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13.街中で自分と同じ名前が聞こえると、関係ないと分かっていてもそっちに顔を向けてしまう

 ブルゴーニュ家は街の最奥に位置していた。周りには他に家や店といった建物はなく、ここだけ孤立したようになっている。


「随分と立派な屋敷ですね」


「流石は勇者様の家だな。城から結構な援助金をもらっているんだろうよ」


 立派な門構えに、侵入者を阻むように屋敷を囲っている塀。屋敷の大きさはギーのところと同じか、少し大きいくらいか。


「問題はどうやって盗み聞きするか、だな」


「屋敷に忍び込むのは苦労しそうですね」


 塀を飛び越えるのはわけない。だが、それを誰にも見られるずに、ってなると話は別だ。


「姿が見えなくなる幻惑魔法とかないのか?」


「そこまで万能なものはないです。せいぜい、気配を感じさせにくくするものくらいしか」


 まぁ、そうだよな。でも、気配を薄くできれば何とか侵入はできそうか?


「ですが、幻惑魔法は重複できません。万が一見つかった時、私は魔族であることがバレてしまいます」


 今、セリスは相手から人間だと思われる幻惑魔法を自身に施している。気配を薄くする幻惑魔法を使うとなると、いやが応にもその幻惑魔法は解除せざるを得ないということだ。

 ちなみに、俺はクロムウェルだとわからない幻惑魔法をかけてもらってる。この街に来たのは一度だけだから知り合いなんていないとは思うが、念のためだ。


「そうなると、俺が幻惑魔法をかけてもらって一人で潜入する方がリスクが低いかな?」


「おそらくそうでしょうね。元々潜入調査は複数人でやればやるほど、見つかる危険性が高まりますからね」


「なら決まりだな。明日の昼前にここに来て、俺は隠れて屋敷に潜入。セリスはこの辺で待機」


「わかりました」


 俺の作戦にセリスが素直に頷いた。


「そうと決まればぐるっと屋敷を一周して、入りやすいところを探すか」


「はい」


 俺はセリスの手を引きながら侵入経路を探る。正直、こそこそ屋敷に入り込むなんてやったことないからな。どんな感じでやればいいのか皆目検討もつかん。フェルのやつがそういうのは得意そうだから相談してみっか?


 一通り見て回ったところで、塀の近くに木が生い茂っている場所を見つける。


「ここなら木の陰に隠れて中に入れるんじゃねぇか?」


「そうですね。いいんじゃないですか?」


 素人考えではあったが、周りに何かあるわけでもないし、セリスも同意してくれたし、何となくいけそうな気がしてきた。


 いや、なんか王国のスパイみたいでテンション上がるな。まぁ、魔族のスパイなんだからあながち間違いではないか。


 とりあえず、侵入経路も確保したし、情報が得られる目処もたったし、今回の任務もなんとかなりそうだな。


 この時の俺は与えられた任務が遂行できそうだったので、完全に油断していた。






「えっ…………シューマン君?」






 だから、昔の名前を呼ばれた時、無意識にそちらに目を向けてしまった。


「えっ?えっ?どういうこと?なんで?なんでこんなところに?」


 そこにはパニック真っ只中の緑髪をした美少女の姿が。俺の思考回路が一瞬にして凍りつく。


「シュ、シューマン君よね!?生きてたのっ!?っていうか隣にいる美人の女の人は……?」


 この場で状況を理解しているのは俺ただ一人。緑髪の美少女はまだテンパっているし、セリスに至っては呆けたように俺と美少女を交互に見ている。


「ねぇ、どういうこと!?なんで魔族に殺されたシューマン君が、そんな綺麗な女性(ひと)と手を繋いでこんなところを歩いているの!?」


 やばい、相手が冷静になって来た。尋常じゃない冷や汗が俺の身体から噴き出している。必死な形相でこちらに近づいて来ている美少女を見て、俺は最後の手段を取った。


 右手を前に出し、作り出すは転移の魔法陣。もう、説明とか無理だろ!俺はこっから逃げ出すんだよ!


「ちょっと待っ……」


 俺は相手の制止も無視して、魔王城の中庭へと転移した。


 見慣れた小屋が目に入り、俺は安堵の息を吐きながらウッドデッキに腰を下ろす。セリスも戸惑いながらおずおずとその隣に座った。


「……クロ様、今の女性は……?」


 セリスが気まずそうな顔で俺に問いかけてくる。俺は頭を掻きむしりながら、机に突っ伏した。


「……あの子はフローラ・ブルゴーニュ。勇者の妹で、俺が人間の世界にいた頃の知り合いだ」


「勇者の妹……知り合い……」


 はぁぁ……。完全に気が抜けていた。フローラさんは学園にいるから、絶対にアーティクルでは会わないと思っていたのに。今回は俺の落ち度だ。ちゃんと警戒していれば防げたこと。


「フローラさんに見つかったとなると厄介だな……」


 気配を薄くすれば、例え見つかってもあの街には顔見知りがいないから、どうとでもなると思ったのに。こりゃ、計画の練り直しが必要か?


「……なぜ、クロ様だとわかったのでしょう?」


「えっ?」


「私はクロ様に間違いなく幻惑魔法を施しました。なので、知り合いにあったとしても、クロ様だと認識できないはずなのですが……」


 言われてみればそうだな。なんでバレたんだろう。


「どっちにしろ潜入は厳しいかもな。フローラさんが俺を探そうと屋敷の周りをうろつく可能性もあるわけだし」


 そこまでフローラさんが俺に興味があるとは思えないけど。俺が本当に生きているかどうか確かめて、レックスに報告したいくらいには考えてそうだな。


「……あの女性の相手は私がします」


「はっ?何言ってんだ?」


「幸か不幸か、私はクロ様と一緒にいるところを見られています。だから、明日は私が一人で屋敷の周りをうろついて彼女をおびき出します。その隙にクロ様は屋敷へと侵入してください」


 ……なるほど。フローラさんが知りたいのは俺に関する情報。別に本人から聞き出さなくても、一緒にいた謎の美女から話を聞けばそれでいいのか。


「うまくやれるか?」


「あまり自信はないので、なるべく早く戻って来てください」


「……わかった」


 かなり不安が残るが、セリスの言った方法でやる以外には道はなさそうだ。


 こんなところで旧友に出会うとはな、神様も粋なことしやがるぜ、ちくしょー!

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