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3.転校生がどんな奴でも不良は因縁をつける

 なーんかこうやって立たされてると、職員室に呼び出されたときのことを思い出して落ち着かん。

 レックスがバカやらかすと、なぜか俺まで一緒に呼び出されんだよな。あれはまじで納得いかねぇわ。レックスの監督責任はお前にある、って俺は保護者か!あいつらだけは魔族達が襲い掛かっても庇ってやらん。


 それにしてもフェルのやつ、魔族の幹部に俺を紹介するとか言ってたけどバカなのかな?あぁ、バカだったわ。


 人間が魔族を憎んでるのと同じように、魔族も人間を目の敵にしてるだろうに。そんな魔族のトップ集団の中に俺を放り込むとか、腹ペコのドラゴンの群れに肉を放り込むが如き所業だろ。正気の沙汰じゃねぇよ。


 いや待てよ?意外と魔族は人間に好意的なやつが多いのか?フェルの奴が変わり者なんじゃなくて、俺の認識が間違っているという可能性も……。


 そんな事を考えてたら目の前の扉が勝手に開く。まぁ会ってみれば全てはっきりするだろ。


 俺は開いた扉の奥の部屋にいる魔族達の様子を観察する。


 驚愕。からの憎悪もしくは警戒の視線。


 ……やっぱり俺の認識は間違ってなかったわ。こりゃ、がっつり人間の事を恨んでますね。

 それともう一つ前言撤回、この如何ともしがたい雰囲気を心の底から楽しんでいるフェルはバカじゃない、大バカだ。


「はいはい、みんなに紹介するからこっち来て」


 学校の先生か、お前は。何を笑顔で手招きしとんのじゃ。俺は人見知りでなかなか教室に入れない幼稚園児じゃねぇんだよ。むしろこの場に人は俺しかいねぇよ。

 つってもこんな所に棒立ちになってても仕方ない。俺は無表情で、内心文句を言いまくりながら、フェルの隣に立った。


「じゃあ自分で自己紹介してみようか?」


 先生役にはまってんじゃねぇよ!何がしてみようか、だよ!この状況で俺の名前に興味ある奴なんかいねぇだろ!

 つーか一番扉に近い毛量すげー奴、めちゃくちゃ俺の事睨んでんじゃねぇか。ありゃ転校生にいちゃもんつける不良(ワル)だよ。新入りにクラス内の順位って奴をわからせてやる、って目をしてんじゃん。安心しろ、粋がってる不良(お前みたいなやつ)は元々ランク外だから。クラスで相手してもらえてないから。


 とりあえずここは舐められるわけにはいかねぇよな。そもそも人間ってだけでハンデを背負ってるみたいなとこあるから、一発かましてやらないと、これからの生活に支障をきたす。

 俺は大きく息を吸い込み気持ちを落ち着かせると、キリッとした表情で幹部達に向き直った。


「……今日から魔王軍に入りました、クロっていいます。あっ、一応人間です。みなさんよろしくお願いします」


 悲しいかな、コミュ障よ。自己紹介は定型文しか言えんのじゃ。


 隣でフェルが自分の太腿をつねって必死に笑いをこらえているのが見えた。こいつは絶対に後でしばく。


「おいおい……こいつぁなんの冗談だ?」


 不良が眉を釣り上げながら立ち上がった。やべぇ!小銭巻き上げられる!


「ライガ、クロは自己紹介したんだから、こちらも挨拶をするのが先だよ」


 いきり立つ不良に、フェルが静かな口調で告げる。だが、そんなことで止まるわけがない。だからこそ不良なのだ。そこんとこ夜露死苦ぅ!


「んなもん関係ねぇ!!なんでここにドブくせぇ人間風情がいんのか───」


「僕の言うことが聞けないの?」


 冷たい声音と共にフェルの身体から殺気が放たれる。


 ひゅー。バカでも流石は魔王様。常軌を逸した殺気ですな。魔法陣なんて使ってないのに、部屋の温度が氷点下まで下がった気がしたぞ。これにはほとんどの幹部が身を竦めちまってんな。不良も含め。


