祝福
今回はちょっと長めです。
生えかけの歯がむずがゆい。
お腹にかけられている布の端をがじがじと齧っていると、エマ母さまがやってきた。
おや?
エマ母さまがおめかししているぞ?
いつもは生成りのワンピースに薄い茶色のエプロンという格好なのに、今は白のブラウスに紺のロングスカートを着ている。
お化粧も少ししているみたいだ。
「さあ、ベルちゃんもお着替えしましょうね」
およ?
私も今まで着たことのない白のワンピースを着せられた。
「今日はお外にお出かけですよー」
「あう!?」
お出かけ!?
初めてのお出かけだ!
わああ、楽しみ!
母さまは私を抱っこすると部屋を出た。
「準備はいいかい?」
部屋の外に父さまが待っていた。父さまもいつもと違ってめかしこんでいる。
どうやら父さまも一緒に出かけるようだ。
と思ったら、兄さまと姉さまもおめかししているではないか。
え?
全員でお出かけ?
どこにいくの?
「今日はベルの大事な日だから、良い子にしているんだぞ」
父さまが兄さまと姉さまに注意をしている。
あのー、本当にどこにいくのでしょうか?
「あうー」
私の疑問は解消されないまま、お出かけとなった。
「あうあー!」
外はまぶしいほど明るかった。
村、なんだろうな。
小さな家がぽつぽつと建っている。
そのどれもが木造で、二階建ての家はひとつもない。
ぞろぞろと歩いていると、時折村人らしき人と出会う。
彼らは私達ーー父に丁寧な物腰で話しかけたり、挨拶したりする。
「これはロイド様。おはようございます。御家族でお出かけですか?」
「ああ、おはよう。今日はこの子を教会に連れていくんだよ」
「祝福ですか? おめでとうございます」
んん?
祝福? 教会?
どういうことだろう?
似たようなやり取りを繰り返しながらしばらく歩くと、広場に出た。
そこに建っている少し大きめの家を目指しているらしい。
ということは、あそこが教会なのかな?
二枚の羽根をモチーフにした模様がドアに刻まれている。
「おはようございます」
父さまがドアを開ける。
中は少し薄暗く、たくさんの長椅子が並んでいた。
「おはようございます。お待ちしていましたよ」
祭壇の前に立っている人が神父様なのかな?
六十過ぎくらいの、優しそうな男性だ。
【ハサム 人族 男】
【HP27 MP41】
【状態:健康】
【スキル:神聖魔術C 祝福 自己回復D-】
おお!
神聖魔術!?
この神父様、魔術が使えるんだ。すごい!
「では、始めましょう」
興奮する私をよそに、神父様は手にした経典を読み始める。
静かな教会にゆったりとした声が響く。
ふむふむ、どうやらこの教会に祀られている神様は、至高神ゼファーノークというらしい。
何を司る神様なのかなー、と耳を傾けていると……おや?
蛍のような光がちらほらと見えるぞ?
赤、青、緑。他にもいろんな色の光が、どんどん集まってきた。
えええ、なにこれ。
焦って他の人を見ても、皆驚いている様子はない。
これは驚くような事じゃないのかな。
でも、どんどん増えてるけど……。
これ、大丈夫なの?
私がビクビクしている間も神父様の祈祷は続き、それに合わせて光の数も増えていく。
そして、神父様が私の名前を呼んだ。
「ベル・ロシュフォード」
とたん、光がざわり、と揺れる。
目はないのに一斉に私を注目している感覚。
え、なんだか不穏な。
「これよりこの者に祝福を」
微笑みながら神父様が言った瞬間。
「あうー!?」
光が渦巻くと私に向かってなだれこんできた!?
色とりどりの光が、まるで虹のように私の中に入ってくる。
全身が熱くなり、めまいがして、一気に意識が遠のく。
「あうううー」
そして私は意識を失い……、初めてのお出かけは終了したのだった。