謎の光と黒い影
最近ハイハイが出来そうな気がする。
ごろーんと寝返りを打ち、うつ伏せになってもぞもぞもぞ。
ううう、なんだか苦しくなってきた。
「……ふえええーん」
「あらあら、ベルちゃんいい子いい子」
うまくハイハイが出来ずに泣き出すと、母さまがやってきて抱き上げてくれた。
ふう。
苦しかった。
あとちょっとだと思うんだけどなあ。
溜め息をついて、私はぼんやりと辺りを見回した。
教会で祝福とやらを受けてから数日。
私はあの時の光が見えるようになっていた。
今も目をこらすと、ふわふわ浮いている蛍のような光が見える。
今日は白と緑の光が多いみたいだ。
なんなのかな、これ。
「あうー」
近くにきた光に触ろうとしても、ふわりとよけられてしまう。
気になるなあ。
そして、もうひとつ変わったことがある。
私のステータスだ。
【ベル・ロシュフォード 人族 女】
【HP8 MP156】
【状態:健康】
【スキル:鑑定 言語理解 アイテムボックス】
MPが大幅に上昇したのだ。
なんと、三桁である。
魔術を使える神父様よりも多い。
これって、あの時の事が原因だよね?
光が私の中に入ってきて、MPが増えた。
ということは、光はMPーー魔力ってこと?
「あうあうー」
ああ、誰かに聞けたらいいのに。もどかしいなあ。
「母さま、ベル、ただいま!」
悩んでいると、ドアが開いて姉さまが帰ってきた。
「お帰りなさい、アリサ」
「えーあま」
アリサ姉さまは近くの森に行ってきたらしく、手にした籠に木の実や何かの葉が入っている。
その中から小ぶりの果物を取り出すと、私に近づけてきた。
薄紅色のそれからは、甘い香りが漂っている。
「見て、ベル。コモモの実だよ。甘くて美味しいの! ねえ、母さま。後でベルに食べさせてもいい?」
果物、食べたい!
「そうね、すりおろしてからならいいわよ」
「わーい」
「あうあー!」
やった! 姉さまありがとう!
感謝しながら姉さまを見た時だった。
うっすらと姉さまを黒い影が覆った。
姉さまは眉を寄せ、咳をする。
「こほっ、こほこほ」
「まあ、アリサ大丈夫?」
「うん……。ちょっとお水飲んでくる」
「風邪かもしれないわね。今日はおとなしくしなさいね」
「はぁい」
母さまと話す姉さまは、もう元気そうだった。
今のは何だったのだろう。
心臓が早鐘を打つ。
いい知れない不安を抱えて、私は姉さまを見つめることしか出来ずにいた。