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第14話 魔の森

 マリオンが再編した精兵二千を率いて出撃した。ただ、この兵はいわばおとりだ。そもそも魔物の群れの方が圧倒的に数が多い。

 こっちの兵が堅陣をもって相対する間に、俺率いるパーティが敵の頭をつぶす。


 魔王との戦いも基本的にはそうなるだろう。なにしろどっから湧いて出るのかわからないんだからな。魔物ってのは。

 ある冒険者の言葉では、ダンジョンで無人の部屋があった。少し歩いてその部屋を覗くとモンスターハウスかってくらいみっちりと魔物が詰まっていたらしい。

 それこそ空気のように湧き出すっていうのが定説になっている。

 一方、人間はそうはいかない。生まれて、育って、訓練をしてと、戦える兵や冒険者になるまでには一定の時間とコストがかかる。

 だから被害は極力抑えないと、どんどんじり貧になるのだ。


 ダンジョンは特殊な環境だが、魔の森もそれに準じた環境となる。

 これまで人と魔物のせめぎあいは互いの領域を削りあう形で推移してきた。

 無数の魔物を突っ切って、その最深部のボスを倒す。ダンジョン最深部でボスを倒す。すると、そこに集っていた魔物が霧散し、人の領域となるのだ。


 魔の森は史上最大の領域で何度も大氾濫を起こしてきた。それゆえに城塞都市を築き、対向してきた。

 何度か侵攻を試みたが、道なき道を進むには障害が多く、魔物たちの奇襲の波状攻撃で敗退してきた歴史がある。


 そして今回は若干理由が違う。おそらくだが森の主ともいえる存在が比較的浅いところに出てきている。それを討つことで魔の森の開放が成るかもしれない。

 いくつか考えていることがあった。あの王家はヤバい。そもそも、辺境伯が重傷を負うほどの激戦であったにもかかわらず、王都からは一切の支援も連絡もない。

 王のアナスタシアを見る目つきがすでに下品だった。魔王復活も世界の危機も彼らからすれば遠いどこかのことなのだろう。


「魔王復活は近づいています。皆様は魔王を討つための剣の切っ先です。

 神の祝福があらんことを。神に選ばれた勇者はここにあります。ともに戦いましょう!」

 アナスタシアの演説で士気は盛り上がっている。言葉の最期に彼女が天に杖をかざすと、雲の隙間から光が漏れ、兵たちに降り注いだ。

 光を受けた剣、盾、鎧などの武具が淡い光を帯びている。

「神の祝福だ!」「聖女の加護だ!」

 へえ、あんなことができるのか。しかし、俺は勇者の認定を受けたはずなんだがな。なんも変わってない。

 まあ、そういうものか。


 兵たちの足取りは軽い。魔の森といえば一線級の死地だ。それこそ死刑宣告に等しいはずなのだが、それこそ物見遊山に行くような雰囲気すらある。


「勇者様がついているんだ。負けることはねえ!」

「手柄を立てて故郷で嫁を貰うんだ!」

「俺、報奨金もらったら料理屋開くんだ!」

 そこかしこに旗が立っている。お前ら生きて帰れよ?


 10日ほどの行軍ののち、魔の森が見える平野部に陣を構築した。

 土魔法が使える魔法使いを動員し、堀を穿ち塁を積み上げる。

 途中で伐採してきた材木を、水魔法を使って乾燥させ、風魔法で加工する。


「さすが勇者様。初歩の魔法でまさかここまでのことをするとは……」

 マリオンの副官をやっている騎士のクラム卿がしきりに感心していた。

 土魔法で地面の高さを調整する魔法を利用した。水魔法は水を操る。木の中に含まれる水分を放出させた。火魔法で炙ってもいいんだが、効率悪いんだよな。たまに曲がるし。

 風魔法はそのままだ。ウィンドカッターで加工する。


 半日ほどでひとまず二千を収容できる陣地と陣屋が建った。ふつうここまでの土木工事をまともにやれば、二週間はかかる。


 シーマをリーダーとしたスカウト部隊を編成し、外縁部を探らせた。見た目は特に変わりはないが、中に入って1日ほどの位置に、この前クルツバッハに攻めてきた魔族と同じくらいの強さの奴がいる。


「森に立てこもられたら厄介だな」

「地の利はやつらにある」

「僕の魔法で焼き払おうか?」

「クラウス、お前の魔法は敵を倒すためにあるんだ」

「わかった! 僕の活躍を見ているがいい! マリオン!」

 とりあえず、知性が売りのエルフとは思えないバカ発言を目配せ一つで察したマリオンが軌道修正する。


 軍議は特にこれといった意見が出ないまま進む。妥協案として、外縁部に攻撃をかけ、火を放つ。魔物が出てきたら後退し、引きずり出す。

 うまくいくかいくつも疑問符が付く内容だったが、とりあえずそれに決まろうとしていた時……10体ほどの魔物が現れたと報告があった。

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