表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/95

そして助け手はそろった

 私がそんなことを考えている間に、エレナ嬢はスカートのポケットから小さな袋を出した。

 銀糸で細かな刺繍がほどこされた袋を見て、黒髪の従者ディオルが叫んだ。


「まさか全部お使いになるんですか!? 魔獣除けの石では防ぎきれませんお嬢様!」


「おだまり! あなたがたも裏切ったんでしょう!? とにかくその女を殺さなくては!」


 エレナ嬢は持っていた小さな袋を私の方に向かって投げつけた。

 上手く私の足元に落ちた袋から、虹色の透明な石のようなものが三つ四つこぼれ落ちる。


 空中の光を浴びた虹色の石から、ふわりと甘い香りが立ち上った。

 何かの薬かと思って、私はその匂いを遮断してみたけれど。匂いが届いているはずの従者達には何の変化もない。


「うわっちゃー」


 クヴァシルの嫌そうな声に彼の視線の先を追ってみれば、木々の上に顔を出した巨大な岩のような猿が三匹もいる。

 凍らせる魔獣とは、また別の魔獣らしけれど。


「え、ええええ」


 私は困惑するしかない。

 たぶん私のスキルで防ぐことはできると思う。その範囲に入れておけば、ミシェリアもクヴァシルも怪我をすることはないでしょう。


 でもその後はどうしましょうか。

 クヴァシルが倒せたらいいのだけど。

 そう思って横を見ると、クヴァシルが苦笑いして首を横に振った。


「ごめん、さっきと同じ魔法が使える聖花はあと一個しかないんだ」


 一体は倒せても、二体残ってしまう。

 それでは私が逃げ出した場合、その二体を連れて森を出ることになってしまう。

 どうしてこの森から出なかったのか、その原因はわからないけど、逃げる餌を追うためなら出てしまうでしょう。

 何も知らない農民や、通りすがりの人が襲われてしまうのでは。


 私はそのまま考え込んでしまった。

 一応、雪や寒さ、炎も含めて私の周囲に近づけないようにしたけれど、その必要はあまりなかったみたい。猿は岩を投げてきたから。

 ブロックスキルの壁に阻まれ、私から少し離れた場所で岩が砕け散る。


「ひゃっ」


 破砕する音の大きさや振動に、さすがの私も驚いた。


「わーお」


 クヴァシルが楽しそうにしている反面、ミシェリアが真っ青な顔で岩が砕けた場所を見上げていた。

 早めになんとかしなくては……。

 私のスキルでどうにかできるものかしら。起点を私にしか置けないものだから、あの猿たちを閉じ込めてどうこうという方法も使えない。


 悩んでいたその時だった。

 突然、まだ離れた場所にいた猿の一体が、首を胴から切り離され、血飛沫を上げながら倒れていく。

 木々の向こうにその姿が見えなくなってすぐに、重たい音と地響きが耳に届いた。


「え、誰?」


 誰かがあの魔獣を倒したのだ。でもどうやってそんなことをしたのか。他に魔術士がいる? いるのはいいけれど、それは私の味方かしら。

 でも心配はなさそうだった。


「じゃあ僕も一体倒しておこ」


 クヴァシルが聖花を握ったまま、私のブロックスキルの範囲から飛び出していく。

 後を追うと、少し走ったところで立ち止まり、もう一度あの魔法を使った。

 少し距離がある場所にいた魔獣が、炎の柱の中へ消えていった。


 残りの一体は、この状況に怒りを感じたのか、ガラガラとした声で吠え、なんとか私の方に走って来る。


「え、ちょっと」


 心配なので、もう一度、 私に接触できないようにスキルを発動する。しっかり解けていたら嫌だもの。

 けれどその心配はなかった。


「アシェル」


 聞き慣れた声がその名を呼ぶ。

 鹿毛の馬に乗った、黒衣の騎士が森の中から飛び出してくる。

 アシェル様だ。

 彼が馬から飛び降りている間にも、魔獣はこちらに迫っていたけれど。


「天の槍よ」


 クヴァシルの言葉とともに、魔獣の上に雷が落ちる。

 頭が焼け焦げた魔獣の体を、アシェル様が足に羽が生えたかのように軽々と駆け上り、その首を刎ねた。


 倒れた魔獣は、もう動かない。

 そして地面に降り立ったアシェル様が、顔をしかめた。


「馬車が通れないな」


「仕方ないでしょう。そこまで狙って倒す余裕はありませんでしたからね」


 アシェル様が馬で駆けてきた方向から、栗毛の馬に騎乗したラース様が現れた。衣服はグランド侯爵家を訪問した時のままだ。


 そして倒れた魔獣の足の向こうに、箱型の馬車が現れる。

 中から出てきたのは、ラース様の館でいつも見かける、ラース様の私兵だ。生成色のマントに、緑のサーコートを着ているのですぐわかる。


「どう……どうして」


 魔獣も倒され、私から少し離れた場所に立ち尽くしているエレナ嬢が、ラース様たちの姿に顔を引きつらせる。

 そんなエレナ嬢に、ラース様が説明した。


「あなたが僕を足止めするために使った、アルベルト。彼は隠し事ができない質ですね。リネア嬢について、散々悪口を言い続けている間は元気だったのですが、それが尽きてしまうと、結局はどんな話なのかしどろもどろになって、何かを隠しているのが丸わかりでしたよ」


 アルベルトがあっさりと吐いたらしい。


「おかげで、そう時間を置かずに連れ去られたことが判明した」


 たしかに。クヴァシルが駆けつけたのも、とても早かった。ラース様も館の私兵を連れてここへ来るまでの時間が短い。

 正直私は、ラース様はここには間に合わないと思っていた。だから先にクヴァシルをよこしたのだとばかり考えていたもの。


「その後、彼には話してもらいましたよ。あなたが邪魔に思っているリネア嬢を殺そうとしていたこと。それにアルベルトが協力した理由も。よくもまあこんなところに、魔獣を隠していたものです」


 ラース様はため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アルベルトがチキンで良かった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