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君を好きになった

今回は少しバイオレンスがありますが、恋愛をテーマにしています。第1話と共通するアイテムが登場するのと、主役の男性がある事を言います。ちょっとした隠れアイテムみたいな感じです。それでは、どうぞ✨

 信じられない。我慢の限界。もう嫌だ。男は私を傷つける。今度こそ上手くいくと思っていたのに。信じていたのに。

 

 彼が急に冷たくなったり、連絡をしなくなったりする意味が分からない。

 

 何かあると私ばかりを責めて、全部私が悪いと怒鳴って、あの男は都合が悪くなると私のせいにして自分を正当化する。


 あの男は自分の話ばかりして私の話を全く聞いてくれない。私が話そうとすると直ぐに遮って自分の話に夢中になる始末。

 

 私はなんなの? ねぇ、あの男のなんなのよ? いつも煮え切らない、はっきりしない、意味ありげな態度で人の気持ちを弄んでばかり。

 

 あの男から一方的に別れを切り出された。

 

 これ以上の屈辱は耐えられない。

 

 私、知っているんだから。あの男に女がいるって、知っているんだから。

 

 私は部屋から飛び出してきた。

 

 

 

 ☆君を好きになった☆

 

  ・蒼井真ノ介

 

 私は淋しさに耐えられなかった。当てもなく夜の街を、独り、さ迷うしかなかった。雨に濡れた女に目を向ける者は誰1人いなかった。

 

 道端で私に絡んでくる連中のほとんどは酔っ払いのくだらない親父か、悪ふざけが過ぎるミーハーな大学生か、敵意剥き出しの、やさぐれた女の突っ掛かった視線だけだった。

 

 迷い込んだ場所が悪かった。薄汚れて、うらぶれた街には、まともな人間なんているわけがない。私は何を求めて歩いているのか。引き裂かれた心を抱えていれば、腹黒い輩に睨まれて弱味に付け込まれるだけだ。

 

 「小雨、止んだかな?」私は夜空に手を差し出した。ようやく雨は止んだみたい。

 

 「お姉ちゃん、1万円でどう?」と、突然、赤いスカジャンを着たヤニ臭い男が息を吹き掛けながら言った。

 

 私は無視して男の横を通りすぎた。

 

 「可哀想に。こんな夜中に、ひとりぼっちは辛いでしょう?」と男は言って私の腕を掴んだ。男の指輪が私の腕に食い込んだ。

 

 「離せよ」と私は苛立って男の手を振りほどく。

 

「綺麗な顔をしているのに、乱暴な言葉はいけないなぁ。いいことをしようよ」と男は言って私の腕を強く掴み人気のないビルの間に引っ張っていこうとした。

 

 「やめてよ!」と私は必死に抵抗をしたが男の力に勝てるはずもなくビルの間に引きずり込まれた。

 

 「おい、1匹捕獲~。出てこいよー」とスカジャンの男は行き止まりの壁に向かって言った。

 

 暗がりから2人組の男が現れて私の方に近付いてきた。

 

 私は悔しくて、情けなくて、肩を落として唇を噛み締めた。悲惨な結果が目に見えている。悲劇を招いたのは自分に他ならない。私は隙をみて逃げ出す準備だけはしておこうと思った。チャンスはあるはずだ。

 

 「綺麗な顔だなー。いい女じゃんか! でかした! さっそく楽しもうぜ」50代くらいの太った男がヨダレを垂らしながら言った。ツバを飲み込む音が耳障りだった。

 

 「1万円で極上な女をゲットとはな!」黒いスーツを着た男がハンカチで手を拭きながら言った。暗がりでも分かるほど異様な目つきをしていた。

 

 私の隣にいたスカジャンの男が、一瞬、掴んでいた私の手を離した。

 

 私は今しかないと思い走った。

 

 「あっ、あの女、ナメた真似しやがって!」スーツの男が追いかけてきた。

 

 鳥目の私は覚束(おぼつか)ない走り方をして逃げた。スカートがいけなかった。

 

 スカジャンの男も追いかけてきた。

 

 太った男は「早く捕まえろ!」と怒鳴っていた。

 

 「もう少し、もう少しで道路に出れる」と私は呟きながら走った。

 

 「あっ」私は石につまづいて前のめりに倒れてしまった。鼻から温かいものが流れてきた。鼻血だろう。

 

