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10.大して期待されていないことはわかっているのに、やっぱりお土産は悩む

 エスコートを開始してから三十分、俺達は腕を組みながらアーティクルの街を歩いている。つーか、歩いてしかいねぇ。多分この道を通るのは今日三回目だ。


「あの……同じようなところをぐるぐる回っているだけなんですが?」


 うるせぇ。そんな事俺だって百も承知だ。でも、どうしたらいいのか分からんから、ひたすら歩くしかねぇだろうが。


「……もしかして、クロ様はこういう経験がないのですか?」


 ぎくっ。いきなり核心をついてきやがった。だが、それはバレるわけにはいかない。俺の面子が丸潰れになってしまう。


「はっはっはーセリス君、面白いこと言うねぇ。人間界にいた頃は、毎日のように僕は女の子と二人きりで」


「ないんですね」


 ばっさり、名刀セリスの斬れ味は今日も抜群だ。


「ほっとけちくしょー!経験がないからなんだってんだ!悪いかよ!俺は女の子と二人で出かけたことなんかねぇんだよ!」


「そうなんですか……ふふっ」


 おいまてこら、なんで嬉しそうなんだよ!からかってんのか!?バカにしてんのか!?悪かったな!浮ついた話の一つもなくて!


「けっ!なら経験豊富なセリスさんに、こういう時はどこに行ったらいいか聞きましょうかねぇ!?」


「私も男性と二人で出かけるのは初めてですよ?」


 えっ、そうなの?っていうか案外あっさり言うんだね。意地張った俺がめちゃくちゃ惨めやん。


「難しく考えずに、したい事をすればいいんじゃないですか?」


 したい事、かぁ……。そうは言っても、俺がここに来たのは任務のためだしなぁ。……まてよ?


「なら、買い物をしよう!」


「買い物ですか?何か買いたい物があるんですか?」


「あぁ!フレデリカがやけに人間界に来たがってただろ?だから、こっちのお土産をなんか買って行ってやろうと思ってさ!」


 我ながらナイスアイデア!と、思ったがセリスはあんまり浮かない表情をしている。なぜじゃ。


「……フレデリカはこちらの世界に興味があったわけじゃないと思いますけど?」


「なに?そうなのか?」


 異議申し立てをしてまで来ようとしていたんだぞ?それなのに、人間の世界に興味がないっていうのか?


「……まぁ、いいです」


「そ、そうか?どうせならアルカや兄弟、あとギーにも何か買って行ってやろうか」


「それはいいですね。みんな喜ぶと思いますよ」


「よし、じゃあ適当な店に行くか!」


 俺はセリスの腕を引きながら、とりあえず雑貨屋を目指す。丁度いい感じに色んな物が売っている店があったので中に入ってみた。


 店の中には芸術の街の名に恥じぬ奇抜な商品がたくさん置かれている。つーか、殆どが何に使うのかよくわからんのだが。

 この中からよさげの物を見繕ってみるか。とは言っても、お土産か。こいつはセンスが問われるぞ。


「お土産ってどんなん買えばいいんだろ?」


 俺が猿のような木彫りの置物を手に取りながら尋ねると、セリスが難しい顔をしながら首を傾げた。


「結構難しいですね。全員が個性的ですから」


「そうなんだよな……兄弟はなんとなく決めてんだけど」


「ボーウィッドですか?何を買うんですか?」


「兄弟はこの前初めて酒を飲んで米酒がお気に入りみたいだったから、そいつを買って行こうかなって」


 あの飲み会の日のことを思い出したのか、セリスが若干引きつったような笑みを浮かべる。


「そ、それはいいですね。喜ぶと思いますよ。ついでに、アニーさんのために葡萄酒を買うといいですよ」


「へー、アニーさんは葡萄酒が好きなのか?」


「はい!とは言っても、あの日、私が持っていった葡萄酒を美味しそうに飲んでいただけですが……」


 段々と声が小さくなるセリス。自分でカサブタを剥がしにいくスタイル。


「なら、兄弟はそれでいいな。ギーはこれでいいや」


 俺は猿の置物もどきを買い物カゴに入れる。


「ず、随分適当ですね」


「ギーに割いている時間はない。フレデリカとアルカのお土産を決めなければ」


「アルカは何を買って行っても喜びますが、フレデリカは難しいですね」


 そうなんだよな。とにかくフレデリカが難しい。あいつ自身服を作るからそういうのはNGだ。かと言って兄弟みたいに酒を持っていったら大変なことになる。そもそも、女性が欲しがるものとか、マジでわからん。


「なぁ、セリスならどんなものを貰ったら嬉しい?」


「私ですか?……そうですね、アクセサリーとかでしょうか?」


 アクセサリーか、王道だな。でも、フローラルツリーにもアクセサリー屋さんはあるし、フレデリカに合うようなアクセサリーが全然思いつかん。


「あっ、アルカにはこれなんかどうですか?」


 セリスが持ってきたのは黄色い髪飾り。中々いいセンスしている、ような気がしないでもない。


「アルカの茶色い髪には暖色系が似合うと思いますよ」


 なるほど、男色系ね。男同士が好きな感じね。いつの間にアルカが腐の道を歩んでいるかは知らないが、セリスが似合うっていうならそうなんだろう。


「じゃあ、アルカはそれで決定だな!」


 俺は黄色い髪飾りをセリスから受け取り、カゴの中に入れる。


 さてさてさて、本格的にフレデリカのお土産をどうするか困ってきたぞ。まじであいつは何を贈ったら喜ぶんだ?


