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10.ストレスは適度に発散するのが吉

 そんなこんなで三週間がたち、フェルの言っていた幹部会まで後一週間というところまで来ていた。

 この三週間、ゴブ太達のところへと赴いた以外はほとんど同じことの繰り返し。

 朝一でフレデリカのところへ行き、セリスとフレデリカの諍いに付き合わされる。そして素材を回収に行き、夕方報告に行くと当然のように諍いのおかわりが待っていた。


 それは小さい事なのだが、フラストレーションとして知らない間に俺の中に溜まってしまっていたようだ。

 ……だから、それが爆発しちまうのだってしょうがない事なんだよ。



「いつも悪いわねぇ。魔王軍の指揮官様なのに小間使いみたいな事をやらせてしまって」


 俺から頼まれていた素材を受け取りながら、フレデリカが困ったような笑みを浮かべた。おぉ……中々に憂いを帯びてて魅力的な顔じゃねぇか。最近はセリスとの言い合いばっかで怒った顔か、馬鹿にした顔しか見なかったから、たまにこういう顔されると男心くすぐられるな。

 とりあえずキリッとした顔しておくか。


「気にするな。これも指揮官としての仕事だ」


 イケメン!俺の発言イケメンすぎる!顔はともかく、今のはかなりダンディズム溢れるセリフだったろ?ってやかましいわ!顔もイケメンじゃ!


「あら、かっこいい事言ってくれるじゃない?惚れちゃうかもよ?」


 男が勘違いするセリフランキング第2位、「惚れちゃうかもよ?」いただきました!ちなみに1位は「彼女いるんですか」だ!いいか、世の女性達よ……その気もないのにその質問はしたらあかん!

 ……ちなみにこのランキングは俺の独断と偏見によるものです。実際の事実とは異なる場合があるのでご容赦ください。


 っと、この辺で会話を切らないといつものが始まっちまうな。


「じゃあ今日の依頼は完了って事で俺達は帰るわ」


 セリスのスイッチが入る前にお暇しないとな。俺はさっさとフレデリカに背を向け、部屋を出て行こうとした。


「ちょっと待って」


 だが、そんな俺をフレデリカが呼び止める。なんだ?また俺に過度なボディタッチをしてセリスを刺激するんじゃねぇだろうな。

 俺は心の中でため息をつきながら振り返った。しかし、予想と反してフレデリカが俺に近づいてくる気配はない。


「いつも頑張ってくれている指揮官様をおもてなししたいんだけど、ディナーでもどう?」


 おっと……これは初めての展開ですね。今まで散々エロいアプローチを受けてきたが、この手の誘いはされたことがねぇな。

 でも、今までに比べれば大分健全なお誘いかな?今日の仕事は終わっているだろうし、セリスも文句はないだろう。


「行くわけないじゃないですか」


 と、思っていたけどなぜかセリスが断りを入れた。いや、なんでお前が断るんだよ。


「クロ様があなたみたいな人と一緒にご飯を食べるわけがありません。仕事はもう終わっているんですから、関わらないでいただけますか?」


 ……随分辛辣な物言いだな。

 いつもは言い返してくるフレデリカなのだが、今日は何も言わずにセリスを見つめていた。


「とにかく私達は帰らしていただきます。食事ならあなたを慕っている部下の人とでも行ってください。そんな方がいればの話ですが」


 セリスはそれだけ言うと俺の腕を引き、部屋から出ようとする。だが、俺は足を踏ん張りこの場に留まることを選択した。そんな俺にセリスは驚きの視線を向ける。


「……クロ様?」


「少し言い過ぎだぞ、セリス」


「言い過ぎって……!!」


 セリスは俺の真剣な顔を見て、出しかけた言葉を飲み込んだ。


「普段はフレデリカの方にも非があるから、お前らの言い合いには口を出さなかったが、今のは明らかにセリスが悪い」


「私が悪い?あなたの事を秘書としてあの性悪女から守って差し上げただけですが?」


「誰もそこまで頼んでないだろ」


 守ってあげた?俺をもてなそうとしてくれたフレデリカからか?そんなもん糞食らえだ。俺が硬い表情のままなのを見て、セリスの目がスッと細まる。


「……そう言う事ですか。フレデリカと一緒にご飯を食べるチャンスを勝手に不意にした私が気に入らないと」


「そういう事を言ってるんじゃねぇよ。俺はお前の言い方が気に入らなかったんだ」


「なら私が断らなければクロ様が断っていましたか?」


「なんで断る前提で話が進んでんだよ!オーガの時は何も言わなかったじゃねぇか!」


「っ!?そ、それは……!!」


 リヴァイアサンを倒し、無事に帰ってきたお祝いで行った宴に関してはセリスは嫌な顔一つしていなかった。むしろ親睦を深めることができると喜んでいたくらいだったのに。今回もその時と大差ない状況なはずだ。


「オーガとこの女では魔族性が違いすぎます!クロ様をディナーに招待して何かにつけて誘惑するに決まっています!」


「仮にそうだとしても、何か問題があるのか?」


「なっ……!?」


 セリスが大きく目を見開く。


「セリスは前に言ってたよな。仕事中なのに鼻の下を伸ばしすぎだって。確かにそうだ。そのせいで仕事を仕損じたり、手を抜かれたりしたら秘書としてたまったもんじゃねぇよな」


