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6.どこに所属しようと自分は自分

一章はここまでです!!


次回からは一日一話のペースで上げていきます!!


「よし、これで全員避難できたな!」


 レックスは周りを見回して満足そうに頷いた。途中魔物に襲われることもなく、なんとか麓の村までたどり着くことができた。


「後は……」


 レックスが山の頂の方を見つめる。先程まで山が割れるんじゃないかと思えるほどの破壊音が鳴り響いていたにも関わらず、今は不気味なほど静かであった。


 早速クロムウェルの所に向かおうとしたレックスの手に誰かの手が触れる。


「……マリア」


 自分の手を握ったのがマリアだとわかった瞬間、さっさとクロムウェルの所に向かわなかったことを後悔した。付き合いが長くなくても、今のマリアの顔を見れば、次に何をいうのかは予想がつく。


「シューマン君のところに行くんでしょ?私も一緒に行く」


 その声はいつもおどおどしたマリアからは想像もつかないほど力強いものだった。レックスは困り顔で頭をかく。


「マリア……さっきは魔物に襲われなかったけど、次もそうなるかは」


「好きな人を助けたい。好きな人を失いたくない」


 マリアはきっぱりと言い放った。決して大きな声ではなかったが、力強い意志を感じる。

 レックスは少しの間マリアの目を見つめると、諦めたような笑みを浮かべながら肩をすくめた。


「……飛ばしていくから遅れたら置いていくぞ」


「……!!うん!わかった!!」


 嬉しそうな顔で頷くマリアを見て、レックスは苦笑いを浮かべる。そして身体強化(バースト)をかけると、一直線にクロムウェルのもとへと向かっていった。


 まったくよ、つくづく呪われた人生だぜ。


 どんなに鍛錬しても勝てない男がいるんだぜ。俺が強くなってもあいつはいつも一歩先……いや、三歩先を歩いていやがる。


 色んな相手に好意を持たれても、肝心の相手からは好きって言ってもらえないしよ。


 おまけに惚れた女の惚れてる男がまさかあいつとはな。これじゃ憎まれ口も叩けねぇよ。


 なんたって、あいつは俺の親友だからな。



 たどり着いた場所の景色は先程とは一変していた。自分達が滞在していた館はおろか、そのあたりの土地が丸々消失している。

 自分がアトムとの戦いで吹き飛ばした木や草は一つも見当たらず、何もない荒野とかしていた。


 そんな荒野に佇む男が一人。

 全身黒一色の服装に、持ってる得物まで黒い。その黒が銀色の髪をより一層引き立てていた。

 レックスが辺りを見渡すが、自分が倒した魔族も、自分の親友の姿も見当たらない。


「やぁ、来るのが遅かったね」


 レックスとマリアに気がついたルシフェルが笑顔で声をかける。ビクッと震えたマリアを守るようにレックスが前に立った。


「……俺の親友はどうした?」


「いや……ずいぶん見晴らしが良くなっちゃったね。上にあった豪華な館を吹き飛ばしちゃったけど、謝っといてくれるかな?」


 何かを抑えつけるような声音のレックスに対し、ルシフェルはいたって軽快な口調。


「俺の質問に答えろ。クロムウェルはどうした?」


「あー彼はクロムウェルっていうのか。なんか呼びにくい名前だな」


「おい!!答えろって───」


「消したよ」


 今までの軽い口調が嘘のように、氷のような冷たい声でルシフェルが告げる。後ろでマリアがヒッと小さく悲鳴をあげた。


「なかなかいい線行ってたんだけどね。魔王に楯突いたんだ。それ相応の代価は払ってもらったよ」


「…………」


「あぁ、でも安心して。今日はもう十分楽しんだから僕は帰るとするよ。命拾いしたね、君達」


「…………す」


「親友に感謝しなくちゃ!彼もお星様になって君達をいつまでも見守ってるよ」


「…………ろす」


「ん?なにかな?」


「ぶっ殺す!!!!」


 レックスは怒りのままにルシフェルに突進していく。そんなレックスをルシフェルは何も言わずに見つめていた。


「うぉぉおおぉぉぉおお!!!」


 ルシフェルの顔面に放った渾身の右ストレートは虚しく空を切る。煙のようにルシフェルの姿は消え、高笑いだけがこの場に響き渡った。


「僕の名前はルシフェル。魔族を統べし魔王だよ。親友の仇を取りたいんなら強くなることだ。それじゃあまたね、未来の勇者君」


「待ちやがれぇえぇぇえええぇぇえぇ!!!」


 叫び声が虚しく木霊する。怒りに身を震わせるレックスだったが、その怒りの矛先を見失い、二人の戦いによって露出した山肌に自分の拳を叩きつけた。


「くそ……」


 血が出るのも意に介さず、何度も何度も山肌を殴りつける。ちらりとマリアの方に目を向けるとその場に蹲って嗚咽をあげていた。それを見たレックスの怒りはさらにこみ上げる。


