ドレス選びは大仕事
パーティーへ行くための準備は、その後が大変だった。なにせ準備が必要なのはほぼ私だけ。
男性はよほど着道楽じゃないと、いちいち毎回違う衣装を作らなくてもなんとかなる。
形にそれほど種類がないので、いくつか色や素材を変えて揃えておけば、足りてしまうのだ。色や素材など、流行が変わると直すこともあるが。
ラース様の場合は、予め急な外出に供えて、衣装を直したり新調を定期的に行っているらしい。
で、私の方はそうはいかない。
そもそも、女性のドレスは印象を変えられるほど手直しすると、時間がかかる。新しく作ろうものなら、もっと時間が必要。
しかも一週間後だ。
どうしようかと頭を悩ませたけれど、問題はすぐに解決する。
スヴァルド公爵家の家政長イレイナが、レーディン伯爵が作らせたドレスと、ラース様が作らせたドレスのどちらにしますか? と聞いてきたのだ。
「え、二つも!?」
夜のパーティーへ来て行けるドレスは、そう沢山作る物ではない。流行が細かに変わってしまうから。
それに、想像以上に穏便に養女に出たおかげで、実家のドレスを持ち出せた私だったけれど、エルヴァスティ伯爵家にいた頃はパーティーへ行くはずもないので、昼用のドレスしかない状態だった。
よって、私は新たに作るしかないと思っていたのだ。
でも知らないうちに、すでに二着も仕立てていたらしい。しかも二つとも、パーティーの三日前ぐらいには仕上がってくるのだとか。
驚く私に、家政長のイレイナは微笑む。
「レーディン伯爵様は、養女に迎えられたリネア様のお披露目を兼ねて、どこかのパーティーへの出席をお考えだったようですね。実は二着ほど仕立てを依頼されていて、そのうちの一つが先に出来上がるということですわ」
「レーディン伯爵が……なんてお優しい」
私は胸がいっぱいになりそうになる。
厄介者を養女に迎えて優しくしてくれるだけではなく、正式な娘としてきちんと周囲に知らせようとしていたのだ。
自分の娘として遇し続ける覚悟があるだけではなく、伯爵なりに愛情を示そうとしてくれているのだと思う。
そんな神様のような方がいるとは思わなかったので、なおさら私は感動した。
「ラース様の方は、このような形ではなくとも、リネア様をパーティーへ同伴されるつもりでいたようです。ですので、すでに三着ほど仕立ての依頼を出していまして、こちらも一着が最初に届くのが、ちょうどパーティーの三日前になるのでございます、お嬢様。
もちろんお茶会への出席もお考えで、昼のドレスの方もいくつか新しいものが間もなく届く予定になっております」
「そんな風に配慮していただいていたのね。なんてお礼を申し上げたらいいのか……」
ラース様は、最初から私に仲間を作らせるべく、あちこちのパーティーや会食などへ連れて行って下さるつもりだったのだ。
聖花に関わるお仕事に、公爵閣下としてのお仕事、そして学院にも顔を出さねばならないのでお忙しいでしょうに。一緒にパーティーへ行って下さるのは、心強いけれど、申し訳ない気もする。
「大丈夫です、お嬢様。ラース様はけっこう楽しんでいらっしゃるようですもの」
「楽しい、でしょうか?」
「もちろんです」
イレイナは嘘偽りなさそうな笑顔を浮かべた。
「企むことがお好きですから」
そう言ってくれるのなら、と私は思うことにする。
あまり気負ってぐずぐずしていては、せっかく心を尽くして用意をしてくださったラース様にも悪い。
「それで、どちらにされます?」
イレイナがどちらのドレスを着るか再度尋ねた。
「実物を見てからにします」
さすがに、実物を比べて、どちらが場に合うかを定めてもいいだろう。