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2.重役は会議に遅れるもの

 ルシフェルは自分の剣を握るクロを何も言わずに見つめながら、なんとなく大事な相棒を失ったような寂しさを感じていた。

 アロンダイトとはずいぶん長い間、共に戦ってきた。と言っても、アロンダイトが必要になるような戦闘など片手で数えるほどしかなかったが、それでもずっと苦楽を共にしてきた紛れもない相棒なのだ。

 本当はルシフェル自身、一生この剣を手放すつもりなどなかったのだが、剣が目の前にいる男を気に入ってしまったのであれば文句は言えない。ルシフェル自身もこの男のことを気に入ってしまったのだから。


「さて、そろそろ行こうか?」


「行くってどこにだよ?」


 アロンダイトを身体の中に戻し、不機嫌そうな顔でクロが問いかけた。


「今日はたまたま魔族の幹部連中の集まりがあるんだ。そこで君のことを紹介しないといけない」


「は?」


 クロの顔が盛大に引き攣る。それを見たルシフェルはニヤニヤと嬉しそうな笑みを浮かべた。


「第一印象ってとても大事でしょ?」


「なっ……いきなりかよ!」


 不満たらたらのクロを無視して、ルシフェルは扉の方に歩いていく。聞く耳をもたないルシフェルに苛立ちを覚えながらも、諦めたように息を吐き、クロは頭をかいた。


「……どうなっても知らねぇぞ。問題が起きた時はフェルが何とかしろよ?」


 ドアノブに伸ばしていたルシフェルの手がピタリと止まる。


 フェル、か……君以外に僕をそう呼ぶ男が現れるなんて夢にも思わなかったよ、アル。


 ルシフェルは微かに笑うと、扉をあけながら後ろのクロに声をかけた。


「大丈夫だよ。何か起きてもクロなら対処できる」


「おまっ……それって俺に丸投げじゃねぇか!!」


 クロの苦情には一切取り合わず、ルシフェルはさっさと歩いていってしまう。頬をピクピク動かしながら盛大にため息を吐くと、クロはルシフェルの後を追った。


 しばらく無言で歩いていた二人の前に両開きの大きな扉が現れる。かなり厳めしいつくりをしている扉を見て、クロがさらに表情を険しくさせた。

 ルシフェルは扉に手を添えながら、後ろで仏頂面を浮かべているクロの方へ振り返る。


「クロは僕が呼ぶまでここで待機していてね」


「……もうどうにでもなれだ」


 半ばやけになってクロが答えると、ルシフェルは満面の笑みを浮かべ、静かに扉を開いた。


 部屋の中には既に幹部達の姿があり、各々が自分の席に座っている。中へと入ると一斉にその視線がルシフェルへと集中した。


「やぁ、みんな。少し待たせちゃったかな?」


「おい!ルシフェル!悪魔の若いのが先走ったってのは本当の事かよ!?」


 ルシフェルが来るや否や、手前に座っている体毛の濃い大柄な男が声を荒げる。ルシフェルは柔和な笑みを崩さず自分の席へと足を進めた。


「ライガの言う通り、悪魔の一人が人間にちょっかいをかけたみたいだね」


「まじかよ……それでそいつはどうなったんだ!?まさかクソ共の手で……!!」


「落ち着きなさいライガ。ルシフェル様が自ら赴いたのです。そんなことがあるはずがないでしょう」


 ルシフェルの腰を下ろした席の隣にいた金髪の美しい女性がライガを窘める。そんな女性にルシフェルは笑顔を向けた。


「ありがとう、セリス」


「い、いえ……私は当然のことを言ったまでで……」


 セリスと呼ばれた美女は頬を朱に染めながら顔を俯かせる。そんな様子を楽しみながら、ルシフェルはそのまま視線をライガに向けた。


「その悪魔はちゃんと僕が連れ帰ってきたよ。まぁでも独断での行動だから罰として城の掃除を言いつける予定だけどね」


 ルシフェルが茶目っ気たっぷりに笑う。それを聞いたライガはつまらなさそうに鼻を鳴らした。


「せっかくクソ共との戦争の口実にしようと思ったのによ!」


「ライガには悪いけどまだ戦争はしないよ。リスクしかないからね」


「けっ!!」


 ライガは不貞腐れたように机に肘をつき、そっぽを向く。ライガの態度が横柄なのはいつもの事なので、ルシフェルは特に気にすることもなく、集まった者達一人一人に視線を向けた。


「今日はちょっとみんなに報告があってね。予定していたことじゃないけどタイミングが良かったよ」


「報告……ですか?」


 全く心当たりがないセリスが少し驚いたようにルシフェルに目を向ける。


「うん。実は新しい仲間が増えてね。みんなに紹介したいんだ」


 そう言うとルシフェル腕を上げ、指をパチンと鳴らした。それが合図になっており、先ほどルシフェルが入ってきた扉が音を立てながらゆっくりと開く。この場に集まる幹部達の視線が自然にそちらへと向いた。そして、その扉の先に立っている男を確認すると、ルシフェルを除くこの場にいる全員が驚愕に目を見開く。


 そこに立っていたのは我らが魔族の怨敵、人間の姿であった。


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