表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/95

避けられない物が人生にはある

※名前まぎらわしい気がしたので、アルヴァ→カルヴァに変更しております

 理解が追い付かないわ……。

 引き取るって何? ラース様が、私を? ということは実父が私を捨てたってこと? それなら。


「お、お父様とお呼びすべきなのでしょうか?」


「…………」


 しばし沈黙したラース様は、ややあってからにっこりと微笑む。


「経緯を詳しく説明すべきだね。でも、その中には君が知りたくないようなこともあるかもしれないけれど、いいかな?」


「知りたくないようなこと、ですか?」


 ラース様がやや気の毒そうな表情になった。

 あ、これはきっと。


「お父様の言動のことですね? それでしたら何も問題ありません。あの人が私に優しくしたことなどありませんし、うっかり意に反したら殺されるのではないかと思っていたぐらいですから」


 むしろ邪魔な娘を始末せず、あっさりラース様に預けるたことに驚いているわ。


「そうか……。君の父は、呪いがかかった娘をどうしたらいいのかわからないらしく、治せるのなら任せる、という主旨のことを僕に言ったんだ」


 私が促しても、ラース様は婉曲な表現をなさった。

 気遣わなくてもいいのに……。きっと呪われた娘なんて必要ないとか、それぐらいは言っていると予想がついてるんですもの。


「僕に預けるのも、問題ないらしい。公爵家で行儀見習いをするなら問題ないだろうと。ただ、対外的に公爵家に嫁ぐのではと見られかねないからね。その点については、責任をとってもらうと」


「そんな、ラース様にご迷惑をかけるなんて申し訳ないです!」


 私は思わず立ち上がる。


「そういうことでしたら、やはり私は死んだことにしていただきまして、平民として雇っていただければ……」


「まぁ落ち着いてリネア嬢。話はまだ続くんだ」


「……はい」


 ほわっとした表情で言われて、私は一つ深呼吸してから座り直す。


「取り乱して申し訳ございませんでした」


「驚くのは無理もないよ。僕としては、君が泣き出すのではないかと心配していたから、予想よりもずいぶん冷静だと思っているぐらいだ」


 優しいラース様の言葉に、私は重ねてお礼を言った。


「それでね、君の今後のことを考えても、誰か別の後見人が必要だと思うんだ。その人物が後見人であれば、周囲は君を預かっていても問題ないと考えるだろうし、君の父伯爵が何かをたくらんで、僕に君を押し付けたのだと思わないはずだ」


「……そんな方がいるのですか?」


 尋ねたところで、部屋の扉がノックされた。応じる声に、入って来たのは公爵家の従僕だ。


「失礼します公爵閣下。アシェル殿がお客様とともにお戻りになりました」


 従僕の言葉に、ラース様が「入ってもらって」と言う。

 お客様?


(私、同席していていいのかしら)


 エルヴァスティ伯爵家の娘がいれば、誰であろうと不愉快になるだろう。それでラース様への評価まで下がっては大変だ。


「私、席を外しますか?」


「いいや。今言った後見人を、アシェルが連れて来てくれたんだ、ぜひ君にいてほしい」


 そんな会話を交わしていると、まずアシェル様が部屋に入る。

 続いて現れたのは……くせのある淡い茶の髪を肩で切りそろえ、白と紫の台形型の帽子を被った男性だ。紫と白の法衣は袖も裾も長く、指先と、つま先しか見えない。それを止めているのは黒いサッシュベルトと金の飾り鎖。


 神殿の神官だ。しかも上位の。しかも若い。私と十歳ぐらいしか違わないのではないかしら。

 どうして私の後見人に、神官を連れて来たのかしら?

 私はぽかーんとしたまま、その神官を見つめるしかない。


「お話を伺い、参りました公爵閣下。それでこちらの女性が、件の方ですね」


 その神官は、切れ長の目を私に向ける。暗い雲のような瞳の色に、私は怖くなる。


「本日はお越しいただきありがとうございます、カルヴァ殿。こちらがリネア・エルヴァスティ嬢です」


 紹介されて、私は慌てて一礼する。


「リネア・エルヴァスティでございます。神官様」


 世俗の王とは別の権力を持つ、神殿。貴族でも尊重しなければならない相手だ。

 カルヴァと呼ばれた神官は、無表情のまま私を見て、うなずく。


「父親と違って礼儀は知っているようですね。今のところは問題ないでしょう」


(……ものすごく居丈高な人だわ。ご出身が貴族家なのかしら。それも王家に近い家とか)


 それならば、納得できる態度だ。子供の頃から身分差を当然のものとして受け入れて生きてきたのなら、あり得る。

 神殿内にも位階があり、それを尊重せねばならないとされているのだし、出身が高位であれば、神殿の階級もそこそこのところからスタートしたはずで、矯正されることはまずないもの。


「まずはカルヴァ殿も座ってください。まだ彼女に、後見人をつける理由などを話している途中だったのですよ。一緒に聞いていただければと思います」


「いいでしょう」


 カルヴァ様は、従僕が椅子を引いた場所に座る。


「アシェルも参加して」


 ラース様に促されて、アシェル様も同席された。

 今日も姿を見ないと思ったら、アシェル様はカルヴァ大神官補佐を迎えに行って不在だったらしい。


 召使いがやってきて全員にお茶を配り直す。

 その後、内密の話が多いからか、召使いも従僕も、部屋から退出させたうえで、ラース様が話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 初めて会った神官「カルヴァと呼ばれた神官」について、数段落後にはカルヴァ「大神官補佐」と紹介されてもないのに役職つきで表現する点が気になりました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