新しく関わる人達
招かれるまま近づくと、ラースがそこにいた三人を紹介してくれる。
「彼がクヴァシルで、こちらはエイナル。二人は私と同じ学年だ」
「はじめまして、リネア・レーディンと申します」
私が先に紹介された男性二人に一礼すると、周囲がざわついた。
「レーディン? 本当に養女になったのか?」
「伯爵家がのっとられるわけがない。あそこの弟は大神官補佐だろう」
わずかにブロックしなかった人々の声に、私は心の中でほくそ笑む。
きちんと私が養女になったことが、周囲に伝わったようだ。
これがまず第一歩。
私はラース様に言われたことを思い出す。
なぜ私が学院に戻らなければならないのか、を聞いた時の出来事だ。
「そもそも、君が父親を告発することができたとして、今の状況では罪を背負わせられなくとも、周囲から君は悪者にされてしまう。その可能性が高い」
なぜならば、とラース様は続けた。
「人は、一度悪いと感じたら、その評価を翻しにくい生き物だ」
保守的なのは、安全を確保するための方策。
今まで何事もなく来られたのだから、これからもそうするという判断をしやすい。例えば……私を悪者だと警戒し続けることとか。
「君が父を告発しても、君もまた侵略に関わっていたと思う人間は発生する。そして君の告発が万が一にも間に合わなかった場合、たとえ神殿にかくまわれることになったとしても、何らかの危害が加えられることもあるし、王家が君を罪人として差し出すよう神殿に交渉する可能性もある」
「王家がですか?」
神殿にそこまで圧力をかけるものだろうか。
なにせ神殿は、天の権力者。
各国はその権力を傘に着て国を興し、代を重ねることで盤石にしてきた。
その神殿に圧力をかけて、王が破門されたり、神殿側から様々な行事に難色を示されては困るのではないだろうか。
「他の貴族達から疑われ、君が加担しているという証拠をねつ造までする者がいた場合、王家はそうするだろう。そして神殿にしても、喜捨を行う貴族達とことを構えない方が有利だと考えたら、君を差し出してしまう」
「ねつ造まで……」
「エルヴァスティ伯爵に恨みを持つ者。正義感から過剰な行動に走る者。そういった人間ならやりかねない。実際にどう動くのかは、僕にも全て予測はできないからね」
私はラース様の話に納得する。
「ようするに、私は悪役だと人の意識に植え付けられている存在で。だからこそ、エルヴァスティ家からは離れた人間であると印象付け、そして味方を得られなくとも……印象だけでも変えなければならないのですね?」
ねつ造で陥れられないように。
正義感を振り回す人間の、標的にならないように。
私の答えに、ラース様は満足そうに微笑む。
「わかってくれて良かった。学院で君と関わってくれるよう、何人かに僕も声をかけるつもりだよ。まずは君がレーディン伯爵家の令嬢になったことを周知して、さらに普通に人と関われることを見せる」
ラース様は身を乗り出して続けた。
「最初は辛いかもしれない。それでも君が一人ではない、僕や他にも味方が存在しているとわかれば、ただ敵視していた者達の認識も変わっていくはずだ。むざむざと、君を夢の通りの状況にさせはしないための方法だ。受け入れてくれるかい?」
私はうなずいた。
ラース様が、私の一番恐れていることを回避するために、こんなことをさせるのだとわかったから。
たしかに学院へ通いたくはない。
声は聞こえなくとも、敵意のこもった視線はつき刺さるから。
でも自分が未来でも牢獄行きにならないよう、自由に生きて行くためだから。
「がんばります」
私はラース様の案を実行することにしたのだ。
そして今ので私が養女になったことはわかっても、まだエルヴァスティ伯爵家との繋がりを疑う者は多いだろう。
だからラース様が紹介してくれている彼らと交流することで、私は安全な人間だと印象付けたいのだけど。
……大丈夫かしら?
今までが今までなので、やはり不安が心の中に巣食う。
「彼女は君と同学年だ。ブレンダという」
一礼したのは、金茶の髪をシニヨンにして髪飾りをつけた少女だ。
彼女のことならわかる。
スヴァルド公爵家の縁戚、オリアン伯爵家の令嬢。
同い年の貴族の子息令嬢の数など高が知れているので、一学年一クラスしかない。ので、彼女は私と同じ教室で学んでいる人だ。
今まで特に接触もなく(関わりたくなかったのでしょう)、私をいじめてくることもなく、かといって何か手を差し伸べたこともない(関わりたくなかったのでしょう)人だ。
どちらかというと、彼女が私に良い印象を抱いてくれているかどうかが不安だ。
公爵であるラースに従うと決めたからこそ、こうしてここにいるのだろうけど……。
「同じクラスですが、あまりお話したことはございませんでしたねリネア様。ブレンダです」
とりあえず彼女は、友好的な笑みを見せてくれたのだった。