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1.野生動物にはご用心

 フローラルツリーの噴火騒ぎを解決した俺は幹部会までの一週間、フェルから休暇をもらった。といっても、そのうちの六日は魔の森の植林作業。俺が重力魔法によって埋没させた森を復活させろとさ。

 まぁ、ベジタブルタウンで畑仕事を死ぬほどやった俺なら楽勝だろうよ!


 そう思っていた時期が僕にもありました。


 きつかった……本当にきつかった。何がきつかったって?ずっと一人だったことだよ!

 フェルの野郎……これは罰だからとか言って、他の奴が手助けするのを禁止したんだ。せっかくボーウィッドとかフレデリカとかギー……は無理矢理巻き込んだんだが、手伝ってくれるって言ってたのに。まじあいつは残虐非道な魔王だ。


 しかも、その間セリスは手を貸せないことをいいことに、アルカとのほほんと過ごしてやがった。おかげであまり寂しい思いをしてなかったアルカは、俺がヘトヘトで帰ってきても、そんなに甘えてくることがない。その上「パパ汗臭いー」とか言って近くにすらよってこなかった。まじへこむ。


 そんな地獄の拷問みたいな作業も、何とか終わらせることができた。最後の方は、なぜ人は木を植えるのか、木を植えるということに何の意味があるというのか、と無駄に哲学的なことを考えるくらいにはいかれてたな。病み上がりにやらせる罰じゃねぇよ、まったく。


 そしてなんやかんやで休暇最終日を迎えた。天気は快晴。絶好のピクニック日和。


 俺は以前アルカとした約束を果たすために親子三人で……ってちげーよ!親子じゃねぇよ!俺とアルカとセリスの三人でピクニックに出かけていた。


 セリスが見つけて来た場所は見渡す限り本当に何もない平原。いや、何もないというのは間違いだ。俺は草原に広げたシートの上から少し離れた場所にいるアルカに目を向ける。


「やーっ!」


 可愛い声をあげながら黒い毛色の狼の群れと戦っていた。戦っていた?ノンノン、蹂躙していた。


「ブラックウルフは中級の冒険者でも苦戦するレベルなんだけどなぁ……」


「貴方達二人が中級レベルだと本気で思っているんですか?」


 俺がぼそりと呟くと、隣に行儀よく座っているセリスがお茶をすすりながら、白い目をこちらに向けて来た。うるせぇな。思ってねぇよ。俺にも茶をよこせ。


 セリスがアルカの方を見ながら、何も言わずにお茶を渡してくる。やっぱり一家に一台エスパーセリスだな。何も言わなくても伝わるとかまじ便利。


 それにしてもあれだな……なんか狼達が可哀想だな。最初は敵意むき出しでアルカに襲いかかっていたけど、今は完全におもちゃにされている。逃げ出そうにもアルカが炎の壁で囲っているから逃げ場はないし。あっ、お茶がうめぇ。


「ブラックウルフに襲われて命を奪われる魔族もいますから、出会ったら即討伐対象なんですが……」


「あぁ……なんていうか一方的すぎるな」


 多分アルカにとっては遊びと訓練半々くらいの気持ちなんだろうな。その証拠に炎で囲った以外は魔法陣を使っていない。

 身体強化(バースト)だけかけて、ブラックウルフをちぎっては投げ、ちぎっては投げって感じだからな。


「つーかなんで魔物がいんだよ?」


 そもそもピクニックに来たのに魔物と戦っているっていうのはおかしい話だ。俺が目を向けるとセリスは軽く肩をすくめた。


「クロ様の要求は、草原で、静かで、誰も来ないというものだったので、その条件が当てはまるのがここしかありませんでした」


「なるほどね……で?ここに誰も来ないって理由は?」


「手強い魔物がわんさか出るからです」


 ですよねー。だって、ここに来るまで10回以上魔物に襲われているからね?その度に俺の娘が目をキラキラと輝かせて戦っていたからね?完全に戦闘民族だよ。誰だよ、メフィストは穏健派で戦いを好まないとか言った奴は。


「アルカの戦い好きは、完全にクロ様の影響だと思いますが?」


 おいおいおい、それじゃ俺が戦いたくてうずうずしている戦闘狂みたいじゃねぇか。


「俺は別に戦うのなんて好きじゃねぇぞ?」


「そうですね。でも、いざ始まると信じられないことをやってのけるじゃないですか。そういうのは子供が憧れるんですよ」


 そうか……俺の背中を追っているのか。そう考えると悪い気はしないな。でも、アルカにはお淑やかな女の子に育って欲しいんだよな。というわけでこんな戦う相手に事欠かない場所をピクニックの場として選んだセリスが悪い。


「やっぱセリスのせいだわ」


「なにが『やっぱ』なのかわかりませんが、甚だ心外ですね」


「こんな危ないところを選びやがったからだよ。お前やアルカに何かあったらどうすんだよ」


 言ってからすぐに後悔する。なぜアルカだけに限定しなかったのかと。


 フローラルツリーの一件からどうもセリスを意識していかんなぁ…………ほらそこっ!顔赤らめて下を向くな!なんか照れんだろうが!!


 セリスが俯き加減で俺に上目遣いを向けてきた。


「……でも、何かあってもクロ様が守ってくださいますよね?」


「…………当たり前なこと聞くんじゃねぇよ」


 って何だこの会話!!ニヒルに決めたい年頃なの!?普段はツンツンしてるのに、時々デレたくなるの!?つーか男のツンデレとか需要あんのかよ!!


 あーもう!とにかく俺は腹が減ったんだ!!そろそろ昼飯にすんぞ!!


「アルカー!そろそろお弁当にするぞー!」


「はーい!」


 このままだと気まずくなる空気を察した俺が声をかけると、アルカが笑顔でこちらに手を振った。ええのぉええのぉ、可愛ええのぉ。アルカがいればどんな状況だって癒しに変わるのぉ。


「ごめんね、狼さん。時間だって」


アルカは謝りながら四種(カルテット)上級魔法(トリプル)の魔法陣を一瞬で構築する。


「ばいばい。"切れる風さん四枚刃ソニックスライサー・カルテット"」


 アルカの魔法陣から風の刃が吹き荒れ、周りの狼達を一網打尽にした。……いつの間に重複魔法なんてできるようになったんだ?やだこの子怖い。

 狼を一匹残らず駆逐したアルカは天使のような笑顔でこちらに駆け寄ってくる。その笑顔がどっかの金髪秘書と重なった俺は、本気でアルカの将来が心配になった。


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