「…………」


「だけど、もう今日は仕事は終わり完全なプライベートな時間だろ?なら誰に鼻の下伸ばそうが、誰に誘惑されようがお前には関係のない話だろ」


 セリスは何かに耐えるようにグッと下唇を噛み締めていた。そして、ずっと俺を睨んでいた視線を下に向けると、消え入るような声で呟く。


「…………勝手にしてください」


「あっ、おい!セリス!!」


 俺の制止も聞かず、セリスは乱暴に扉を開けると、そのまま外へと飛び出した。


 俺は舌打ちをしながら頭を掻き毟る。


「……悪い。秘書の教育がなってなかったな」


「いえいえお構いなく。指揮官様も大変ね」


「ディナーはまた今度って事で」


「えぇ。気長に待っているわ」


 俺はいつものように微笑んでいるフレデリカに軽く謝罪すると、急いでセリスの後を追った。


「おい!セリス!待てって!!」


 俺の言葉は聞こえているはずなのに、セリスは一切止まらずにフローラルツリーの枝を渡っていく。ちっ、完全にシカトモードかよ。

 俺は転移魔法でセリスの目の前に移動した。セリスは一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、すぐに俺に背を向ける。


「別にこっちを向かなくてもいいから俺の話を聞け」


「……今は勤務時間外なので、あなたの言うことを聞く義務はありません」


 くっ……さっきの俺の言葉を逆手に取りやがったな。


「じゃあ、俺が勝手にしゃべる。セリス、お前最近変だぞ?お前とフレデリカがどれくらい仲悪いかなんて知らねぇが、それにしても俺とあいつの絡みに敏感に反応しすぎ」


 セリスとフレデリカの言い合いの開始は、決まってフレデリカが俺に過剰なスキンシップをはかるとき。なぜかセリスはむきになってそれを阻止しようとする。


「今回に関してはどう考えてもお前が悪いだろ。フレデリカは街の長として素材収集という形で貢献している俺に恩を返そうとしただけなのに、それをきつい言葉で妨害した」


「……フレデリカはそんな殊勝な女ではありません」


 ぽつりと返された言葉。こっちに顔を向けないがどうやら話はしてくれるようだ。


「もしそうだとしてもこの視察の目的は魔王軍の幹部と仲良くなることだ。それなら仕事終わりに食事に行くっていうのは別に悪いことじゃないだろ」


「…………」


「まぁ、いつもあんなに激しく言い合いしている相手だ。セリスの気持ちもわかるけど───」


「あなたに私の気持ちなんてわかるはずありません!」


 不意に張り上げられた声。だけど、俺の方を見ないからセリスが今どんな顔をしているかわからない。


「わからないってお前───」


「わかるはずないんです!!だって誰にも言っていませんから!!」


 その声は叫び声に近かった。


「なら言えばいいじゃねぇかよ」


「こんなこと誰かに言えるわけないじゃないですか!!!」


 こんなことってどんなことだよ。セリスが何のことを言っているのかまじでわからん。


「そうでなくてもあなたには絶対わかりません!どうせ口うるさい秘書だ、くらいにしか思ってないんですよね!?私の事なんて考えたこともないんですよ、きっと!!」


 …………なんだと?


「勝手に決めつけんなよ。お前に俺の何が分かるんだよ?」


「えぇ、わかりませんとも!あなたはただの上司、別に知りたいとも思いません!!」


 ただの……?お前にとって俺はただの上司なのか?俺にとってお前は……。


 俺の身体が沸騰したように熱くなっていく。


「だったらお前もただの秘書でいいじゃねぇかよ!お互い興味なしでそれでいいだろうが!!」


「っ!?そ、そうです!!興味なんてありません!!だからさっき『勝手にしてください』って言ったじゃないですか!!あなたがあの女にどうされようとも私には関係ありません!!」


「なら最初から俺達の会話に入り込んでくるんじゃねぇよ!」


 関係ない、って思ってんならいつもみたいに静かに後ろで控えてればよかったじゃねぇか!あいつが俺に本気で擦り寄ってないことくらい、セリスならわかんだろうが!


「あなたみたいに浮ついている人は私がしっかりサポートしないといけないと思っただけです!!それも大きなお世話だったみたいですけどね!!」


「あぁ、大きなお世話だね!!セリスのサポートがなくても俺一人で何とかなったわ!!むしろお前ら二人の言い合いを聞いてるとげんなりすんだよ!!」


 セリスの肩がビクッと震える。


「……そうですか。なら私はいりませんね?新しくフレデリカを秘書にしたらどうですか?あなたにとって秘書なんか誰でもいいんでしょ?」


 セリスが静かな声で告げる。秘書なんて誰でもいいんでしょ?その言葉が俺の理性を吹き飛ばした。


「それはいい考えかもな!フレデリカはセリスと違って可愛げもあるし、なにより俺にぐちぐち言ってきたりしないもんな!セリスが秘書になってから一番ためになるアドバイスだったよ!!」


 売り言葉に買い言葉。そんな感じで俺は本心でもない言葉を吐いていた。


 セリスがバッとこちらに振り向き、俺の事を睨みつける。


 その目からは涙が流れていた。


 それを見て俺は言葉を失う。


 セリスはすぐに俺から顔を背けると、転移魔法でこの場からいなくなった。残された俺はセリスが今まで立っていた場所を見ながら顔を歪める。


 魔族領に来てからこんなにもイライラしたのは初めてだ。いや、生まれてから考えても初めてかもしれない。


「…………くそっ!!」


 悪態をつけど収まることのない怒り。フローラルツリーの木の上で俺は佇むことしかできなかった。


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