 鼻血なんて5年ぶりに出た。体育祭でリレーの練習をしていて、今みたいにコケて鼻血が吹き出た。

 

 あのときはクラスメートが「マユ、大丈夫~?」と声を掛けてくれたので、気持ちが和らいで救われたけれども、今は違う。ヘタすれば命の危険がある状況になっている。

 

 「捕まえた! ヘッヘッヘ」スーツの男が私の背中にのし掛かった。

 

 スカジャンの男が私を抱き抱えて奥の方へと運んでいく。スーツの男と太った男は興奮しながら着いてくる。

 

 (万事休す。もはや、これまでか)と私は思った。

 

 「すいません」と後ろからよく通る男の声が聞こえた。

 

 最初は聞き間違いか、幻聴に違いないと思ったが、少しだけ期待を込めて耳を澄ました。

 

 「すいません」とまた男が言った時には、私は変質者に抵抗する気力が復活した。

 

 「あん? 誰だぁ?」スーツの男は前屈みになって声の主を探した。

 

 「すいません」と3回目の声が聞こえた時、私はスカジャンの男に抱き抱えられたまま「助けて!」と大きな声を出した。

 

 「黙れ!」と太った男は慌てて言った。

 

 「さっき俺に1万円をくれるとか言っていませんでしたか?」と闇に潜む男は変な事を言い出した。

 

 「言ってねぇよ。悪いことは言わんから消えな」とスーツの男は追い払う仕草を見せて言ったが、まだ闇に潜む男の姿を確認できずにいた。

 

 「わぁあああ」と太った男は叫んで仰向けに倒れた。太った男は頭から血を流していた。顔中、血まみれになっていた。

 

 スーツの男が慌てて駆け寄ったが、太った男は意識を失って気絶していた。

 

 「おい、一体どうしたんだよー」とスーツの男は太った男を揺さぶったが意識は戻らなかった。

 

 私は力強く足をバタつかせるとスカジャンの男は私を離した。

 

 私はお尻から地面に落ちた。

 

「いたい」と私は言って、お尻をさすりながらスカジャンの男から少しはかり離れた。

 

 スカジャンの男は私の存在を忘れきったみたいに怯えていた。

 

 突如、太った男が血まみれになって倒れたのだ。得たいの知れない声の主の力によって。

 

 「クソッ」とスーツの男はスカジャンの男の側に寄るとファイティングポーズを構えて必死になって暗闇を見つめた。

 

 身長178センチくらいの若い男が砂利を蹴散らしながら変質者の2人組に近づく。

 

 道路を横切る車のライトがビルの間を照らしていく。

 

 声の主、男の顔が見えた。

 

 男は美しい顔立ちをした本物のイケメンだった。汚れのない魂を持った美男子。白い長袖のシャツにブルージーンズを履いていた。額に掛かる前髪をかき上げて、左手で自分のアゴをさすりながら、ゆっくりと私の元に歩いてきた。


 私を見据えた情熱的な瞳が綺麗だった。男は柔らかな唇を少しなめて、ハニかんだ笑顔を私に見せてくれた。

 

 若い男は私の頭を優しく撫でると、スーツの男の前に悠然と立ちはだかった。

 

 「貴様は、なに者なんだ?」とスーツの男は指を鳴らしながら言った。腕に自信があるようだ。

 

 「コイツをぶっ飛ばしましょうよ」とスカジャンの男は若い男の頬を触りながら言った。

 

 若い男は溜め息を吐くとスカジャンの男の顔を左手で思い切り殴った。

 

 「うわぁぁぁ、痛てぇぇぇぇー!」とスカジャンの男は叫びながら、後ろへ、ふっ飛んだ。

 

 恐ろしく強烈なパンチだった。無駄のない見事なパンチだった。

 

 スカジャンの男は頭を振って口から血を吐くと、力なく倒れてしまった。完全にノックアウト。

 

 スーツの男は青ざめていた。

 

 スーツの男は震える手で胸元のポケットからタバコを取り出して口に運び、ズボンのポケットをまさぐってライターを探した。

 

 若い男はスーツの男の口からタバコを取り上げて地面に叩きつけた。

 

 「ここは禁煙だ」と若い男は言った。

 