「うーん……とりあえずこの店にはフレデリカの喜びそうな物はないですね」


「そうか、じゃあ次の店行ってみっか?」


 俺はそう言うと、手早く会計を終わらし、セリスを連れて店を出る。


 その後、二、三件店を回ったが中々ピンと来るものがなかった。とりあえず、酒屋でボーウィッド達のお酒を買い、その隣の服屋に足を伸ばす。


「フレデリカに服ですか……」


「どう考えても本職に渡すのは無謀だよな」


 わかっている、わかってはいるが他になんも思い付かんかったんや。


「見てみるだけ見てみましょうか」


「そうだな」


 俺は手近にあった服を手にとってみる。うん、赤い。それ以外に感想はない。次の服は青い。それ以上に思うことはない。さて、次は……。


「ちゃんと選ぶ気あります?」


 俺が服を取っ替え引っ替え見てると、セリスからジト目を向けられた。そんなこと言われても、俺には色の違う布地にしか見えない。


「真剣に探してください!」


「わーってるよ」


 はぁ……女子は本当に服とか選ぶの好きだよな。俺には何が楽しいのかわからん。まぁでも、俺が土産を買いたいって言ったんだからちゃんと探さなねぇとな。


「あら〜すごく可愛い子がいるじゃな〜い!」


 俺が悪戦苦闘しながら服を探していると、突然、後ろから声をかけられた。振り返るとド派手な服にバッチリ化粧をしたおっさ……お姉さんがセリスを見ながら目を輝かせている。そして、青髭も輝かせている。


「ちょっとちょっと!あなた!あたしの試作品を着てみてちょうだい!」


「えっ?私ですか?」


「そうよ!あなたよ!本当に食べちゃいたいくらい可愛いわね!」


 ド派手なお姉さん(♂)はペロリと舌を出した。それって食事的な意味ですよね?頭から丸かじりできそうですもんね?


「とりあえず、彼女さんは借りて行くわね〜」


「かかか彼女だなんて……」


 そのまま顔を赤くするセリスを店の奥まで引っ張って行く。なんか悲しみが生んだモンスターにセリスが連れていかれたんだが。まじでそのまま食われないよな?


 一人になった俺は適当に店の中をぶらつく。と、言っても本当に歩いているだけ。正直、セリスがいなきゃ俺には服なんか選べるわけがない。


 15分くらい待っただろうか、さっきのモンスターが笑顔を浮かべながら戻ってきた。


「お待たせ♡びっくりするわよ〜」


「はぁ……そうですか」


 びっくりって何に?セリスの肉の美味さに?付け合わせはキャベツがいい感じかな。

 そんなことを考えていたら、店の奥からセリスが歩いてきた。


 その瞬間、俺の頭が真っ白になる。


 先程まで白いワンピースを着ていたセリスは、全く違う服に着替えていた。しかも、今まで見たこともないような服。


 布を幾重にも重ねたデザイン。黒がベースになっており、表面には蝶の模様があしらわれていた。

 どことなく落ち着いた雰囲気を醸し出しており、セリスの周りだけ時の流れが遅くなっているように感じる。


 俺はあまりの美しさに、息をするのも忘れてセリスの姿に魅入っていた。


「これはあたしが最近新しく作った着物っていう服よ」


 おっさんが何か説明しているが、俺の耳には入ってこない。ただ、何も考えずにセリスを見つめ続ける。


「……あんまり見られると、恥ずかしいんですけど。どうですか?」


 セリスが袖口で口を隠しながら、俺に問いかける。


「あ、あぁ。いいんじゃないか?」


「そ、そうですか」


 脳を介さないで出た言葉。なんの面白みのない答えだったが、それでもセリスは嬉しそうだった。


「本当に綺麗よねぇ……服もいいけどモデルもいいわっ!」


 オカマのおっさんがうっとりした表情でセリスを見つめる。これは……認めざるを得ない。


「ちょっと、これも使ってみて!」


「これは……何ですか?」


 セリスが渡された細長い小さな板を不思議そうに観察した。


「それも着物に合わせてあたしが新しく作った小物なんだけど、扇子って言うのよ!開いてみてちょうだい!」


「は、はぁ……」


 セリスがオカマのおっさんの勢いに押され、言われるがままに扇子を開く。すると、木の板は弧を描いて広がり、花の絵柄が入った紙が貼られていた。


「それは自分に向けて振って使うのよ!暑い日とかにとっても便利なの!その上、情緒があると思わない?」


 セリスが試しに扇いでみる。扇子が生み出す風がセリスの金髪を揺らし、最早一枚の絵のようであった。

 バカみたいに見惚れていた俺だったが、我にかえると扇子を指差しながらオカマのおっさんの方に目を向ける。


「その扇子ってやつ、売ってくれないか?」


「あ〜ら、気に入ってくれたの?」


 おっさんが笑顔で俺に顔を寄せてきた。至近距離だとちょっときついもんがあるな。遠くからでも十分厳しいが。


「あぁ、知り合いの方お土産にどうかなって」


「そうなの?う〜ん、これはまだ試作段階だから売り物じゃないんだけど……モデルをやってもらったし、タダであげちゃうわ♡」


「まじか!サンキュー!」


 俺がお礼を言うとウインクで返してきやがった。多分、今日の夢に出てくるわ、あれ。


 おっさんは俺に扇子を渡すと、着物を脱がすからといって、セリスと二人で再び店の奥へと戻っていった。


 いや……まじで破壊力半端なかった。綺麗だとは思っていたが、それをまざまざと見せつけられたような気がしたぜ。あれが俺の秘書なんだもんなぁ……。


 何気なく視線を向けた場所に置いてある商品が俺の目にとまる。それを手で取り、眺めながら少し悩んだ俺は、その商品を持って店員のところまで歩いていった。


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