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14.誰にでも心の支えは必要

 シルフ達を連れてフローラルツリーに戻った俺は、シルフ達に他の精霊達を集めていくように指示し、フレデリカの部屋に駆け込んだ。

 突然入ってきた俺に目を丸くしているセリスとフレデリカ。なんでだろう、俺はここにセリスの姿があったことに安堵していた。


「クロ様……」


 何かを言おうとしたセリスを俺が手で制する。少し驚いたようであったが、俺の表情を見て、ただ事ではないことを察し、それ以上何も言わずにスッと立ち上がった。こういうところは本当に助かる。


「フレデリカ。すぐに住人を避難させてくれ」


「…………いきなり入ってきたと思えば、どういうことよ?」


「俺はシルフの薬草集めのために一緒に山頂まで行ってきたんだ。その時マグマがせりあがってきているのを確認した。この山はもうじき噴火する可能性がある」


 アロンダイトのことは言わなくてもいいだろう。大事なのは噴火するという事実だけだからな。


「……それだけの情報で住人を避難させるわけにはいかないわ。彼らのほとんどは、あまり街の外に出たがらない子達。避難することに難色を示すかもしれない。確証なければ───」


「そうか、ならいい」


 俺はあっさり言い放つと、振り返ってセリスに目をやった。


「セリス」


「わかっています。住人を集め一気に転移させます。場所はクロ様が以前重力魔法で更地にした場所でいいでしょう」


 あそこか……確かアルカに魔法を見せるってことで俺がやりすぎた場所だな。こんな時に役に立つとは思わなかったが昔の俺グッジョブだぜ。


「それでいこう。シルフ達に住人を集めてもらっているからそこに急ぐぞ」


「はい」


 俺の言葉を何一つ疑わずに頷くセリス。正直ありがたいな。色々聞かれても説明している時間がもったいない。


「ちょ、ちょっと!そんな勝手に……」


「フレデリカ、お前は転移魔法は使えるのか?」


「つ、使えるけど……」


「そうか。なら、やばそうだったらお前も適当に転移しろ。俺たちは一足先に住人を転移させる」


 それだけ言うと返事も聞かずに、俺はフレデリカの部屋を後にした。


 大急ぎで街の入り口に行くと、既に結構な数の精霊達が集まっているのが目に入る。それでもまだ全員じゃないだろうな。何とか間に合えばいいが。

 不安そうな顔をしている者達に俺は声を張り上げた。


「フローラルツリーの者達よ!緊急事態につき、あんた達にはこの街から避難してもらう!」


 俺の言葉を聞いても動揺した気配はない。おそらくシルフ達が簡単に事情を説明しているのだろう。あいつらに任せて本当に良かった。


「見知らぬ場所に行くことになるが、不安になることはない。あんた達は俺とセリスの転移魔法で魔王城の近くに移動してもらう。そうすれば、あの魔王があんたたちを守ってくれるだろ」


 実際にはフェルには何も言ってないからあれだけど、あいつは勘が鋭いから、万が一何かあれば住人たちを守ってくれるだろ。つってもあそこは何もない更地だから万が一もないとは思うがな。


「とりあえずここにいる連中を転移させる。セリス、残ったやつらを集めて転移の方頼む」


「わかりました」


 俺は住人達に手をつながせ、そのうちの一人の肩に触れながら大規模転移魔法を発動する。すると、一瞬のうちにフローラルツリーから魔の森付近へと移動した。


 すぐに見覚えのある景色が目に飛び込んでくる。チラリと目をやると精霊達は不安そうにあたりをキョロキョロと見回していた。

 まずいな……不安が募りパニック状態になって森にでも入られたら収集つかんぞ。もういっそのことこの森全部ぶっ潰すか?

 物騒なことを考えていると、近くに強大な力を感じた俺はバッとそちらに目を向けた。


「やぁ!フローラルツリーのみんな!」


 そこにはニコニコと笑みを携えた魔王の姿があった。まじかよ。何の説明もしてないぞ?


「ここは安全だから安心してね!何も起こらないと思うけど、僕がついているから」


 フェルの言葉を聞いた精霊達は目に見えて安心したようだ。やっぱり魔王様のカリスマっていうのは偉大だってことだな。いつもは何の役にも立たないがこういう時は本当に頼りになる。


 …………ってか森の一部を潰したことって報告しましたっけ?


 なんか前にこの森は侵入者を阻むためにフェルが手塩にかけて育てたとかいう話を聞いたような聞いていないような。…………さーってと俺はフローラルツリーに。


「クロ指揮官、ちょっと待ってくれるかな?」


 転移しようとした俺の肩をフェルがミシミシッと音がなるほど力をこめて握った。痛い痛い!肩とれる!!つーか魔王様はニコニコ顔なのになんで目が笑っていないんだ?


「僕の自慢の森に、いつの間にこんなでっかい更地ができたのかな?」


 あっ……。


「い、いやー……ちょっと存じ上げませんねぇ……」


「そうなんだ!じゃあ自然現象ってことかな?」


 フェルが納得したようにポンと手を叩く。そうそう自然現象だよ。こんなの人間の力でどうこうなるようなもんじゃねぇだろ、常識的に考えて。


「そういえばこの前アルカが『パパがすっごい重力魔法を見せてくれたー』って嬉しそうに僕に話してくれたんだよねぇ」


 ……バレてますわ、これ。アルカさんや、今度から魔王様に余計な事をいうのはやめよう。お父さんとの約束だ。


「まぁ、今はいいや。とりあえずフローラルツリーの方はまかせたよ」


「お、おう!まかせとけ!」


 ゆ、許された!!