 ゆっくりと席に座ったライガを見て、フェルはにっこりと微笑んだ。


「聞き分けがよくて助かったよ。さて、ここは僕が一人一人紹介していこう。その後にみんな一言なにか言うようにしてね」


 フェルの発言に物申したい魔族達も、先程の殺気を前に、黙って従うほかあるまい。そんな幹部達を知ってか知らずか、フェルは能天気に右隣にいる魔族に目を向けた。


「こっちから反時計回りに行こうか。まずはトロールのギーだよ。ゴブリンやオークなんかのリーダーをしている。彼らには魔族の食料関係をまかせているんだ」


「ギーだ、よろしくな」


 肥満体型に緑の肌、布一枚ルックにバカでかい棍棒。教科書に載ってたまんまの姿じゃねぇか。かなりヤバ目な見た目はしているが、その割にあの不良よりも話は通じそうなんだな。

 ギーは短く返事をすると、俺を一瞥しただけで、すぐに興味を失ったかのように視線をそらした。ふむ、別に歓迎も敵対もしないって感じかな。


「次はウンディーネのフレデリカ。精霊をまとめる彼女は、魔族の生活雑貨関係を取り仕切ってる。フレデリカは服屋さんだね」


「よろしくね、お兄さん。何かあれば色々と面倒見てあげるわ」


 うおっ!なんだこの美人!滅茶滅茶エロい!

 確かウンディーネは水の精霊だよな。だから肌に薄く青みがかかってんのか……それも相まってかすげぇ妖艶な雰囲気を醸し出してんな。

 腰まで伸びてる青い髪もサラサラでグッド!手櫛で髪を梳いたら何の抵抗もなく滑り落ちそう。

 白衣を身にまとってるから完全に女医さんだぞ、これ!色々ってどんな面倒見てくれるんだ、これ!いやはや、まったくもってけしからんぞ、これ!!


 頬杖をつきながらこちらを見る姿からはあまり敵意を感じないな。むしろ楽しげですらある。是非ともこのお姉様とはお近づきになりたいものだ。


「鼻の下を伸ばしている場合じゃないよ」


 フェルにジト目を向けられる俺。な、なぜわかった!?極限までポーカーフェイスを貫いていたはずなのに!


「まぁいいや。次行くよ」


 フェルは呆れた表情を浮かべながら、フレデリカの隣に座る不良に目を向ける。げっ、あいつまだ睨んでんな。


「一番最初にクロに絡んだのが人虎(ワータイガー)のライガ。獣人を束ねる長だね。役割は資材の調達がメインかな」


「…………」


「ライガ」


「ちっ!……俺様に関わるんじゃねぇぞ」


 それだけ吐き捨てるように言うと、ライガは俺から視線を切った。


 なるほど。俺の事は気に入らないけど、教師を敵に回すほどのドキュンではないようだ。

 しかし、身体でけぇな。二メートルくらいあるんじゃねぇか?トロールのギーの方がでかいんだが、人間と見た目が変わらない分、ライガの方がでっかく感じるな。

 白いタンクトップから見える上腕二頭筋はまさしく筋肉の塊。こいつ絶対趣味は筋トレだ。俺とは相いれない。


「窓の外にいるのが巨人のギガントだよ。ほら」


 フェルが指差した方に目を向けると、中庭らしき所に巨大な人間が三角座りをしていた。

 巨人とか初めて見たわ。いやーライガがでかいって思っだけど、このギガントに比べれば小さい小さい。だってこいつ優に五メートルは超えてるぞ?だからお前の負けだライガ。ざまぁみさらせ。


「彼は身体が大きいから会議室に入らなくてね……申し訳ないけど、会議の時はこうやって城の中庭で参加してもらっているんだ」


「オラ全然気にしてねーです。はい」


 ギガントは優し気な笑みを浮かべる。そして、魔王の隣にいる俺にまで笑顔を向けながら、あろうことか手まで振ってきた。


「オラはギガントってんだ。みんなより身体がでっけーから建築の仕事をやってるだ。何か建てたいものがあればオラに言ってけろ。いつでも力になるんだな」


 やべぇ、こいつめっちゃいい奴。魔族の中でもかなりの癒し系だ。ギガントとならボッチの俺でも友達に……。


「あぁ、でもオラは力加減が分からないから、間違って殺しちゃったらゴメンだす」


 …………癒し系は遠くから見ておくに限る。近づいたら癒し系が天然殺戮系に早変わりしかねん。


「ギガントはとても優しいから仲良くしてね」


 いや、うん。それはなんとなくわかるんだが、ハイタッチとかした日には俺の右腕吹き飛ぶだろ。

 フェルは軽い口調でそう言うと、次の魔族に目を向ける。


「ライガの隣にいる鎧がデュラハンのボーウィッド。彼らには武器の製造をやってもらってる」


「…………」


 あっ、こいつも魔族だったのか。なんか白銀の甲冑が椅子に座っているから、ただのアンティークの置きものかと思ってた。

 これがデュラハンなんだな。動く甲冑、まさにホラー。夜、トイレに行って後ろに立っていたら、間違いなく漏らすレベル。だが、かっこいい。フルプレートには男のロマンが詰まっていやがる。


