ようこそシアター
家の玄関のドアを開けると、そこは映画館だった。
興行場法に基いて知事の許可のもと、興行会社『DON'T KOSE』は、映画のレイティングシステムに従ってミニシアター、『あゆみ館』を設立した。
キリンを愛護し、キリン愛護団体とも深く繋がりを持つその映画館は、1日のファーストデーや水曜日のレディースデーなどの他にキリンだけに適応されるサービス、『キリン割引』というものを設けている。
『キリン』と名のつく芸人やメーカー、幻獣には、とても嬉しいサービスだった。さておき。
指定席はなく自由席のみ、ただし先着順で座席を決める。世界遺産に登録でもされていそうな神殿式の外観で、一歩なかへと踏み込むとそこは、映画館というより癒しを追求したかのような印象を来た者、来た者に与えていくオアシスだった。
精霊とコンタクトし森林浴を楽しめる庭園、形式にこだわらずに12段階の緑でご用意した畳張りのお座敷、超温泉や餅エステを完備、秘孔マッサージ室、住職による住職のための座禅教室や広い意味でのママお料理教室、内容的にカテゴリの偏った図書館、美術館、博物館、動物園、リアル渦潮プール、ドリンク&肉カレーとごった煮バー、……おいおい、映画館かそこはと、完成予定図が初期のものとはかけ離れ過ぎていき、仕舞いには『気にしないでいこう、そしてキリン』という社長のいい加減さと願望を採用しての建設の運びになってしまったのだった。
さて、そんな余計な情報は一切知らず、『私』であるカヲルは館の案内人に先に示されて、話題だった映画を観にと入口から楽しみに入っていった。片手には串に刺さったポップなコーン、もう片手には手提げの婦人ミニバッグと酢アップルジュース。鮮やかなキリン印が紙コップの表面で歯だけを過剰に表しているが、きっと何かの啓発だろうと決めつけて無視をしていた。
家の前に夢のような施設。私の家がどんなものだったのかは語らないでおくが、比べてどれだけ我が家が激しくつまらないものだったのかを思い知らされる。少なくとも癒しなどない我が家。大変、施設の存在は有難いものだった。さあて。
噂の頻度の高い映画は、上映されて。
イスに座って並んだ観客は声を上げての笑いと、ビューティフルと賛美や感動を、目には涙を。
盛り上がりは、最高潮を迎える。ああ至福の境地だ、もうどうなっても、いいと。
『私』は目薬をさしながら観ていた、視界はスッキリとはしたが、徐々に時間が経つと眠ってしまい。起きたとき、するとそこには。……
……
館から出てくると、観客は次々と感想を好き勝手に漏らして、帰って行く。
面白かった。つまらなかった。
美味しそうだった。芸術ですね。不味かった。空気が読めません。
驚いた。つい突き飛ばしてしまった。橋の上。駅のホームでも。
もうすぐ3年目ですね。何がですか。浮気です。馬鹿言ってんじゃないよ。すみません。
今、ここに『私』の感想を記しておこう。
上映された『2010年宇宙の度~ランダム~』は、意外性づくしだった。
主人公のアルバトスがヒロインで王女のナニーを救いに、活躍する傍ら突き当たる壁。妖怪。
次々と迫りくるモンスター。蟻、熊、セイウチ。電気ねずみ。
手に入れた称号『人畜無害』のほか、『神と呼ばれたケント紙』、『成り行きまかせ』。
渡された武器、30cm定規。羽の生えたペン。土偶。
不可能を可能にするアルバトスの魅力に、『私』は最後まで圧倒されっぱなしだった。是非、まだ観ぬ人々にも、ご堪能頂きたいかと。
映画は。素晴らしかった。オススメ。
ただし。
観終わった後に無事に生還できるのかどうかは、保証しないでおく。
以上。
《END》
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H22.3.12.投稿