日本人が滅びる理由
カクダ製作所では、ありとあらゆる実験が行われていた。
テレビのニュースは、パンに針ではなく十円玉が混入されていたという事件が発生したらしく、報道をしている。実験室では、今日も開発のための科学実験が進んでいた。
「ちょっとした遊び心のつもりだっただろうが、もし十円玉を喉に詰まらせたらどうする? そんな風に、ささいなきっかけはそれが重要な発生源となり、のちに多大な迷惑を周囲にもたらすのだよ。解ったかね? ワットソン君」
科学者の嘆きは実験室からは、はみ出さない。
「はあ、解ったつもりになりました、シャーベット博士」
曖昧な返事をして、その場を取り繕う相棒は今晩も徹夜の予定だった。ホワイトボード上に記されていた。
「ひとまずよろしい。さて、ではこれを見てくれ」
シャーベット博士は黄色い飛沫の付着した白衣の袖から細い腕をするりと伸ばして指先のそれを見せてみた。親指、人差し指、中指の先で持て支えられるほどの小瓶に入った透明の液体は、今現在に開発中のものだった。
助手のワットソンは渡され受け取って首を傾けながら考えていた。
「これは、物に『意思』というものを与える薬なのさ」
言う博士は得意げに、鼻息を吹き飛ばしながら腰に手をつきふんぞり返ってむせていた。
「え、すごいじゃないですか!」
「ああ、すごいさ、もっと言ってくれ。だが、まだこれは研究段階」
「え?」
今年三十路を迎える博士、張り切ってもすぐくたびれて、助手に後はよろしくと任せたい。
「加減が判らなくてね……振りかけたものには、その通り、『意思』が宿るに見えるのだ、が……」
「が?」
「試しに、外の雑草にでも振りかけに行ってみるかね」
博士の提案は実行されるが話をした一時間後だった。黄色い飛沫の白衣は着替えられて青い飛沫の白衣になった。助手のワットソンは思い出して母親に電話をかけ、今日の晩御飯を聞いていた。「海老フライだよ」徹夜が憎かった、せめてサンマの塩焼きなら良かったのにと彼の嗜好は嘆く。仕事に私情や食欲は挟むべきではないと知りながら。
用事を片付けた後、外の中庭にと着いた2名は早速、小瓶のなかの液体を咲いていたタンポポに振りかけてみた。しかし何も起こらない、「変ですね?」と助手は言う。
「うーむ。加減を間違えたか? どうもよく解らん」
科学者の嘆きは中庭からは、はみ出さない。残念な結果だと、つくり直しを要求されたとみえ2名はがっくりとして屋内へと戻って行った、だが数日後である。
眠っていた日本列島は寝返りをうってしまった。
タンポポの根を伝い染み込んだ陸は、ひっくり返る。
その日、地球人類は初めて木星に到着したのだが、そこから持ち帰った菌は世界人類に感染し多大な被害と脅威をもたらす。偶然のような失敗は重なっていた。
日本人は滅びかけていた。
もし日本人に出会えたらこう言っておいてほしい、列島の機嫌を損ねるな、余計なことはするなよと。
宇宙からの忠告[メッセージ]だった。
《END》
やさしー宇宙人なら支配されてもいいです。
H21.11.11.投稿