「わ、悪かったよ」とスーツの男は体を震わせて言った。


 「この女性に何をするつもりだったんだ?」と若い男は言って私を見た。

 

 「ちょっとした冗談だって。悪かったよ」とスーツの男は若い男の肩を叩きながら言った。

 

「俺に触るな。指を折られたいのか?」と若い男は言って手を掴んだ。

 

「痛い、痛い。悪かった、悪かった」とスーツの男は手を離そうともがきながら言った。

 

「話の続きだ。この女性に何をするつもりだったんだ?」

 

「べ、別に何もしないよ」

 

「正直に言ったら考えても良いぞ」と若い男は無表情な顔で言った。

 

 「一緒にカラオケに行こうよ、って誘ったんだよ」スーツの男は見え透いた嘘をついた。

 

 「俺を馬鹿にしているのか? 直接、この女性から聞く」と若い男は言って私の方を向いた。

 

 「何があったんです?」と若い男は優しい声で言った。

 

 「襲われそうになりました」と私はスーツの男を睨み付けて言った。

 

 「分かりました。辛い質問をしてしまって、ごめんね」と若い男は言うと、的確な素早いパンチでスーツの男の鼻を殴った。

 

「ベキッ」と骨が折れる音がした。

 

 若い男はスーツの男の髪の毛を引っ張って引きずると頭を下に向けて顔面をヒザ蹴りした。反動で顔が上がったところを右手の重いパンチを食らわせた。

 

 スーツの男は悲鳴をあげることなく仰向けに倒れたが、かなりダメージが大きく危険な状態に見えた。

 

 若い男はスーツの男を気にすることなく振り向くと、私の方に向かって歩いてきた。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「お姉さん、大丈夫かい?」と若い男は言って私に手を差し出した。

 

 「どうもありがとうございます」と私は言って立ち上がると震える手でスカートのホコリをはらった。

 

 「こんな時間に女性が出歩くのは危険だよ」

 

 「すみませんでした」

 

 「家はどこ? 送っていくよ」と若い男は言って背中を向けてしゃがんだ。

 

 「えっ?」と私は驚いて、後ろに2、3歩下がってしまった。

 

 「おんぶする」と若い男は言った。

 

 「私、重いから、いいです」と私は言って断ったが、本当は照れくさかったけど嬉しかった。

 

「いいから、早く背中に乗って」と若い男は言った。

 

「はい」と私は言った。私は高鳴る鼓動と切なさに戸惑いを覚えたまま、若い男の大きな背中に乗った。

 

 「しっかり掴まっててね」と若い男は優しい声で言うと道路に向かって歩き出した。

 

 若い男は凄くいい匂いがした。頭からはバラの香りが、体全体からは爽やかな香水の香りがした。少しだけ男の匂いと石鹸の匂いもした。私は夢心地になっていた。いつまでもこうしていたいと思っていた。

 

 「お姉さん、御名前は? 俺はジミー」


 「ハーフなんですか?」

 

 「いや純粋な日本男児だよ。本名が淳一というんだ。あだ名がジミー」

 

 「私はマユ。本名は麻友美。皆からはマユって呼ばれているの」

 

「麻友美か、可愛い名前だね。ところで麻友美さん、こんな遅くに出歩いて、どうしたの?」

 

「う、うん」

 

「何か嫌なことでもあったのかな?」

 

「えっ、ま、まあ」

 

「よかったら、話を聞くよ」

 

「淳一さんに迷惑を掛けてしまうので」


「構わないさ。その前に麻友美さんの家はどこ?」

 

「23丁目です」

 

「あらま、結構、遠いんだね」

 

「すみません」

 

「全然大丈夫です。さあ、話してごらん」

 

 「うん。私、付き合っている男性がいるんですが、最近、私に冷たくなったり、連絡をしなくなったりするんです。一方的に別れを切り出されたかと思うと『よりを戻したい』と言ってきたりの繰り返しだったんです。実は彼には、他に女がいるのも知っています」

 

 「そりゃヒドイね」

 

 「なんだか嫌になってしまって」

 

 「彼のことは今でも好きなのかい?」

 

「わからない」

 

「気持ちがないなら別れた方が良いよ」

 

「でも……」

 

