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さらに見た夢は

 あんな未来が待っているなんて、信じられない。

 嫌だ。


「ま、まだよ。あれが正夢になってしまう証拠が足りないわ。それにほら、私にはブロックのスキルがあるもの」


 おかげで数日前よりも学院生活は快適になった。

 しかも、ラースとも交流するようになった。


「でも……」


 隣国への留学を誘われたら、行ってしまったかもしれない。


「いえ。今はもう、それが危険なのはわかっているんだし。ただ問題があるわ」


 ミシェリアは恋人の悪名高い婚約者である私を、嫌っているだろう。

 アルベルトだって、家のために婚約を解消しないだけで、私のことが嫌い。

 もし物語に近い出来事が発生したら、間違いなく私は悪者にされてしまうだろう。


 たとえ私が何もしていなくても、父が隣国と通じていることで、私も何か悪事を働いていると勝手に判断されてしまうに違いない。


「お父様をなんとか……出来る気がしない」


 あの冷たい父のことは、私もよくわからないのだ。

 どこへ行くとか、明日は不在なのかどうかについても、家令は尋ねても教えてくれない。

 そして家令は私に多少なりと心を配ってくれるけど、他に対してはとても厳しい。父の書斎に近づいたことがわかって、一日部屋に閉じ込められたこともある。


 父の領地のことについては、全て派遣した者が采配している。

 そもそも、貴族令嬢がそんなことを気にすることはないのだ。


 万が一の場合は、夫の代理をする……という体で、それまで勤めていた家令や親族を頼ってどうにかしろ、と言われる。

 基本的に領地運営について手ほどきを受けることも皆無だ。

 おかげで領地のことも詳しくは知らず、父がどんな人と関係しているのかも不明。


 しかも父は社交に私を連れて行くことがないので、交友関係についてもよくわからない。

 訪ねてくる人間はいるから、そこから多少かかわりがある人は知っているけれど。


 夢に近い状況が描かれていた物語でも、私の父にあたる人物は慎重だった。

 家にある陰謀の痕跡なんて、自室に置いているチェスの駒の配置ぐらい。物語では、父が脳内で描いている通りに進むと駒を動かしていた。


 思えば一度だけ見た父の私室には、チェスがずっと置かれていた。それを思い出して身震いする。


 物語の中の父にあたる人物は、書類は危険なものは燃やしていたし、保管が必要なものは館には置いていない徹底ぶり。

 主人公達が証拠を探したものの、隠していた家は管理者ごと燃えたと書かれた一文があっただけ。


 しかもここまでの悪事を働いた理由は不明なまま……。


「できることと言ったら……ミシェリアの生家があった領地に、特別な聖花が出現するかどうかを調べることかしら」


 もし本当に、物語みたいなことがあったら。


「いえ。その部分についてはまだ夢に見ていないわ」


 今日もまた、花菓子を食べて夢を見る予定なので、それについて『違う』ことがわかればいいのだけど……。

 なにせ『違う』のなら、ミシェリアが父……ひいては私を敵視する理由が、幼馴染を取られたという一点だけになるだろうから。


 悪夢のせいで熟睡できていないのか、微妙に頭の中がふわふわしているけれど、今日もまた熟睡できないのかと思うと、ちょっと気が重い。でも仕方ない。

 早々に手を打って、妙なことからは距離を置くのだ。

 私は就寝前に花菓子を取り出した。


「どうか。この本が確かに私の悪夢と関連した物語そのものなのかを、教えてくださいませ」


 神は信じない。

 だけど私は、実在する魔法の力は信じていた。

 その魔法に願いをかけ、私は花弁を食べたのだった。


  ※※※


 その日は、これが夢だとわかっていながら見る夢だった。


「おかわいそうに……。ずいぶん耐えてこられたんですね。気づかなかった私が、とても心苦しいです」


 椅子に座った私の前に膝をつき、そう言った人物。

 私よりも年上の男性だ。金茶の髪、茶の瞳の肩幅が広くてがっしりとした体格。戦士らしい顔つきで……最初、私はこの人を怖がっていたことを思い出す。


 なんだか、その目が鷹のように獲物を探しているように思えて。


 身にまとうのは、いつもと違う柔らかな緑色のコートに、貴族らしく刺繍の多い灰色の衣服だ。

 それだけで、少し緊張が消えた気がした。


 たぶん以前の私は、あまりそういった人と関わらなかったので、慣れていなかったのだと思う。

 今はほら、こんなにも同情してくれる人を、とてもいい人だと感じているもの。


「そんな風に言ってくださってうれしい。お優しい方ですね。将軍は」


 茶色の瞳が柔らかく細められた。


「私は普通ですよ。あなたを取り巻く環境が悪かったのです。でも大丈夫。このリオグラード王国では違います。お父上に恨みを持つ人間はいない。そしてあなたがかわいそうな境遇にあったことを知る人もいない。一から始められます。だから一緒に行きましょう」


「……わかりました」


 手を差し伸べられた。

 私は将軍の手を取り、立ち上がる。

 この時の私は、銀に輝くビーズや真珠を縫い付けた、淡い灰色のドレスを着ていた。


 パーティーへ誘われて、それが恩あるこの将軍だったのだけれど、それでも気乗りしなかったので、地味な色のドレスを作らせたのだ。

 けれど出来上がったのは、遠目からは銀にも見える美しいドレス。


 目立ってしまうことが怖くて、当日になって尻込みしていた私を、迎えに来た将軍自ら説得してくれたのだ。

 馬車に一緒に乗った将軍は、私の隣に座って促した。


「さぁ、もっと故国でのことをお聞かせください。リネア嬢。それで、婚約者を奪った娘はなんという名前でしたか?」

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