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10.教育の時間

「ごっ、ごめん! 大丈夫かい?」


「大丈夫よ、私こそごめんなさい」


「良かった……あっ、君は……!」


 ぶつかった相手がゲラン君なら、こうなるはずだった。

 ……こうなるはずだったのよ!!


 でも、現実って上手くいかないものね……。




「あの、ごめんなさい……私、ぶつかっちゃって……」


「……」


 相手はジロリと目線を向けてきたものの、無言のまま。

 そしてそのまま通り過ぎようとする。


「お、おい、シール! お前も謝れって! ……君、ごめんな!」


 シランス君って、ゲラン君にはシールって呼ばれてるのね~……。


 って、そんなこと考えてる場合じゃないわ!

 このままじゃ二人とも行っちゃうじゃない!

 というか、ぶつかっておいてゴメンの一言も無いなんて失礼じゃないの?!


「ちょっと、あなた!」


「……」


 シランス君は、さも鬱陶(うっとう)しそうな顔で振り向いた。

 しかもまた無言だ。


「ぶつかったのは私も悪かったけど……ここはお互いが謝るべきじゃないかしら?」


「……」


 っく、このノリ付き(シール)、手強いわねッ!


「ごめん、俺が代わりに謝るよ! コイツ悪い奴じゃないんだけど、ホント無愛想で……」


「ストップ!」


 ゲラン君はまさかストップがかかるとは思っていなかったのか、「え?」という顔をしている。


「ゲラン君。あなたが良い人だというのは分かるけど、そんなんじゃダメよ。過保護だわ。シランス君だって一人の人間なんだから、自分でやらなきゃいけないことは自分でさせるべきよ!」


「そ、それは……確かに……」


「でしょ? あなたが居なきゃ謝罪の一つも出来ないだなんて、そんなの幼児並よ。いえ、幼児でもゴメンナサイぐらいはできるわね。あなたは友達が幼児以下でも良いっていうの?」


「よ、良くないです……」


「そう、良くないわよね。だから、しばらくは見守っててちょうだい」


「はい……」


 私はシランス君に向き直った。

 心はもうすっかりお説教モードだ。


「ンだよ、お前……さっきから偉そうに……」


「偉そうなのはあなたでしょ!!」


 ――ぺしーんっ!


「んなっ?! な、殴っ……?!」


 頭を(はた)いただけよ、大げさね!


 大人()の姿じゃ体罰だの暴力だのって言われるかもしれないけど、同級生だから問題ないわ。

 十六歳(シェリー)の体、様様ね!


「そもそも、あなたが悪いんでしょ?」


「お前がぶつかってきたんだろうが!」


「ぶつかったのはお互い様。問題はそこじゃないわ」


 例え、私が計画的にぶつかってきたんだとしても……よ!


「問題はその後。謝らないわ、無視するわ、挙げ句にか弱い女の子を脅して黙らせようとするわ……」


「か弱くねえし黙ってもいねえじゃねえか!」


「私じゃなくて、あなたの事だって言ってるでしょ! あなたの行動の問題よ!」


 さすがに騒ぎすぎたせいか、通りすがりの生徒達も何だ何だと立ち止まっていく。

 大勢の視線に慣れないせいか、シランス君は少したじろいでいる。


「クソッ、悪かったな! ……ほら、これで良いだろ。早く解放しろ!」


「そんなのが謝罪なワケないでしょ! やり直しッ!!」


「?!」


 信じられないものを見る目で私を見たって、ダメなものはダメよ。

 お姉さんはきちんと謝るまで許しませんからね!


「くっ……!」


 ほらほら、早く素直になった方が身のためよ?


「わ、悪かった……謝る……」


 とうとう観念したのか、シランス君は頭を少し下げた。


 うん、これならオッケーね。

 ノリ付き(シール)にしては上出来だわ!


「よく出来たわね、エライわよ!」


 ちょうど良い位置に下がってきていた頭をひと()で。

 子供は褒めて伸ばさなくっちゃね。


「バッ……! 変なことすんな!」


 もう、手を払いのけなくたっていいのに。

 素直じゃないわね~ホント。


「じゃあ、用も済んだから私は行くわ。ゲラン君も、またね」


 きちんと『待て』ができたゲラン君もついでにひと撫で。


「?! え、ああ……」


 何か忘れている気もするけど……まぁいいわ。

 ちゃんと謝罪はさせたし、ミッションコンプリートよ。


「おい、待て」


 立ち去ろうと歩き出したところで、後ろからシランス君の声が掛かる。


「……名前、言えよ」


 ああ、そういえば名乗っていなかったわね。

 聞いてくれて助かったわ。


「A組のシェリー・アステールよ。よろしくね」


「……次会ったら、覚えとけよ……」


 シランス君はそれだけ言うと、一人で歩いていってしまった。

 それを慌てて追いかけるゲラン君。


 んもう、次は挨拶を教えなきゃいけないみたいね!

 まぁ、今日のところは許してあげるわっ。

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