じゃあ、相談なんだけどさ……」
「うん」
「えっと……」
「うん」
「うんと……」
「うん」
「それでね」
「いや、まだなにも聞いてないし! その会話でわかると思ってるの? わかったら私はエスパーだよ!」
「エスパーミカさんだし」
「変な呼び方しない! で、なんなの? そんなにいにくいことなの?」
「あはは……いざ、言おうとすると、なかなか勇気いるね。ミカならきがるにいえるかと思ってたけど。こりゃ、告白するときはもっと言葉に詰まるんだろうな」
「だろうね……。って、告白!?」
「あ、言えた。うん、告白なの」
「えー、えー、えー!! そんな素振り全然なかったじゃない? いつからなの? 相手は誰なの? もう告白したの? もうつき合ってるの? もしや……」
「……ミカがこんなに食いつくとは思わなかった……。結構冷静に聞くかなって思ってたけど」
「だって、聡子だよ? あの聡子だよ? 小さいときから男勝りで、喧嘩して男の子泣かしてた、あの聡子だよ!? 食いつくに決まってるじゃない!! で、どうなの? どこまで行ったの?」
「だーかーらー! いったん落ち着いてよ。告白もまだしてないよ……ミカに話したのが初めてなんだから。それでも言葉に詰まるなんて、あたしは告白には向かないのかねぇ」
「なに落ちつているのよ! 青春は一瞬っていってたの聡子じゃない! こんなおいしい……もとい、親友の相談なんだから、もちろんしっかり聞くよ!」
「ありがと。でも告白はまだ先にしようかなって、思ってるんだ」
「え? なんで?」
「進学のこと考えると、うつつ抜かしてる場合じゃないような気もしてきたし、それに、あたし告白するタイプでもないしね。とりあえずは、あたしに好きな人ができたことを、ミカに伝えたかったの」
「そっか。ありがとう。でもさ、青春は一瞬ってミカ言ってたじゃない? 片思いのままでいいの?」
「なんか、それでもいいかなって、思えるようにもなってきたかも。ミカに話して少し冷静になれたかも」
「えー! あきらめちゃダメだって! 事情はまだよくわからないけど、あきらめちゃうような相手なの?」
「トオル」
「え?」
「トオルなの」
「あの、喧嘩してよく泣かせてたトオル?」
「うん」
「あの、悪さばっかりしてたトオル?」
「悪さはないよ……。あれはいたずら」
「いや、いたずらにしては度が過ぎてるでしょ……。中学校の頃に蛇を学校に持ち込んで、女子追いかけ回したり。あげく、逃がして学校中大混乱で。そして、全校集会になったじゃない?」
「トオルはお茶目なんだよ」
「いやいや、お茶目じゃすまされないって」
「あんまり、あたしの好きな人を否定しないでよ……」
「あ、ごめん。つい……」
「いいよ。全然」
「で、トオルのどこが好きなの?」
「それがさ……」
「それが?」
「わからないんだ」
「え?」
「だから、わからないなんだよ。なんか中学校三年生あたりから、意識するようになっちゃってさ。自分でもよくわからない感じだから、戸惑ってるんだ」
「そっかぁ……」
「でもね。意識し始めてから、トオルのこと思い出すと、胸が痛くなって……あたし、変かな?」
「全然! で、どうしたいの? 告白したいの?」
「ううん。あたし自身もわからないんだ。これが恋なのか。まぁ、でも恋なら、あたしにとっては初恋だね」
「……うーん」
「ん?」
「ねぇ、告白してみたら?」
「え?」
「たぶんね、告白したら、気持ちも整理できるんじゃないかって。私はそう思ったの。このもやもやしたまま、青春がすぎても後悔しないの?」
「そりゃ……まぁ」
「じゃあ、わかった! 私が台本用意するから、次の金曜日に告白しなさい!」
「え? ちょっ、急すぎて……」
「善は急げ! チャイムは急げ! でしょ?_」
「うんぎゅう……」
「机に突っ伏さないの。行儀が悪い。じゃあ、これからリハーサルね!」
「へ?」
「リハーサルするの! 聡子の恋路を応援したいから!」
「ひぃ……」
「おごってもらったんだから、これくらいはするから! 覚悟してね!」
「わかったよ……」
「じゃあ、決まりね!」
「ミカ……」
「どうしたの? って、聞くまでもないか」
「ミカぁ~!!」
「よしよし。今はいっぱい泣きなさい」
「ミカぁ~! ミカぁ~!!」
「うんうん、がんばったね。よしよし」
「ダメだったよぉ!!」
「うんうん、そうして人間は強くなるんだから。いっぱい恋しようね?」
「うぇぇん……」
「聡子、強いね……私なら負けそうだよ。今日は私が一緒にいてあげるから、いっぱい泣いて、忘れようね」
「ミカ、ありがとう……」
「うん、落ち着いた?」
「うん、大丈夫だよ」
「よかった。私も聡子の勇気見習ってみたいなぁ」
「……ねぇ」
「なぁに?」
「ミカには好きな人いるの?」
「う~ん。どうだろう? 私の青春は机で削られてるかも」
「そっか……」
「恋をした聡子を尊敬するよ。私も恋してみたいなぁ」
「そう……かぁ」
「ん? どうしたの?」
「なんでもな~い。ミカ、今日はありがとう。帰るね」
「わかった、気をつけて帰ってね」
「うん、ありがとう! バイバイ!」
「は~い! また学校で!」
「……。なんで、トオルはミカが好きなんだろうな……。帰ってまた泣こう。泣いて忘れるんだ!」