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ある男子大学生の独白(後編)

   

「それでさ、俺が告白したらさ……。サッちゃん、なんて言ったと思う?」

「さあ? あの子、ああ見えて結構毒舌だから……。もしかして、かなり酷いこと言われた?」

「酷いなんてもんじゃないさ! サッちゃんが言うには『私より可愛い男の子とは付き合えなーい』だって!」


 電話の時点で、彼女が――『ファイナルブレーキ』が――用件を察してくれていたおかげで。

 俺は、飲み始めてすぐ、彼女に「またフラれた」と告げることが出来た。

 それで早速、こうして詳細を語っているわけだが……。

 目の前の彼女は、まるで「あちゃあ」と言いたげな顔で、俺の頭をポンポンと撫でた。

「まあ、田貫タヌキくんは女顔だからねえ。サッちゃんの気持ちも、わからないではないかなあ。うん」

「はあ? 俺がサッちゃんより『可愛い』とでも言いたいのか? あの、超絶美少女のサッちゃんよりも?」

「いやいや、田貫くん。サッちゃんは、十人並みの器量だよ? 不細工じゃないけど、超絶美少女は言い過ぎ……」

 ここで『ファイナルブレーキ』は、ちょっと顔をしかめて、

「まさか田貫くん、サッちゃんに対して『君は超絶美少女だ』みたいなこと、言ってないよね?」

 何を言い出したのだろう、この女は。

 ちなみに、サッちゃんほどではないが、『ファイナルブレーキ』こと尾張おわりトメも、十分に美少女なルックスをしていると思う。

 それに、優しくて包容力もある。その『包容力』を絵に描いたような、やわらかそうな体型。そこも彼女の魅力だろう。ムチムチした色気の方向性ではなく、ハムスターのような小動物みたいな可愛らしさだ。

 ある意味、俺の好みのタイプなのだが……。なんで惚れっぽいはずの俺が、この『ファイナルブレーキ』尾張トメには「惚れた!」とならないのか。自分でも不思議なくらいだ。


 ……と、目の前の彼女のことではなく。

 今は、サッちゃんの話だ。

「はあ? 言ったに決まってるじゃないか。だって、俺はサッちゃんを口説こうとしてたんだぜ? 当然のように、サッちゃんの魅力を語り尽くして……」

「ああ、はいはい。わかった、わかった。田貫くん、日岡ひおかちゃんの時と同じ失敗したわけね。もう忘れた?」

 彼女の言う『日岡ちゃん』とは、俺が二ヶ月くらい前に惚れていた日岡サナエちゃんのことだ。あの時は、確か……。

「なんだっけ?」

 思い出せない俺は、とりあえず日本酒を一口。うん、こういう時、口当たりの良い酒は、飲みやすいからありがたい。

「言ったでしょ。あまりの賛辞は褒め殺しに聞こえるから、気持ち悪いだけだ、って」

「そうだっけ? 別に、相手を殺す意図なんてないのだが」

「ああ、もう。物騒な話、やめて。褒め殺しっていうのは、そういう意味じゃなくて……」

「……さすがに俺も『褒め殺し』って言葉くらい知ってるぞ。だが『殺す』といえば、死にたいのは俺の方だ。いつもいつも、失恋ばかりで」

「はい、ストップ! 傷心自殺なんて、間違っても口にしてはいけません!」


 ああ、だんだん、いつものパターンになってきた。

 その気はないけど、つい「死にたい」と言ってしまう俺。それに対して、本気で「ダメ! 絶対!」と言ってくれるのが、この『ファイナルブレーキ』尾張トメだ。

「おうおう、さすが『ファイナルブレーキ』。また俺を止めてくれる。いつもいつも、本当に感謝してます」

 軽く頭を下げながら、右手でコップを口へと運ぶ。そしてクイっとあおる。

「はいはい、それもストップ! 日本酒は日本酒なんだから、そんなに水のようにクピクピと飲んじゃいけません!」

 これぞ『ファイナルブレーキ』の面目躍如。今度は、俺の酒の飲み方に対してのブレーキだ。

 でも、言われれば言われるほど、かえって飲みたくなるんだよなあ。

 いつも思うのだが、実は俺、彼女の口から出てくる『水のようにクピクピと』って表現が気に入っている。可愛らしい擬音語――いや擬態語か?――が、彼女の小動物っぽい雰囲気に、よく似合っていると思うからだ。

 だから。

 俺のコップに伸ばしてきた彼女の手を、軽く払いのけながら。

 当てつけのように俺は、ぐいぐいと酒を喉に流し込んだ。

「ああ、もう! そういう飲み方をすると、また……」

 彼女が何か言っているが。

 だんだん、耳が遠くなってきた。視界もグルグルする。でも、とにかく気持ちが良い。

 こうして『ファイナルブレーキ』と二人で酒を飲むのは、本当に心地が良い。

 酒の旨さを決めるファクターは、実は酒そのものの成分ではなく……。誰と一緒に飲むか、なのではないだろうか?

 そんなことを思った俺は、

「俺のいとしのファイナルブレーキが! 今日も俺を! 優しく慰める!」

 なぜか、そう叫び出していた。

 そして、さらに不可解なことに。

「……字余り」

 そんな言葉を付け加えてから。

 俺は酔いつぶれて、意識を失った。

   

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