「…………」


 …………。


「…………」


 …………。


「…………」


 いやなんかしゃべれよ!!顔がないからどこ見ているのかわかんねぇよ!!怒ってんの?ねぇ怒ってんの?


「ボーウィッドは極度の照れ屋でね。みんなの前では話そうとはしないんだ」


 なん……だとっ……?お前もコミュ障なのか。一気に親近感湧いて来たわ。俺はこいつと友達になりたい。


 さて、と。問題はボーウィッドの隣で目を瞑ってる奴だな。こいつは幹部の中でもかなりやばそうだ。さっきフェルの放った殺気に何の反応も示さなかったのはこいつだけだからな。要注意人物、間違いなし。


「彼はヴァンパイアのピエール。ヴァンパイアは魔族の中でも特に魔法に精通しているからね。彼らには魔道具の作成をやってもらっているよ」


 ヴァンパイア、魔族の中でも特に危険度の高い相手。十字架やニンニク、太陽の光が弱点だなんて、おとぎ話の世界の話。圧倒的な実力を兼ね備えているため、そんな弱点を作ってやらなければ、物語として成り立たないのだ。

 鋭い犬歯に鋭利な爪。少し血色の悪い肌に灰色の長髪。顔つきからは年齢が一切判断できない。

 ヴァンパイアのピエール……厄介な相手だ。敵に回さない方が賢明だろう。


 俺がそんなことを考えていると、ピエールはゆっくりと目を開き、静かに口を開いた。


「この世は常に悲しみと憎しみに満ち溢れている。だからこそ世界は美しく光り輝く。歓迎しよう異端の者よ。其方の持つ光とやらがどれほどのものなのか、吾輩に見定めさせよ!」


 あっ、患者だこいつ。負けねぇわ。どんなに強くてもこいつには負ける気がしねぇわ。

 なるほどな。性能がバカげている上に厨二チックなこのロングコートを作ったのも絶対こいつだ。おそらくフェルが着ている、胸まであいた黒いシャツも絶対そうだろ。


「ピエールは少し特殊な話し方をするんだけどすぐになれると思うよ」


「大丈夫だ。学校で似たようなやつを見たことがある」


「なんと!?吾輩と同じく、神に選ばれし者が其方の近くにもいたというのか!?……くっくっくっ……これだから止められぬ!選ばれし者はこの世にただ一人で十分!このピエールが選定者であることをこの世界に知らしめて」


「じゃあ次で最後になるかな」


 俺が視線で合図すると、フェルは容赦なくピエールの話をぶった切る。ピエールは少し不満げな表情であったが「魔王には神の御心はわからぬか……だがそれもいい」とかなんとか意味不明なことを呟きながら、腕を組んで再び目を瞑った。やっぱりこいつには負ける気がしねぇ。


 俺は最後の魔族にちらりと目を向け、すぐに視線を逸らす。


 最後の魔族は肩まで伸びた、少しウェーブのかかっている金色の髪をした美しい女性であった。俺達に襲いかかってきたアトムと同じように、悪魔特有の気配を醸し出している以外、人間とほとんど見た目が変わらない。

 先程紹介されたウンディーネのフレデリカに勝るとも劣らないほどの美貌を兼ね備えており、こちらは黒いボンテージを着ているため、しっかりとその巨乳を確認することができた。


 え?余りに美人だから視線をそらしたのかって?ノンノン。俺が視線をそらした理由は他にあるのさ。むしろこんな美人ずっと見ていたいくらいだっつーの。


 こいつのダークブルーの瞳が他の幹部達よりも数段やばい。まるで親の仇を見るような目で俺を見てんだよ。正直あの視線に耐えられんのは、心臓がオリハルコンで出来ているレックスくらいだ。俺は無理、心が折れる。


「彼女は悪魔族、サキュバスのセリス。幻惑魔法が得意な彼女達は人間達の監視や諜報の役割を担っているよ」


 幻惑魔法?聞いたことのない魔法だな。相手を惑わせる感じの魔法か?

