22.馴れ馴れしいと親しみやすいは紙一重
俺は三バカを連れてアイアンブラッドの街を歩いている。ここへ来たことがないゴブ郎とゴブ衛門は興味深げにあっちこっち見まわしていたが、ゴブ太だけは街の変わりように目を丸くしていた。
「アイアンブラッドの街で話し声を聞く日が来るとは……」
ふっふっふー。驚け驚け。久しぶりに来た俺ですら驚いてんだから。
俺達は一番奥にあるボーウィッドの自宅兼工場まで足を伸ばし、チャイムを鳴らす。ほどなくして黄色い鎧のデュラハン、アニーさんが玄関から顔を出した。
「アニーさん、お久しぶりです」
「アニーさん、こんにちは」
「まぁ……指揮官様……!……お久しぶりです……セリスさんは先日いらして以来ですね……」
アニーさんが礼儀正しく頭を下げる。つーかセリス、お前いつの間にここに顔を出していたんだ?……あー俺が休暇を言い渡した時か。
「……それで……こちらのゴブリンの方々は?」
「は、初めまして!オイラはオルル……」
「こいつはゴブ太。そんでそっちのやせ細ってるのがゴブ郎で、こっちの太っちょがゴブ衛門です」
「よろしくでやんす」
「よろしく~」
「……こちらこそよろしくお願いします……今日は主人に用ですか?」
アニーさんがこちらに目を向けてきたので俺は頷いて答える。
「でも、兄弟は仕事中かな?都合が悪ければまた日を改めて……」
「……クロ様が来たらいつでも工場に通せと言われていますので……案内いたしますね……どうぞ……」
俺達は招かれるままに玄関をくぐった。アニーさんと会話している間、ゴブ太がずっと「デュラハンと会話……ありえない……」とか呟いていたけど、さっさと慣れてくれないと店に支障をきたすんだよなぁ……ゴブ郎とゴブ衛門の方は問題なさそうだな。
「……そういえばセリスさん……この前の料理は作りましたか……?」
「せっかくアニーさんに教えてもらったのですが、なかなか上手くいかなくて…やっぱり火加減が難しいです」
「……そこは慣れですね……でも、セリスさんは料理が上手ですから……すぐにおいしくできるはずですよ……」
……いつの間にかアニーさんとセリスが仲良くなっているんですが。ものすごく蚊帳の外感が半端ないんですが。やはりセリスみたいにコミュ力が高いやつは、すぐに誰とでも仲良くなるんだな。ちなみにコミュ力って言葉、私大嫌いです。
工場にやってきた俺達は、早速お目当ての白銀の鎧を見つけ声をかける。
「おーい!兄弟!!」
俺が大きく手を振ると、気がついたボーウィッドが手を上げて応えこちらに近づいてきた。
「久しいな……兄弟」
「本当だぜ、兄弟」
俺はボーウィッドと軽く拳を突き合わせる。そして、俺の少し後ろにいるゴブリン達にボーウィッドは視線を向けた。
「……彼らが?」
「あぁ。酒場のコックだ」
「……本当に連れてくるとはな……ということはギーに認められたということか……?」
「まぁな。少し時間はかかっちまったけど……あいつも酒場ができたら来たいって言ってたがよかったか?」
「流石は俺の兄弟だな……全然かまわない……俺もギーのことは気に入っている……」
やっぱりな。あいつはコミュ障だからってバカにしたリ憐れんだりしないようなやつだ。そもそも他の種族に興味がない。そういうやつはコミュ障から結構気に入られる。
俺が三バカに目を向けると三人とも静かに前に出てきた。
「は、はじめまして。オイラはオルル……ゴブ太です」
「せ、拙者はゴブ郎でやんす。よろしくお願いします」
「ゴブ衛門です~」
流石に幹部ということもあって三人とも緊張しているみたいだな。ゴブ衛門はそうでもなさそうだけど。
ボーウィッドは三人に顔を向けながら静かに頷いた。
「俺はボーウィッド……この街の長であり……クロ指揮官の兄弟だ……よろしく頼む……」
ボーウィッドが手を伸ばすと、三バカは戸惑ったように顔を見合わせた。
「……俺は魔王軍の幹部ではあるが、気にすることはない……兄弟と同じように接してくれて構わない……どうせ兄弟の事だから堅苦しい関係ではないのだろう……?」
「なんだそうでやんすか。ボーさんよろしくでやんす」
「よろしくね~ボーさん」
「慣れんのはやっ!?お前らそれでいいのか!?」
完全に緊張感がなくなったゴブ郎とゴブ衛門が気安くボーウィッドと握手をする。それを見たゴブ太が焦ったような声を上げた。……今回はゴブ太に一票。お前ら距離詰めんの早すぎ。なんだよ、ボーさんって。
