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従者達の葛藤

「来てくれて嬉しいけど、どうやってここがわかったの? 目印って?」


「髪に飾っている薔薇。一つは聖花だよ」


「えっ!?」


 そんな高価なものを、髪飾りにしていたっていうの? それこそ古の女王みたいな贅沢だわ!

 驚いて髪に手をやると、クヴァシルが「もう無くなってるよ」とあっさり教えてくれる。


「さっき、僕が君を見つけて魔法で移動するのに使ってしまったから。一個魔法を使うとそれで消えちゃうから、ほんと聖花って効率が悪いよね」


 お金と労力がかかって困っちゃうよと、クヴァシルは肩をすくめてみせる。


「ま、魔術士など!」


「待てディオル!」


 エレナ嬢の黒髪の従者ディオルが、ナイフを手に素早くクヴァシルに肉薄した。

 首を切り裂かれてしまうのではと、私は息を飲んだが。


「よっと」


 クヴァシルは最小限の動きでそれをかわし、ディオルの足を払ってその場に転ばせる。


「捕えよ」


 短く言ってクヴァシルが聖花を投げると、小さな花はディオルの背中に落ちるなり、一瞬で枝葉を伸ばして縄のようになり、ディオルを捉えてしまう。


「なっ!」


「ディオル! 早く謝るんだ! 魔術士やスキル持ちにかなうわけがないだろう」


 冷静な意見を飛ばしたのは、金の髪の従者だ。


「この者達は、エレナ様の敵だ。お前こそ早く、その令嬢を殺せレイルズ」


「スヴァルド公爵とでは、問題が露見するに決まっている。今のうちにこのご令嬢に逃げてもらい、表面を繕ったほうがいいだろうが!」


「おや、的確な意見だね」


 クヴァシルが楽しそうな表情をした。

 実際、この従者達がエレナ嬢を救いたいのなら、クヴァシルや私に恩を売って、彼女が何も知らなかったと細工をしたほうがずっとマシだ。


「魔獣を飼っていることが露見したら、牢獄行き……」


 ミシェリアの父が投獄されなかったのは、ひとえにレクサンドル王家が、国内に魔獣がいることを隠したかったからだ。


 魔獣は禁忌の生物。

 保有していれば、他国から何と言われるか。


 好戦的な隣国リオグラード王国でさえ、自分たちが使ったと分からないように工作して魔獣を利用したぐらい、堂々と公表するのを避けたい代物。

 でもこんな王都の近くに生息していては、さすがに隠しきれない。


 レクサンドル王家は他国から送り込まれたとでっち上げて、反逆者としてオーグレン公爵やその令嬢エレナを裁くでしょう。

 そうなってはまず助からない。


「エレナ様は王子の婚約者になるのだ。これぐらいの不祥事なら……」


 まさかもみ消せると思っている?

 驚きのディオルの発言に噛み付いたのは、同じエレナ嬢の従者のレイルズだ。


「お前は、エレナお嬢様の都合のいいことばかり教えられているから、そんなバカなことを言うんだ。こんな事件を起こしては、王子と結婚なんてできるもんか!」


「そうだろうねー」


 クヴァシルが耳をかきながら言葉を挟んだ。


「僕みたいな王家の人間が思いっきり目撃してるし、リネア様がここにいることは教えているから、じきにラースもやってくる。ラースは誘拐事件のせいで、リネア様の名前に傷がつくことを嫌がるだろうから、最少人数で来るだろうけど。代わりに、徹底的にオーグレン公爵家を潰すだろうね」


 鼻先で笑われて、ディオルは睨みつけた。


「公爵家同士なのにそんなことができるわけが……」


「エルヴァスティ伯爵にできることが、ラースにできないとでも? そもそもラースの方がお前の仕える家より尊重されるんだ。王家は反逆でも起こさない限り、ラースを尊重し続けるだろうね」


 クヴァシルに言われて、苦渋に満ちた表情になる。

 それでもレイルズやクヴァシルの話すことが正しいと思ったのか、ナイフを持つ手を下ろした。


「……で、どうする? って聞かなくてもよさそうだね」


 クヴァシルがそう言いながら後ろを振り返る。

 先ほど見たばかりの、エレナ嬢が乗っていたはずの馬車が、ものすごい勢いで戻ってきていた。

 少し離れた場所に止め、中からエレナ嬢が飛び出してきた。


「なっ……」


 目を見開き、わなわなと震え出す。

 無理もないかしらと私は思う。

 さぞかし無残な姿になったと思っていたら、自分の従者達はぼうぜんと立っているし、ミシェリアも無事。そして私はピンピンしているのだから。


 おかしな炎が森から上がるのが見えたから、この速さで戻ってきたのだろうし、多少は想定外のことが起きているとは思っていただろうけど。きっと予想外すぎたのね。

 私にそんなことを思われているとは知らないエレナ嬢は、鬼の形相になった。


「なぜ死んでないの……。どうして仲間がそこにいるのよ。そしてなぜ召使いの小娘と並んでいられるのよ。薬か何かで懐柔したのね!?」


「懐柔? 薬!?」


 誤解ですから!

 そう言いたかったけれど、自分の従者達も私を殺そうとしていないし、恨んでいるはずのミシェリアもどこか仲間顔。あげくに私の仲間と認識していたクヴァシルまでいるのだ。


 今までの私の人望の無さを考えると、薬で操ったとか言われても……一歩ぐらいは譲歩してもいいけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひどい言いよう
[良い点] 「薬か何かで懐柔したのね!?」 えーと自己紹介乙でいいのかな?笑
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