8.英語を混ぜる奴はテンションが高い
フローラルツリーに戻ってきた俺達は手分けして材料を運び込むことにした。俺は粘土を持ってサラマンダーとノームの所へ、そして、セリスはワームを持ってウンディーネの所へって感じに。
セリスの奴は最後の最後までワームを運ぶことに抵抗していたけど、なんとか説得した。あのウンディーネのレミって子は完全に俺にビビっていたからな……俺が行ったらまた訳のわからんこと言ってくるだろ。
それで俺は陶磁器を作っている工房とやらに足を運んだんだが……。
「人間?人間?お前人間?」
「人間?人間?なんで人間?」
何故だか二足歩行するモグラ達に囲まれていた。
工房はフレデリカの言った通りにフローラルツリーの一番下、というか根っこの部分に洞穴があり、そん中が工房だった。とりあえず入り口で挨拶をして、ズカズカ中に入って行ったら、このモグラもどきに囲まれたってわけ。
しかしこいつら…………。
「人間?人間?僕たち倒す?」
「人間?人間?僕たち傷つける?」
つぶらな瞳で不安そうに首を傾げている。可愛すぎる。
大きさもゴブリンより少し小さいくらいとちょうどがいい。まじで飼えるものなら飼いたい。持って帰りたい。もふもふしたい。
「あー……多分フレデリカから話があったと思うけど俺は魔王軍指揮官、クロだ」
俺の言葉を聞いたモグラもどき達から不安げな表情はなくなり、嬉しそうにはしゃぎ始めた。
「指揮官さま!指揮官さま!初めて見た!」
「指揮官さま!指揮官さま!僕たちはノーム!」
「指揮官さま!指揮官さま!よろしく!」
なにこれやだこれ。愛くるしいことこの上ない。なんて可愛いんだこいつら……いや、可愛さランキング不動の一位は当然アルカよ?ただ二位は間違いなくノーム達だ!
そもそもアルカとノームの可愛さは根本的に違う。アルカは娘としての可愛さ、ノーム達は小動物ちっくな可愛さ。所詮はペット止まりということだ!
「指揮官さま!指揮官さま!こっち来て!」
「指揮官さま!指揮官さま!工房案内する!」
ノームが小さい手で俺の腕を掴み、一生懸命引っ張った。あっ、今ちょっとランキングが揺らぎかけたわ。
ノームに手を引かれ洞窟の中を進んで行くと広い場所に出た。地下空間を半球状にくり抜いただけの場所だがかなりの広さがあるな。
「指揮官さま!指揮官さま!ここが僕たちの工場!」
「指揮官さま!指揮官さま!僕たちはここでお皿を作ってる!」
そうかそうか。俺説明してくれたノームに手を伸ばし優しく頭を撫でる。すると他のノームも「僕も!僕も!」とワラワラ集まって来た。なにここ天国かよ。
「フレデリカに言われて粘土を持ってきたんだけど、どこに置けばいい?」
俺の言葉にノーム達が歓声をあげる。
「指揮官さま!指揮官さま!優しい!」
「指揮官さま!指揮官さま!ありがとう!」
「指揮官さま!指揮官さま!粘土はここに置いて!」
なんなんこれ、完全にマスコットだろ。これを可愛く感じない奴がいたらそいつは人間じゃねぇ!
