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呪われ演技の結果は

 それから思いついたように、自分が嘘をついていないと見せかけるため、父に視線を戻した。


「でも、最近聞こえが悪いことがあるとは思っておりました。まさか今日は……こんなに沢山の人の声が聞こえなくなるだなんて……。どうして特定の人だけ……」


「いつからだ」


 私の演技など無視するように、問いを重ねる父。


「おそらく三日ぐらい前でしょうか……。あっ」


 私は何かに気づいた人らしく、声を上げて自分の口を塞ぐ。

 ちょっとわざとらしいかもしれないけれど、周囲の召使い達や家令も変な顔はしていないのでそのまま続けた。


「三日前、学院の庭でおかしな人に会いました。奇妙な笑い声を立てた後、煙のようにふわっと姿が消えて……」


「魔術師か」


「あれ以来だと思います。それから、時々声が聞こえない方がいる気はしていたのです」


 話の途中で口をはさむ父を無視し、私は自信なさそうな声で言い切った。

 最後まで聞いてもらわなければならないので。


「……呪いだというのか」


 早々に結論を出したらしい父に、周囲の使用人達がざわつく。

 私も口を片手で押さえて、「そんな……」と言ってうつむく。必死に涙を出すため、瞬きを我慢しながら。


「呪われたなんて……どうしたら」


 あ、なんとか目に涙がにじんできたわ。良かった。

 ほっとする私に、家令が「旦那様……これでは……」と話しかけている声が聞こえた。


 何かしら。

 これでは、娘という政略の駒としては使えない、という意味?

 それともこれでは……婚約も解消しなければならない、という夢みたいな提案かしら?


 私にとっては素敵な提案だ。

 なにせ私は、父から離れて無関係を装える、そして婚約も解消されるだろうと踏んで、『ある日突然呪われた自分』を演じているのだもの。


 重要なのは、お父様に近づけない、ということ。

 そんな状態なら、公式行事に娘を連れて行くわけにはいかない。

 しかも父が接触しなければ大丈夫……とならないように、声が聞こえない相手が複数いるという、異常事態を演出してみた。 

 これなら学院にも行かせられなくなるし、放置もできなくなる。


 一歩間違うと、用無しとして、お父様に消されかねない不安はあるけど……。

 だって隣国と通じて、この国を滅ぼそうとした人だもの。普通の貴族と同じ感性だと思ってはいけない。だからそこは警戒している。


 ただ逃げるだけなら可能なのだ。

 ブロックスキルがあるから!

 私に剣を向けても、誰も近づけないわけで。最悪、等間隔で私を取り巻く人間を引き連れて、ラース様のところまで逃げるか、叔父様のところへ逃げるつもりだ。


 そこまで奇妙な状況だったら、逆にラース様も私のことを一度は助けてくれると思う。興味を引かれて。

 スキルのことを話せば、上手くいけばスキル持ちとしてどこかに雇われ先を紹介してくれるか、珍しいスキルとして神殿に預けてくれるかもしれない。


(そうなれば、一応身の安全は確保できる)


 代わりに失うのは自由だ。

 まず自由に外出なんてできないだろう。

 交友関係だって制限されかねない。


 ただし、完全に父とは交流がなくなるので、隣国が父の手引きで攻めてくることがあっても、連座させられる可能性は低いとみている。


(最低限、死なないための方法だから、できればスキルのことは黙っていたかったのだけど……)


 だから今も、呪いだと偽っているのよ。

 これがスキルのせいだとわかったら……。


(きっと戦争に利用されるわ。力を持たなかったから、留学という形で隣国へ行かされて、情報提供者にされただけだったけど。下手をすると戦場に引っ張り出されてしまう)


 神殿行きになっても、ラース様のところへ助けを求めても、スキルのことを開示するとその恐れはついてくるけれど。でも父の方が、積極的に私を利用しそうで怖い。

 その父は、呪われた娘をどうする気だろう。

 自分だけが近づけない状況から、自分の敵対者が娘を呪ったとでも思ってくれるだろうか。


(呪いは信じるかもしれない……。魔術師の呪いの噂は私でも聞いたことがある)


 もし商談相手を陥れているのが本当なら、父だって魔術師の力を一度は利用しているかもしれない。

 ギルドに所属しないはぐれ魔術師は、そういった方面に手を貸して、お金を稼いでいると聞くから。


 さて、どう出るか。

 じっと父の動向を気にしていると、やがて父は家令に何かを指示した。

 それから父は、他人のもめ事を見るような目を私に向けた後、さっさと館の中に引っ込んでしまう。


 さて、想像していた中では最も穏便そうな退場の仕方だけど、一体どういう結論が出たのか。

 困惑と不安でいっぱいの表情を作ったまま待っていると、家令が私に言った。


「お嬢様には、本日一日お部屋で謹慎をお願いいたします。そして明日、別邸へお移りいただきますので」


「別邸?」


「明日ご案内いたします」


 家令はそれきり、口をつぐんだ。

 そして家政長の言葉は聞こえないふりを続行していたので、家令はそれでは無理だろうと、カティに私を部屋に連れて行くよう命じた。


 私もこの後の生活での不都合のことを考え、カティの声は聞こえると答えて、彼女についていくことにする。

 しかし明日、一体どこへ連れて行かれるのか……。

 やや不安に思いながらも、私はまずは大人しく自分の部屋へ戻ることにした。


 どう転んでも、荷物をまとめる必要がある。

 それに万が一の場合には、明日、スキルを使って逃げ出せばいいのだ。

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