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第16話 外堀が埋まる時

 ボルクスがこと切れた瞬間、彼の体内の魔力が弾けた。それを契機に森の絵外縁部に集まっていた魔物たちが四散していった。

 長く強大な魔物の魔力にさらされていた森は、樹木すら変異している。

 魔力を帯びて霊木となった木々はそれだけで同じ重さの金をもしのぐほどの価値がある。

 魔の森の一角を開放した。それだけでクルツバッハ家は膨大な資産を獲得したものと同じことだ。

 

「ルークよ。王家に報告しておくかね?」

「無駄でしょう。あの連中は宮廷内の抗争に精を出していて、それ以外のことには興味を示しません」

「ああ、そうだろうな。それゆえに我も王都には関わらずいたのだ」


「今はまだ従っておきます。ですが魔王を討てば俺自身が大義となります」

「古今に類を見ない武勲であるな。王家を起こすにふさわしいであろうよ」

「というかですな。そんな武勲を得た家臣を使いこなせる連中ではありませんし、俺に残された道は謀殺か、体のいい追放でしょうよ」

「先手を打つか」

「……父上、彼の王は愚鈍にして王の器にあらず。マリオンやアナスタシアを見目のよい人形程度にしか思っておりませぬ」

「女のために反逆者となるか? それもまた一興であろうがな」

 父の表情がわずかに緩んだ。それはこの先の展開を読んでいたためなのだろうか?

 バーーーンとドアが開くと、マリオンが俺の右腕を、アナスタシアが俺の左腕を取った。というか絡みついた。


「ルーク! 私は誓うぞ! 生涯お前の剣となりお前を支えよう!」

「勇者様! わたくしのために王に背くというのですね! 生涯あなたに仕えその盾となりましょう!」

「にゅふ、ニャーはルーク様の一の家臣ニャ。すでにニャーの全部はルーク様のものニャ!」


 父上はうんうんと頷いている。

「リアナ。見ているか。我らの息子は大きく育ったぞ」

 

 リアナはクルツバッハ辺境伯夫人で、要するに俺とアランの母だ。アランを生んだのち、母はいなくなった。

 国内漫遊の修行の旅に出たのだ。なので、魔王討伐の旅を続けていればどこかでひょっこりと会うこともあるかもしれない。


「ああ、リアナ様ならこの前王都にいたぞ。手合わせしていただいたが……丸っきり敵わなかったな。あっはっはっは」

「なんだと!? 次はどこへ行くと云うていた?」

「パーペン領へ向かうと……」

「ルークよ。お前はすでに独り立ちした。後は任せたぞ」

 そう言い残すと父上は厩舎に向けて疾走した。そしてそのまま愛馬にまたがると、風を巻いて走り去った。


「よいご夫婦だ」

「ああ、まあたまに帰ってくると俺とアランをコテンパンにして父上といちゃついた後またどっかに旅立っていたな。確かに爵位を譲ったいまなら母上を追いかけられるか」

「安心しろ、私はルークのそばにいる」

「そう、だな。ただな」

「ん? なんだ?」

「なんでいつの間にか嫁になってるんだよ!」

「そんな! ひどい!」

「勇者様、その言葉はひどいと思います。いくら第二夫人とはいえ」

「第一も第二もねえ!」

「そうニャ! ニャーが正妻にゃ!」


 どうしろと……?

「おーい、ルークやーい。まさかここまで話が世間に広まってる状態で、うちの娘と結婚しないとかないよな?」

「え……?」

「ここでお前が結婚しないってなったらだな。うちのいろんなメンツが地に落ちるんだがな?」

「いや、あの、その……」

「嫁に、もらってくれるよな?」

 ギュンター卿の両手が俺の肩をつかんでいる。なんか骨がみしみし言ってる気がした。

「父上、そこだ! 一気に行くんだ!」

「きゃっ! え、これって!? きゃーきゃーきゃー」

「にゃ!? にゃにゃにゃ!?」


 俺の肩をつかんだままギュンター卿の顔がどんどんと近づいてくる。え? え? え?

「さあ、誓え! 嫁にすると!」

「ちょ!?」


 そのまま鼻先が触れそうな距離になって、なんか身の危険を感じたので左拳を握り、そのままギュンター卿の脇腹を突き上げる。

 返す右拳でその顔面を打ち抜いた。

「ぶぎゃらどわうえごあああああああああ!!」

 よくわからん悲鳴を上げつつ、そのまま地面を転がっていく。


 ふわっと右腕に柔らかい感触があった。

「ルーク、お前は私が嫌いなのか?」

「え? いや。だって、親が決めた話だろ?」

「辺境伯家の人間が何を子供じみたことを言ってる?」

「いや、婚約の話ほっぽり出して恋愛結婚したからね、うちの両親」

「そこは気にするな。どうしても私じゃダメなのか?」

「え? や、そんなことは……」

「じゃあ、もらってくれとは言わない。私は常にお前の横にいよう。病める時も健やかなるときも、栄光も苦難も分かち合おう。悲しみは半分に、喜びは倍に、だ」

「うふ、わたくしもそこに乗っかりますわ」

「おまいら! ニャーが一番最初にいたんだからにゃ!」

「いいだろう。シーマ殿。貴女を先達として敬おう」

「ルーク様をずっと守ってくれてありがとうございます」

「ニャ? わ、わかりゃいいニャ」


 いつの間にか復活していたギュンター卿が俺の肩に手を置いて、笑顔で言った。

「うむ、よろしく頼むぞ、婿殿。ああ、あと、当家はクルツバッハ家に臣従するので、よろしくな。お館様」

「は!?」

 何やらいろいろ聞き捨てならない言葉が飛び交っていた。

 そんななか、周囲の兵はこの知らせを辺境各地に知らせるべく散っていった。


 勇者ルーク、クルツバッハの家督を継ぎ、聖女アナスタシアと剣姫マリオンを娶る。メレンドルフ伯はクルツバッハ家の傘下に入り、家臣となる。


 そして、聖女アナスタシアの名前で、魔王復活が宣言されたのだった。

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