俺はノームに指示された所に空間魔法から取り出した粘土を積み上げた。
「アメィジィィィィング!!」
突然俺の背後で大声が上がる。振り向くと服を着ている赤いトカゲ人間が俺を見ながら両腕を開いていた。
多分、このモグラもどきがノームであれ、あれは協力して陶磁器を作っているっつーサラマンダーだな。火の精霊なだけあって身体が赤いのか。
「グレイトだよ!指揮官様!まさにグッジョブ!!ちょうど粘土不足っていうトラブルにヘディックしてたんだよ!!」
なるほど。
「まさに俺達のヒーロー!別にヒューマンだからってノープロブレム!大事なのは五感とインスピレーション!ミーのハートがあんたとトゥギャザーしたくてたまらなくホットになるのさ!」
ノームの愛らしさに癒されただけ今日はここに来た甲斐があったな。粘土も送り届けたことだし、さっさと退散するか。
「ノォォォォォォォォ!!!シカトはノーグッド!!せっかくここまでカミングしたんだからミーとスピークしましょうよコマンダー!!」
俺が何も言わずに出口へと歩いて行くと、サラマンダーの男は慌てたように俺に駆け寄ってくる。うるさい、黙れ。近づくんじゃねぇ。誰だよコマンダーって。
俺が心底迷惑そうな顔を向けると、サラマンダーの男は何やらくねくねと踊りながら頭を悩ませ始めた。
「アーハン?それはノットアンダースタンなフェイス!コマンダーの頭をコンフューズさせるファクターは一体なんだ!?」
うん、お前だよ。お前の言動が俺の頭をコンフューズさせてんだよ。普通に喋れ普通に。
「オーライ!ミーは理解したよ!ずばりコマンダーはミーの事がミステリアス過ぎて困っていたんだね!ミーはファイヤーのスピリット!サラマンダーのギルギシアンがミーのネームね!ナイストゥーミートュー!!」
そういや今日は早く仕事が終わりそうだな。久しぶりにアルカとお風呂でも入ろうか。
「全然ミーのトークをリッスンしてない!もうアンハッピーな気分だよ……」
ギルギシアンがオーバーリアクションで床に手をついた。そして、この世の終わりみたいな顔をしながら床をどんどんと殴りつけている。
はぁ……マジでこいつなんだよ。
なんかもう全てがうっとおしい。何を言ってんのかわからない上に、何がしたいのかわからん。床殴りながらチラチラこっち見てくんじゃねぇよ。
つーかこいつがギャーギャーやかましいから、俺の周りにいたノーム達がみんな地面に潜っちまったし。せっかくマスコットキャラを見つけたっていうのによ。くそが。
俺が無表情で見ていると、ギルギシアンはむくっと立ち上がり俺に手を向けた。
「さぁ!ショウタイムですよ!コマンダーに我々のクリエイティブな仕事っぷりを見ていただきましょう!」
ギルギシアンはまるで舞台俳優のように俺に言葉を投げかけてくる。今の落ち込んでいた芝居はなかったことにするんですかそうですか。こいつは中々にメンタルが強そうな奴だな。
「まずはミーのパートナーがエクセレントな手腕でサプライズさせるよ!ノーム達!GO!」
ギルギシアンの声に誘われて地面から飛び出して来たノーム達がちょこちょこと俺が持って来た粘土に集まっていった。そして両手で粘土をちぎるとその場に座り、こねくり回し始める。
一見子供が泥遊びしているようにしか見えないが俺にはわかる。息をするように地属性の魔法陣を生み出し、粘土に他の土を混ぜ合わせていた。
なるほど、流石は地の精霊と呼ばれているだけはある。魔法陣の組成から発動、その効果まで一切の無駄がない。ありゃ地属性の魔法陣は俺なんかより達者だな。
「ノーム達は土のスペシャリスト!焼き物の土をメイキングしながら、窯だってちょちょいとやっちゃう、まさにパーフェクトなクラフターなのさっ!!」
おぉ!あっちでは窯を作っているのか!雪で作ったかまくらみたいな形をしてんな。それでこっちでは、さっきまでぐちゃぐちゃと土をこねていただけなのに、その土がもうお皿やら花瓶やらに姿を変えてる。中々に仕事が早いな。出来上がったものをノーム達がどんどん窯へと運んで行く。
いやーそれにしても一生懸命お皿を作っていたノーム達は可愛かったなぁ。指揮官権限で小屋に連れて行くこととかできねぇかなーできねぇよなぁー。
「さぁ!ここからはミーにチェンジ!マイフレンズが手塩をかけてクリエイトした作品だが、まだアーティスティックとは言えない!ミーのパワーで完璧なアートに生まれ変わるのさ!」
頼まれていた材料を届けに来ただけなのに、中々いいものを見る事ができたな。さて、そろそろセリスのところに合流しないとな。
「その両の目をしっかりオープン!ミーのファイヤーを見れるのは一瞬だけだからアテンションプリーズ!!そしてミーをリスペクトしてください!」
サラマンダーの名に恥じない火属性魔法陣の構築具合だな。よかったね。じゃあ俺は行くよ。
「いきますよ!!これがミーの…………ってあれ?指揮官様?嘘ですよね?帰るフリですよね?」
なんか後ろで言ってるけど仕事の邪魔しちゃ悪いから。じゃっ。
「えぇぇぇぇ!?いやっ!ええええええ!!?」
洞窟内にギルギシアンの声が響き渡る。俺は気にせず工房を後にした。
それにしてもノームもサラマンダーも人間の俺に対してそこまで嫌悪感を示していなかったな。精霊族っていうのはそういうもんなのか?
