スキルで私は安全ですが
どうせスキルのおかげで、私に直接被害が及ぶことが少ないのだから、ためらう理由などない。
私は急いで外へ出た。
でもまだカティの姿が見えない。なので、門の外だ。
「仕方ない。私から五歩以内に誰も入れないように……」
ブロックの範囲を変え、走って門を開けた。
その瞬間、私は目を見開く。
門の前でカティが何者かに押さえつけられて、うつ伏せに倒れていた。
すぐさまその男達を排除しにかかる。
(カティ以外が、私から十歩以内には近づけ無くなる)
ブロックする範囲を変更し、カティさえ含めておけば、私が進む度に彼らは何かに押されるように横に転がった。
「な……!?」
カティを押さえつけていた男は、自分に何が起きたかわからないようだ。
何度も自分の手とカティを見比べている。
服装は薄汚れてすり切れたジャケットにズボン、髪も短く切ったきり整えていない無精ひげの男だ。
物取りかしら?
「とにかく家に逃げましょう、カティ」
あちらがうろたえている間に、私はカティを家の中に連れて行こうとした。
「お、お嬢様……」
でもカティか完全に腰が抜けてしまっているようで、立ち上がることもできない。
私も非力すぎて、そんな彼女を抱えて移動するのはかなり難しい。
それでも少しずつ引きずって、もうすぐ門の中へ入れるところだったのだけど。
「こ、このっ」
男が立ち上がって、
私はかねてから考えていたことを実行するため、カティを置いて立ち上がり、ブロックスキルの範囲を変える。
「ええいっ!」
掛け声こそ気合が足りないかもしれないが、殴る真似をして相手に向かっていく。
「お嬢様っ!」
「うごっ……!」
私の拳は強くもないし、威力もない。
ただ走って向かって来た男は、私の拳を含む半径20センチの空気の壁、に阻まれて、壁にたたきつけられたように跳ね返った。
その場に崩れ落ちた男を見下ろし、私は息を吐く。
「今度うちの子に乱暴をしたら、ただではすまさないわよ」
そう宣言して、私は改めてブロックスキルの範囲を再設定。
万が一にも背後から襲われないようにして、今度こそカティを連れて門の中へ入り、門の鍵をかけた。
「はぁっ……」
詰めていた息を吐き出す。
こんなにうまくいくとは思わなかったが、なんとか事なきを得たようだ。
門の中に入りさえすれば、もう大丈夫でしょう。
内側に何人人がいるかわからないから二の足を踏むだろうし、何より人を殴り飛ばすやたら固い女が一人いるわけだもの。
「お嬢様……その……」
カティも落ち着いてきたようだが、全身の身震いが止まっていない。
「大丈夫よ。まずは家の中で休みましょう。鍵をかけておけば、誰も入れないわ」
万が一通いの召使いが来ても、声でわかるのだから、呼びかけがあってから中へ招き入れればいいのよ。
明日、本邸から召使いが派遣されるなり、別の使用人が来るなりすれば、人が増える。
その後、この地域に詳しい者に、あらためて家の護衛を派遣してもらいましょう。
(まだ父にお願いをしなければならないことが、悔しいけれど……)
早くあの家から離れられるようになりたい。
せっかく、こうして居場所を変えたことで、悪夢の内容が変わったようなのだ。
もっと行動したら、もっと新しい未来が見えてくるかもしれない。
「まずは、今日も明日も夢を見ましょう」
つぶやきが聞こえてしまったカティが首をかしげる。
「どうかされましたか?」
「いいえ、気にしないで。それで、手紙は出せたのかしら」
「はい。小間物屋を見つけましたので、そちらで」
王都の中で手紙を出すには、商店などに頼むのが普通だ。そこに通ってくる郵便業の人間が手紙を集め、そして相手の近所にある小間物屋や、貴族ならばその家に届ける。
王都内ならば今日中か明日には届くだろう。
話をして落ち着いたのか、カティが「それで……お嬢様」と問いかけて来る。
「さきほどのは……」
私は答えを迷った。
実は、人と戦うのが得意だった……というのは、どう考えてもあり得ない話だ。
相手があまりに弱くて、私の威圧感に恐れをなした……と言うには、私はしっかりと相手に拳を繰り出しすぎている。
そして迷ったことで、カティは察したようだ。
「もしかしてお嬢様は、スキルをお持ちなのですか?」
「…………」
認めたら決定的になってしまう。
しかし目撃した以上、カティは否定されても疑念を抱き続けるに違いないわ。
「……そうよ。つい最近、わかったの。だけど誰にも言わないで」
「なぜでございますか? スキルがあるとわかれば、誰もがお嬢様を大切に扱ってくれます。こんな風に自らお掃除をするような思いは、しなくていいはずです」
カティは目を丸くし、反論した。
私も、あの悪夢のことさえなければそうしたでしょう。
でもスキルを持っているだけではだめだ。おそらく同じ未来への道筋に放り込まれて、下手をすると反乱を起こした首謀者にさせられてしまいかねない。
スキルがあるから、隣国で地位を与えられたのだろうとか。
スキルを使って、自分が邪魔だと思う人間を排除したのだろうとか。
……目に見えるようだわ。
だけどカティにその説明をしても、理解してくれるわけがないし。
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