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パーティーへの招待

 スヴァルド公爵邸へ到着すると、なぜかそわそわとした雰囲気があった。

 召使い達が、パタパタと忙しなく動いている。スヴァルド公爵家では珍しいことだ。

 出迎えに来ていた公爵家の家令グスタフに尋ねる。


「なにかあったのですか?」


「急遽、王宮からのパーティーの招待状が参りまして。公爵閣下にぜひ出席をとのことで、使者として王の侍従長が直接招待状を持参して来たのです。その応対の片づけでやや忙しない状態になっておりました。お嬢様を不安にさせてしまい、失礼いたしました」


「気にしないで、ちょっと気になっただけだから」


 でもパーティーの招待状を、侍従が持って来るなんてめずらしい。たいていは使者として騎士などが手紙を運んで来て終了なのに。


「日が差し迫っての招待なので、国王陛下も配慮されたのでしょう」


 グスタフは好々爺の笑みでそんなことを言うけれど、普通の貴族の家に、わざわざ侍従長が来ることはない。

 たしかに一週間前というのは急だけど、ラース様が重要な人だと思われている上、どうしても参加してほしいからこその対応だろう。


「ああ、パーティーの話を聞いているんですね?」


 そこに、ラース様本人がやってきた。

 少し前まで侍従長の応対をしていたからか、いつも自邸で着ている物より、上等の上着を身に付けている。今日の白や灰色で統一した装いも、ラース様に聖者のように高潔な印象を加えていた。


「リネア嬢の準備についてはどうですか?」


「いえ、まだでございます」


 ラース様の問いに答えたグスタフは、近づく彼に遠慮するようにスッと後ろに下がる。


「リネア嬢、頼みがあるんです」


「なんなりと」


 ラース様のお願いならば、私に否はない。理不尽なことをおっしゃらない人だとわかっているからこそだ。


「一週間後のパーティーに、一緒に出席してほしいのです」


「王宮の、ですよね?」


 成人した男女を集めてのデビュタントに、出席したっきりの王宮のパーティー。

 ラース様が提案するのだから、理由があってのことだとは思うが。


「そう。同伴者が必要なのですが、ぜひに同伴者として君を、という話が出ていまして」


「私を……」


 王家からも嫌われるエルヴァスティ伯爵家の娘が、なぜか養女になった。それを聞いたから、興味本位で呼びたいのか……それとも大勢の前で笑ってやろうと思ったのか。


 でもラース様の同伴者として呼ぶのなら、私を笑うなんてできないはずだけど。

 王家の意図が分からない私に、ラース様は笑う。


「あまり深く考えなくていいんですよ。おそらくは興味本位ですからね。私が庇護したことで、あまり表に出て来なかったあなたを観察したくなったのでしょう。僕の方としては……」


 そこでラース様はちょっと人が悪そうな表情になる。


「それを利用して、あなたの仲間を増やしておくことも考えています」


「あ、たしかに」


 王宮のパーティーなら、それなりに勢力を持っている貴族が多く出席する。

 しかもラース様の伝手で私に好意的に接してくれる人も多く、良い印象を与える機会もあるだろう。


「……ただ、実父の被害に遭われた方がいると、なかなか難しそうな気がいたします。特に王家の方々は」


 実父は王家にも喧嘩を売っている。だから王家の人々としては、多少なりと私に嫌味の一つでも言いたいのかもしれない。

 わざわざラース様をパーティーに呼んでまで、と思うけれど、そういう方法でも近くに接する場所に呼んでさえしまえば、迂遠な言い方ながらも、脅しや嫌味を言えると考えるのが、王侯貴族だ。


 実に面倒だし、マイナスしか生み出さない気がするけれど。

 そうでもしないと気持ちが治まらない人間もいるのだ、というところが厄介で。


(それで気持ちが治まった方がいいこともあるのよね……)


 人間、ため込むと良くない。暴発して、おかしなことになる場合も多いのだ。だから私は、言い返すこともなく黙っていることも多かった。


「大丈夫です。僕が必ず守りましょう。クヴァシルも出席するので味方も一人だけではありませんから」


 そこまで言ってくれるならと、私は笑顔でラース様に返事をする。


「わかりました。出席いたします」


「よかった。それにしても、ずいぶん帰りが遅かったようですが、なにかありましたか? ノインまで一緒に帰ってくるというのも珍しいですね」


 そうだ、ノインはラース様のご用事で学院にいたのに、一緒に帰って良かったのだろうか?

 ノインに謝ろうとしたところで、先にノインの方がラース様に報告してしまう。


「申し訳ございません、私がエレナ・オーグレン公爵令嬢に捕まってしまいまして。リネア様のお手をわずらわせてしまったのです」


「捕まった?」


 ラース様の表情が曇る。

 困らせたくなかったが、報告しないわけにはいかないだろう。私は説明することにした。


「エレナ嬢が私を困らせようとして、ノインを利用したのです。エレナ嬢は私の悪い噂を作りだしたくて、ノインと私が逢引きをしているという状況を無理やり作ろうとしていたようです。でも、アシェル様にも助けていただきまして、無事に帰ることができました」


 問題はあったけれど、それは解消されたと伝えたものの、ラース様は無表情でノインに尋ねる。


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