「色々終わったら植林作業頼むから」


 ……許されてなかった。



 そんなこんなでセリスと二人でフローラルツリーの住人すべての避難完了。シルフ達に今点呼をとってもらっているから、それが終われば問題なしだろう。


「ウンディーネの点呼終わったよ!」


「サラマンダーもです」


「シルフはみんないるよー」


「ノームの確認、終了したでござる」


 よし、とりあえず最悪の事態は防げたな。後は噴火にフローラルツリーが耐えられるかどうかだ。


「…………彼女は避難しないだろうね」


 フェルの小さい声を俺の耳がとらえる。俺が振り向くとフェルは困り顔で肩を竦めた。


「そんな怖い顔されても困っちゃうよ」


「なんでフレデリカは避難しないって言えるんだ?」


 フェルに問いかけているが、どこか納得している自分もいた。なんとなくだがあいつはあそこから動かない気がした。理由は定かではないが。


「フローラルツリーは彼女の心の支えだからだよ」


「心の支え?」


 その理由をフェルは知ってるっていうのか。俺が眉を顰めるとフェルはウンディーネの集団に目を向けた。


「彼女が他のウンディーネとは違うことはもう知っているね?」


「それは性格がってことか?」


「うん」


 そんなもんフローラルツリーに行けば嫌でもわかる。普通のウンディーネは知らない人と話すとテンパってしまうような引っ込み思案な性格で、フレデリカは誰と話すときも堂々とした立ち振る舞いを見せる。真逆といってもいいくらい性格が違った。


「彼女も元々はああいう性格だったんだ」


「なっ……そうなのか?」


 フレデリカが引っ込み思案な性格……正直俺には想像もつかん。


「何を言われてもやられても嫌とは言えない性格……結構苦労したみたいだね。あの美貌だから」


 引っ込み思案で美しい女。そんな娘を糞みたいな男が見つけたらどうなるか。フェルが多くを語らなくとも、俺には容易に想像がついた。どこの誰だか知らねぇ野郎どもがフレデリカを傷つけた。精神的にも、肉体的にも。


「…………大丈夫。そいつらは僕が処分したから」


 おっと、また感情が顔に出てたみたいだな。やばいやばい。


「それを機に彼女は変わろうとした。精霊族の中で誰よりも強く、誰よりも気高く、誰よりも美しくあろうとしてね。その目標があのフローラルツリーなんだ」


 だから心の支え。フレデリカにとっては神にも等しいんだろうな、あの木は。そんな大事なもんが噴火のせいで危険にさらされるなんて知ったらどうするか……そんなもんはわかりきっているだろ。


「まったく……世話の焼ける女ですね」


 いつの間に俺の後ろに立っていたセリスが呆れたように首を振った。あぁ、俺も全く同じ気持ちだぜ、セリス。


「どうする、クロ?僕が行って説得してもいいけど」


「ししししし指揮官様っ!!」


 フェルの言葉の途中でウンディーネのレミが俺に声をかけてきた。


「ああああああ厚かましいとはおおおお思いますが!ど、どどどどうか!どうかフレデリカ様をたたたた助けてください!!!」


「レミ……」


「ああああああの方は、いいいいいつも精霊族のことを第一に考えてくれる、ここここここ心優しい方なんです!!!」


 レミが何度も何度も俺に頭を下げる。俺がそれを止めようとすると今度は足元から声がした。


「指揮官さま!指揮官さま!フレデリカさまを助けて!」


「指揮官さま!指揮官さま!フレデリカさまを救って!」


 次々と地面から顔を出したノーム達が俺に必死に訴えかけてくる。


「僕達からもお願いするよ!」


「指揮官様、お願いします……」


「お願いだよー!助けてよー!」


「最早頼れるのは貴殿しかおりますまい!何卒フレデリカ様をお頼み申し上げる!」


 シルフ達もか。お前ら精霊達にとってフレデリカは大事な長なんだな。


「ミーからもプリーズ!フレデリカ様はミーにとって」


「お前は黙れ」


「ホワッツッ!?」


 こいつの扱いはこれでOK。

 

 俺は縋るような視線を向けている精霊達をぐるりと見渡す。その表情を見れば全員が同じことを考えているのは一目瞭然だな。こんなにも精霊族の奴らに頼まれて動かないんじゃ、魔王軍指揮官としての名が泣くぜ。


「安心しろお前ら!俺がちゃんとフレデリカのこと護ってやるからよ!だから、お前らはここで困ったリーダーの帰還でも待っててくれや!」


 俺の言葉に歓声があがる。フレデリカの奴、人望ありまくりじゃねぇか。俺は小さく笑う、と後ろに立っていたセリスに顔を向けた。


「……ダメだって言ってもついて来るんだろ?」


「今は勤務時間外なので、あなたの言うことを聞く義務はありません」


 涼しい顔でセリスが告げる。昨日も全く同じことを言われたが印象が雲泥の差だ。俺は苦笑いを浮かべながらセリスの肩に触れ、転移魔法を発動させた。


 さて、木に恋するロマンチックなお姫様をさっさと迎えに行ってやるかな。


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