「……ゴブ太もよろしくな……」
「あっ……よろしくおねが……よろしく」
ゴブ太が照れながらボーウィッドの手を握る。よし、挨拶はこんなもんでいいだろう。
「さて兄弟!早速だが」
「……あぁそれはいいんだが……」
ボーウィッドが後ろでアニーさんと話し込んでいるセリスに目を向けた。
「……やっぱりばれたんだな……大丈夫だったか……?」
「……その話はやめてくれ、兄弟……」
その言葉だけで全てを察した兄弟。俺の肩にそっと手をのせるとそれ以上は何も聞いて来なかった。
「……兄弟なら絶対に料理人を連れてくると思って……ちゃんと空き家を一つ用意しておいた……」
「まじかっ!?」
「あぁ……だが、酒場というのは何が必要なのかわからなくてな……包丁や鍋といったアイアンブラッドで用意できるものは用意したがそれ以外は……」
「構わねぇよ!サンキューな!!」
俺がお礼を言うと、兄弟がフッとニヒルな笑みを漏らす。やっぱり兄弟はイケメンだな。顔なんかねぇけど。
「酒場ができるのを楽しみにしているのは……兄弟だけじゃないってことだ……」
「……そうか。ならさっさと酒場を開店させなきゃな!」
俺はクルリと三バカの方に向き直る。
「ということだ。後はよろしく」
「雑かっ!?」
「「はーい」」
ゴブ太はビシッと俺の胸を叩いてきたが、あとの二人は手を上げて元気よく返事をした。なんだよゴブ太。なんか文句あるのかよ?
「いくらなんでも丸投げすぎだろ!?」
「ばーか……そういうのも含めて料理人のセンスが出るんだろ?」
「えっ?」
ゴブ太が目をぱちくりとしている。しゃあない、このバカにしっかりと説明してやるか。
「いいかゴブ太?料理人っていうのは美味しい料理を出すだけが一流じゃねぇ。どんな内装にし、いかにしてお客さんを集めるか、そういうのも全部ひっくるめてやってこそ本物の料理人なんだよ」
「た、確かに……!!」
ゴブ太が納得した顔で何度も頷いている。本当にこいつはちょろくて助かる。店の用意なんて面倒くさくて俺がやるわけねぇだろうが。
「自分でやるのが面倒なだけでやんすな」
「完全にゴブ太は騙されてるけどねぇ~」
「……ゴブ郎とゴブ衛門は兄弟の事よくわかっているな……」
なんか外野がうるさいけど無視。
「よし!オイラやるよ!!最高の酒場を作ってボーさんとクロ吉を招待する!!」
おぉ!なんかゴブ太の瞳に火が付いたみたいだ!!ゴブ太はボーウィッドに空き家の場所を聞くとゴブ郎とゴブ衛門を引きずって工場を後にする。俺は、ゴブ太に首根っこを掴まれ離れていく二人に手を振り返しながら兄弟に向き直った。
「これで目標は達成したも同然だな」
「そうだな……次はどうするつもりだ……?」
「ん?次って?」
「指揮官として……街を視察しなきゃならないんだろう……?」
そうだった。今回デリシアに行ったのは完全に俺の私情のためだ。だから、自ら進んで視察に赴いたのだが、目的が達成された今、別に行きたい場所などない。だけど……。
「俺はアイアンブラッドとデリシアっつー二つの街を見て思ったことがある」
「……なんだ?」
「魔族っていうのは俺が思っていたやつらとはだいぶ違ったようだ。……だから、今は純粋に他の魔族はどうなのか見てみたいって思ってる」
「……そうか」
ボーウィッドが嬉しそうに笑う。最初は視察なんて面倒くさいだけだと思っていたのにな。アルカに会って、ボーウィッドに会って、ギーに会って俺は少し変わったのかもしれない。その一番の原因がセリスだっていうのは俺だってわかっている……認めたくねぇけどな。
「……それなら次はフレデリカがおすすめだな……残っている幹部達の中ではとっつきやすいだろう……」
「フレデリカ、か……」
確か精霊族の長だったよな。薄い青みがかかった肌に白衣を着た、なんとなくエロイ女医さん。しかも、セリスに負けず劣らずの美貌&ボイン。
まー俺はどこに視察に行ってもいいんだけど、他でもない兄弟が言うんだからな?仕方なくそのフレデリカの所に行くっていうか?別にボインが目的ではないっていうか?
とりあえず兄弟のおかげで次行くところは決まった!俺は精霊族のお姉さんときゃっきゃうふふ楽しむ……ゲフンゲフン……精霊族の抱えている問題を魔王軍の指揮官として解決させに行くぞ!!