あっ、でも昨日のウンディーネは結構ビビってたか……いやあれは人間っていうか他人を怖がってただけか。
おっ、考え事してたらウンディーネの工場に着いたな。さっさとセリスと会って家に……ってなんか騒がしいんですけど?
俺は嫌な予感を抱きつつ、ゆっくりと工場の扉を開けた。
「もう我慢なりません!今日という今日ははっきりさせます!!」
「あーら、はっきりって何?どちらが美しいかってこと?そんなの比べるまでもないわ!!」
えーっと……なにこれ。
なんか美女二人が罵り合いながらワームの死骸を投げあってんだけど。
俺はなんとも言えない表情を浮かべながら工場内を見回す。すると、暴走する二人に怯えて一箇所に集まるウンディーネ達が目に留まった。
「レミ、だっけか?」
俺は静かにウンディーネ達に近づき、昨日話したウンディーネの女の子に声をかける。
「しししし指揮官様!?ごごごご機嫌麗しゅう!!」
「あー、そんなかしこまらなくていいから。とりあえずこの状況を説明してもらってもいい?」
俺はセリスとフレデリカの方を指差しながら極力優しい口調でレミに尋ねた。レミは緊張で身を固めているようだが、それでも懸命に説明してくれる。
レミのテンパりながらも教えてくれた事実はこうだ。
たまたまフレデリカが工場にいる時にセリスが集めたワームを持ってやって来た。その時は一瞬睨み合っただけで、互いに顔を背けて無視したんだけど、セリスがワームを空間魔法から取り出している時に事態は急変。
恐る恐るワームを渡すセリスを見て、焦れったい思いをしていたフレデリカがその作業に参戦。
セリスのことをバカにしつつ、慣れた手つきでポンポンとワームを大きさ別に分けていると、その一つがセリスの顔面に直撃。その瞬間セリスの中のなにかがぶち壊れ、この死のワーム投げが始まったらしい。
なるほど、想像を超えるくだらなさだった。
俺はキャットファイトを繰り広げる二人に目をやる。二人とも周りなんて全く見えてない。互いに相手を屈服させることとしか頭にないようだ。
「悪いな、うちの秘書が騒がせて」
「あああああの、いや、ぜぜぜぜぜ全然そんなことは……!!」
俺が申し訳なさそうに頭を下げると、レミは慌てて両手を前に振る。
俺は即座に転移の魔法陣によりセリスの後ろに移動し、その襟首を掴んだ。
「っ!?ク、クロ様っ!?」
「あら〜指揮官様じゃな〜い!」
セリスは突然現れた俺に目を見開いたが、フレデリカは嬉しそうに声をあげた。
「セリス、何やってんだ?さっさと帰るぞ」
「あ、あの、その……」
「もう帰ってしまうの?そんな堅物無愛想女なんて放っておいて私といいことしましょうよ」
「あ、あなた……言わせておけばっ!!」
またしてもやり始めそうな雰囲気を醸し出している二人に思わずため息が出る。適当に手をあげてフレデリカに別れを告げると、セリスを掴んだまま転移魔法を発動した。





