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まだ手を借りるには、少し……

「それにしても、どうして君は伯爵家の館にいない? 俺としては、訪問するにはこちらの方が都合がいいが……」


「そのことについては、お聞き及びではないのですね」


 私は微笑む。


「ああ。君が昨日学院に来なかったので、万が一にも聖花の影響がないかを考え、君の家の使用人に様子を聞いた。そうしたら、本邸からは移されたと」


 そうしてここを探し当て、訪問したらしい。


「お手数をおかけしました……。私、今後は学院へ行くことができないようなので、お手紙を出してラース様方に所在をお知らせしようとしておりました」


「学院にもいかない? レクサンドル王国の貴族の子女が学院に行かないというのは……。体でも悪くしたのか」


 普通に考えればそう推測するわね。

 ただ、呪いのことを言っていいものか……。


(私の予定では、もう少しラース様と信頼関係を築いてから、私のスキルについてをお話ししようと思っていたのに)


 今すぐにスキルの話をするのはためらわれる。そして呪いという父向きの理由を口にしたら、花菓子の研究に協力できるだけの私とは、交流を避けるかもしれない。


(いえ、呪いのことは知っているかしら?)


「私がこちらへ引っ越した件について、使用人は何と言っておりましたか?」


「……父親との仲が悪いせいだ、と」


 私は思わず笑みをこぼしてしまう。

 一瞬ためらったのは、たぶんそのままを伝えると私が傷つくと思ったからではないかしら。


(そう思ってくださるのなら、もう少しの間、猶予をください)


 私はそんな願いを込めて、答えた。


「その通りです。元から、父は私を捨て置いているような状態でしたから……。それについてはラース様が叔父に確認いただけたら、わかるかと思います。少し父と行き違いがありまして。目障りになって遠ざけたくなったのでしょう」


「だからといって、学院まで行かせないというのは」


 アシェル様は、ほぼすべての貴族子女が学院へ通っている意味を知っていらっしゃる。だから気にするのだろう。

 学院へ通えなかったとなれば、他の貴族とは違って何か欠陥があったのでは、と思われてしまう。

 実際、通えないのは病弱などで外へ出られないか、素行が悪すぎて外へ出せないような者だけだ。


 それがわかっていたから、今までの私は学院へ通い続けていた。

 結婚ぐらいしか、自分があの家を離れられる術がなくて。欠点が増えてしまったら、


 でも今は、スキルがあるから大丈夫。

 むしろ早々に婚約を解消してもらいたいぐらい。


「私は、それだけは喜んでおります」


 本心だからこそ、私はすがすがしい気持ちで微笑むことができた。

 あの学院から、通っている貴族達から離れられてせいせいしているのだから。


「だから……君は先ほど、結婚はできないと召使いに言っていたのか」


「ええ。父は私のことを病気だとでも学院に知らせることでしょう。それだけでもう、私は他の方々からは結婚相手としては見られなくなります。それに、長い間学院に行かなければ、現在の婚約者も破談にせざるを得ないでしょう」


 どんなに商売上のつながりが欲しくても、不名誉な噂が立ちかねない娘を、子供の嫁として迎えることはないはず。

 アルベルトの父親も、私との縁は諦めるでしょう。

 そしてアルベルトはミシェリアとの仲を深め……。


(それにしてもあの方、どうするつもりなのでしょう? 彼女が救国の乙女になるなど想像もしていないでしょうし。やはり愛人にするつもりなのかしら)


 ミシェリアはそれでいいのだろうか。

 私から婚約者を奪い、少しでも良い暮らしが送れることになれば、満足するのかしら。

 私が心配するようなことではないけれど……。


(そもそも、私が早々に退場してしまった場合、彼女は救国の乙女になるのかしら?)


 ここはちょっと、考えるべきことだと思う。

 あの悪夢が正夢になるのなら、なおさら。

 父が隣国へ情報を流し、侵略の手引きを実行するなら、いずれは戦争になる。

 その時……私はどうするべきか。


(万が一の場合は、私が誰かに、救国の乙女と聖花の情報を流さなければならない?)


 その場合に起こるのは、父の娘だった私への、追及と断罪なのよね。

 考えていると、アシェル様が少し考えた上で言った。


「君の父は、娘のことを気にかける気はないのか? ここでは……少々安全には暮らせないだろう」


 彼は私の住環境について心配してくれたらしい。

 ぶっきらぼうな感じだけど、案外心配性なのかしら? そう思うと、少し可愛い気がしてくる。


「大丈夫ですわ、使用人達もおりますし」


 本当はスキルがあるからで、護衛の人手は皆無なのだけど。

 まず私は問題ない。

 気にするべきは、カティ達使用人だ。

 彼女達も私のスキルで守れるものかしら? 範囲を拡大しておけばいい?


 再び自分がやることを考えそうになるが、今はアシェル様との話だ。


「君がそう言うなら……。でも気を付けた方がいい。貴族らしき人間――もしくは裕福な人間がいて、警備が手薄だとわかれば、強盗に入る者は沢山いるからな」


「ご心配いただきありがとうございます」


 私は礼を言い、「また連絡することがあれば顔を出す」と言って去るアシェル様を見送った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒリヒリする展開ですね…! [一言] 欠点が増えてしまったら、(結婚ができなくなってしまう)? 文章が途中で途切れておりますのでご確認ください。
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