「迷っているのかい?」


「上手く言えないけど自分に腹が立つというか、どうしてあんな男に、ってね」


「わかるよ」


「だから歯がゆい感じなんです」


「キツいこと言うけども、彼は麻友美さんの事を愛していないと思う」

 

「う、うん」

 

「浮気をする男というのは未熟な男の証明、証拠なんだよ。本当の愛を知らないんだ。くだらない男と関わるのは時間の無駄だよ」

 

「うん」

 

「麻友美さんを傷つける男に未来はないよ。麻友美さんは可愛いのだから新しい恋に生きた方がいい。新しい恋に生きようよ。自分を大切にして勇気を出してごらんよ」

 

 私は淳一くんの温かい励ましに心が救われた。

 

 淳一くんみたいな優しくて強い男の子が私の彼氏だったらいいのにな。いけない、失恋したばかりなのに不純な考えかな。

 

「麻友美さん、見てごらん。満月だよ。綺麗だね」

 

「わぁー、きれい」

 

 満月に照らされて暗く沈んでいた気持ちに明かりが灯る。

  

 何度も流星が尾を引いて夜空を飛んでいく。

 

 願い事を叶えたい。

 

 私の願いは安らぎ。

 

 安らぎが欲しい。

 

 「淳一くん、聞いてもいいですか?」

 

「いいよ」

 

「淳一くんは、何であの場所にいたの?」

 

 「実は散歩していたんだよ。家の近所をね。今日みたいな涼しい夜だと遠くへ歩きすぎる事が多いんだ。僕の散歩はね、ちょっと人とは違うんだ。普通、散歩ってシンプルでしょう? 僕の場合、ヘタすりゃ7キロも歩く事があるんだよ。ネオンに誘われた野良猫みたいに、ひたすら歩いていたら、偶然、麻友美さんの姿を見かけたということなんだ」

 

「へぇぇ~、そうだったんですか。手、痛かったでしょう? ごめんなさい」

 

「なんのこれしき。屁の河童ですよ」

 

「ウフフフ。本当にありがとう」

 

「照れるから、もう良いよ」淳一くんは耳たぶまで真っ赤になっていた。赤面しているんだと思う。

 

「凄く強かったけど、何かしていたんですか?」

 

「まあ、ちょっとね。武術を多少嗜んでいます」

 

「どんな武術なんですか?」

 

「たぶん、知らないと思うし、聞いたことがないと思うよ」

 

「知りたいです」

 

「サンダー拳だよ」

 

「へぇ~、知らないけども、スゴい!」

 

「ありがとう」


「もう少しで23丁目だよ」


なんだか別れがたい。淳一くんと離れたくない。私、どうしちゃったのかな?

 

「麻友美さん?」

 

「はい?」

 

「バラは好き?」

 

「はい」

 

「あそこになぜだか、一輪のバラがあるけども『麻友美さんの家で咲きたいよー』って言っている気がする」と淳一くんは可笑しな事を言って、私をおぶったまま、しゃがみ、バラを抜いた。

 

「麻友美さん、はい、どうぞ」淳一くんは、一旦、私を下ろしてからバラを渡してくれた。


「ありがとう。勝手に取っても大丈夫なのかな?」私は少し不安になった。

 

 「これもケセラセラさ」と淳一くんは優しく微笑んだ。


「麻友美さん、怒らないで聞いてくれる?」


「なあに?」


「僕と一緒に空を飛ばないかい?」

 

「えっ!?」

 

「シャガールの絵のようになりたいんだ」

 

「ど、どういう意味!? どういうこと?」

 

「つまり、麻友美さんの事が好きになった」

 

「……」

 

「好きになったんだ」

 

「嬉しい。どうもありがとう」

 

「えっ!?」

 

「うん? 淳一くん、どうしたの?」

 

「今、麻友美さんのバラが光ったよ」

 

「本当!?」

 

「うん、本当。見てごらん」

 

「うん、、、あっ!?」



満月の光に照らされて幸せの意味が分かった。

 

運命は予期せぬ形で訪れるもの。

 

私に愛が訪れたんだ。

 

絶望的な状況から救ってくれた淳一くん。

 

私は空を飛びたい。

 

淳一くんと空を飛びたい。


いつまでも、

いつまでも、


淳一くんの傍にいたい

ありがとうございました!

次回が最終回になる予定です。

書いていて楽しかったです!

またね✨

(●’∇’)ノ

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