 まぁ、そんなもんなくてもこの美しさだ。下手な男ならコロッといかれちまいそうだな。俺は平気。なぜなら、気を抜けばコロッと殺されそうなんで、見惚れている余裕なんてないぜ。


「セリスには今日まで僕の秘書も兼ねてもらっていたよ」


「セリスと申します。よろ……今日まで?」


 射殺すように俺を睨みつけながら名乗ろうとしたセリスが、聞き捨てならない言葉に眉をひそめながらフェルの方に顔を向ける。


「そうだよ。今日からは魔王軍の指揮官の秘書を務めてもらう」


「指揮官の秘書、ですか……」


 あからさまに気落ちしたような様子のセリス。こいつ、フェルにぞっこんだな。フェルを見る目にこめられている憧憬の念が半端ない。

 つーかちょっと待て。指揮官って誰だ?今までの紹介の中でそんな役職の奴いたか?


「ルシフェル様、指揮官とは誰なのですか?」


 あれ?セリスも知らないの?ってかみんな驚いたようにフェルに目を向けているところを見ると、誰も知らない感じなのか?

 皆の心内など露知らず、フェルはニコニコと幹部達に笑いかけていた。


 ……いや待て、俺にはわかるぞ。その顔はまずい。非常にまずい。新しい仲間に新しい役職。その二つから導き出される答えは……おいバカやめろ。


「ここにいるクロを今日から魔王軍の指揮官に任命しまーす」


「「「「はっ?」」」」


 ……この大馬鹿野郎、やりやがった。


「ちょ、ちょっと待ちやがれ!どういうことだよ!?」


「わ、私も納得できません!!」


 ライガとセリスが同時に立ち上がる。ギーとフレデリカも呆気にとられた表情でフェルを見つめ、ピエールはゆっくりと目を開くと、興味深げな視線を俺に向けた。

 ギガントはよくわかっていないのか首をかしげており、ボーウィッドは全くの無反応。わかる、わかるぞ!みんなと同じ波に乗れないのがコミュ障だよな!うん!やっぱり俺はこいつと友達になろう!


「納得できないって言われても、これは決定事項だから」


「いくらルシフェルの言葉でも俺は認めねぇぞ!!」


 ライガが力任せに目の前の円卓に拳を打ち付ける。円卓は床をぶち抜き、そのまま下の階へと落ちていった。やべぇよ、こいつ。バカ力にもほどがあんぞ。


「おいてめぇ!!」


 ライガが俺をビシッと指さした。この流れは大体察しがつくぞ。


「表へ出やがれ!!誰が指揮官に相応しいかその身に叩き込んでやるよ!!」


 はいでました。暴力に訴えかける脳筋の図。これだから嫌だよねぇ、力こそ正義だと思っている輩は。そんな野蛮なこと我らが魔王様はお認めになりません。


「んー……確かにライガの気持ちもわかるね」


 えっ?気持ちわかっちゃうの?


「いきなりやって来た新人が指揮官なんて、みんなにしてみれば面白くないよね」


 えっ?それをお前が言っちゃうの?


「よし!みんな闘技場に集合だ!」


 えっ?闘技場に集合しちゃうの?


 フェルの言葉を聞いたライガが意気揚々と会議室から出ていく。他の幹部達もスッと立ち上がり、その後を追った。セリスだけはキッと俺を一睨みするというおまけつきで。


「これは面白くなってきたね」


 指を組みながらニヤニヤと笑っているフェル。今この場にいるのは俺達二人だけ。今なら目撃者いないよね?魔王をぶちのめして、俺が世界を救っても問題ないよね?


「クロにとってもみんなに実力を示すいい機会なんじゃない?」


「ほざけ。お前との戦いで魔力が尽きたって言ってんだろ」


 見た感じどいつもこいつも一筋縄ではいかなそうな連中。その中でもライガはゴリゴリの近接戦闘タイプだろ。今の俺が太刀打ちできるわけがない。三秒で土に還る自信がある。


 いや待てよ?フェルにもらったアロンダイトを使えばワンチャン……。


「あぁ、ちなみにアロンダイトの使用は禁止するからね。みんなはあれが僕の剣だって知っているから、君に渡したってバレるとまたみんなの不満が溜まっちゃうよ」


 地獄に落ちろ。このくそ魔王が。


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