「くそ……くそ……!!」


 魔法で強化もしてない拳でただただ殴り続けた。もう手の感覚などない。だがやめてしまえば、見えない何かに押しつぶされてしまいそうだった。


「くそがぁぁぁぁあぁあぁぁぁあああぁ!!!!!!!!」


 喉がはち切れんばかりにあげた絶叫は、誰にも届くことはなかった。



 はい、みんな大好きクロムウェルさんです。えーっとあれだ……うん、なんか生き残った。

 死なば諸共的な感じで突っ込んだのはいいけど、ルシフェルにうまーく力を上に逃がされちゃってね。そのままへろへろーって力尽きちゃったってわけ。

 それで疲労困憊の俺をルシフェルが転移魔法でどこかに飛ばしやがって、現在どこにいるのかさっぱりわかりません。


 ぱっと見、どっかの王様の私室って感じだなー。訳の分からん鹿の剥製とかあるし。

 とりあえず疲れたからそこにある豪華なベッドに横になってルシフェルを待つことにしたんだけど……このベッドやばい。

 ふかふか具合が常軌を逸してる。こんなところにいたら一分で夢の世界にダイブしちまうぞ、これ。そんなことしたら俺の貞操の危機だ。


 迫り来る睡魔と戦いながら三十分後、転移魔法でルシフェルがやってきた。


「ふぅ、お待たせ……ってなに人のベッドで勝手にくつろいでんの?」


「どこで寛ごうが俺の勝手だ。……やけに遅かったな」


「君の親友をからかってたら遅くなっちゃってね」


 あーあのバカ、山を引き返してきたのか。それでルシフェルと鉢合わせ……ってからかったって何だ?


「お前……まさか殺してないだろうな?」


「まさか!そんなことしたら君が黙ってないでしょ?君は死んだって嘘ついて放置してきただけだよ」


 んー……まぁそれくらいならセーフか。これからの事を考えると、死んだって思われている方が色々と楽だろうしな。


「つーかさっきの話、マジで言ってんのか?」


 俺は自分に回復魔法をかけているルシフェルにジト目を向ける。どう考えても正気の沙汰ではない。


「本気も本気、超本気だよ。さっきは流れで言っちゃったから、もう一度正式に言わなきゃね」


 ルシフェルが真剣な表情で俺に向き直る。なんつーか違和感が半端無い。


「魔王軍に入れ」


「えっ?命令形?」


 さっきと違う。なんか違う。さっきは死力を尽くして戦った俺に笑顔で「魔王軍に入ってくれないかな?」だったのに。


「だって、なんでも言う事一つ聞くんでしょ?」


「うぐっ」


 痛いところをつく。このためにこいつは言質を取り、挙げ句の果てには自分が傷つくのを覚悟で俺の最後の攻撃を上に流したんだよな。そのせいでかなりの深手を負ったみたいだし。


「……なんでそこまでして俺を入れようとすんだよ?」


「うーん……まぁ、強いってのもあるけど、それ以上に一緒にいたら楽しそうだからかな?」


 こいつ、マジでなに考えてるかわからねぇ!多分だけど今の本音だぞ!楽しいって理由で敵を自分の軍に入れるか、普通!?

 俺はため息をつきながら頭をかきむしる。


「はぁ……甚だ不本意だが、約束しちまったからな……」


「それじゃ……!!」


「魔王軍に入ってやるけど、大人しく従うとは言ってねぇからな!人間虐殺してこいなんて命令、鼻くそほじってシカトしてやるわ」


 キラキラした瞳を向けてきたルシフェルに俺は念を押しておく。ルシフェルは満足そうにうんうん、と頷いていた。マジでわけわからんこいつ。


「じゃあ決まりだね」


 ルシフェルは立ち上がると、片腕をお腹に添え華麗にお辞儀をした。なんか様になっててムカつく。


「ようこそ、魔王軍へ」


 こうして俺は人間の身でありながら魔王軍の一員になった。ちょっと俺が思い描いていたストーリーとは違うけど、これはこれでありなのかな?一応、呪い(レックス)からは解放されたわけだしな。まっ、王様に仕えるか、魔王様に仕えるかだけの話だし、一文字しか違わないからそんな大差ないだろ。


 これはモブキャラ一直線だった俺が、国を救う英雄になるか、はたまた国を滅ぼす悪役になるか、この先どうなるか全くわからない、行き当たりばったりな物語である。


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